ドローンやロボットなどの無人機械で荷物を運ぶ実証実験や、実際に僻地や被災地などに物資をドローンで供給するなどの報道をよく耳にする。少子高齢化による慢性的な人手不足に加え、「物流の2024年問題」を抱える今、一刻も早い無人配送の実現が課題解決につながる、とも思えるが、自動配送ロボットや配送ドローンが普通に稼働する光景はまだ目にしたことがない。
そんな中「Uber Eatsのロボット配達がスタート」というニュースが入ってきた。さらに、「日本郵便が物流専用ドローンを始動」という報道もあり、「機械配送がいよいよ実用化か!」とわくわくした。興味をひいたのが筆者もよく利用する「Uber Eats」。ニュースリリースには「Uber Eatsがロボットデリバリーサービスを提供するのは、米国に続き世界2カ国目となります。Cartkenが設計し、AI 技術を駆使したデリバリーロボットが、三菱電機による日本仕様への適合と導入・運用により、Uber Eatsアプリ上で展開されます」とある。アプリで食事を頼むと、四角いロボットが届けてくれる。受け取るとロボットはすーっと帰っていく。SF映画のような光景だ。
先述の「Uber Eats」、報道によれば、まずはロボット1台、2店舗でサービスを始め、順次広げていくという。筆者はその小規模さにずいぶんと驚いた。公道を走るロボットには、道路交通法が適用される。実はこうした自動配送ロボットが公道を走行できるようになったのは、昨年の4月からだ。経済産業省「2023年4月からロボットが公道を走行します!」には、「2019年に官民協議会を立ち上げ、自動配送ロボットの公道走行実現に向け、産業界や関係省庁等と議論を重ねてまいりました。2023年4月1日には『道路交通法の一部を改正する法律』の施行により、一定の大きさや構造の要件を満たすロボットは、届出制により公道を走行できるようになり、いよいよ自動配送ロボットの社会実装が本格化します」とある。
改正については「令和4年改正道路交通法(遠隔操作型小型車の交通方法等)の概要」がわかりやすい。ここでは「車体の大きさ・構造」「通行方法」「届出制」などが定められている。安全基準ついては「ロボットデリバリー協会」のガイドラインに従う必要がある。自動配送ロボットの公道の走行には、専任オペレーターが遠隔もしくは近接で常時監視を行い、緊急の場合などスタッフが現場に急行する体制を整備、横断歩道や緊急車両への対応などは人が遠隔操作することで安全確保を行う、などの必要がある。「Uber Eats」でも通行人が近づくとロボットは自動で一時停止、専用オペレーターが常時監視、緊急時にはスタッフが急行する仕組みだという。
ただし、道路交通法改正から1年たった今でも、自動配送サービスの実用化への大きな動きがない。それは、オペレーターによる遠隔操作や緊急時対応などにかかるコスト(主に人件費)が問題という。一方、公道を走る必要のない、前述した「自律搬送ロボット」は、物流倉庫内など内部の現場において利用が右肩上がりに伸びている。
空中を飛行するドローンについては、2022年12月施行の航空法改正から1年後の2023年12月、「ドローンのレベル3.5飛行制度」が新設され、無人地帯での目視外飛行が可能となり、ドローンによる配送サービス事業化により近づいた。機上カメラやAIなどのDXにより補助者や看板の配置といった立入管理措置が撤廃、操縦ライセンスの保有と保険への加入だけで、道路や鉄道などの横断も容易になった。
上記により国内のあちこちでドローンを活用した配送サービスが始まりつつある。詳しくは国土交通省「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0」や「ドローンのレベル3.5飛行制度の新設について」を参照しよう。
メリットとデメリット、世界の状況など
日本では自動配送ロボットの公道での運用は、専用オペレーターの監視と、緊急時のスタッフ急行など人手による運行管理が必要で、この人手による管理をどう効率よく、より安全に行うかが課題となる。現状では、ほぼ「人が運んだほうが手っ取り早い」といえる状態で効率的な運行システムの開発など、今後に期待したい。
これらについては、経済産業省「自動配送ロボットを活用した新たな配送サービスについて」には、動画「もっと身近に 自動配送ロボットのいま」や、「自動配送ロボットの社会実装に向けて」や「自動配送ロボット活用の手引き」があり参考になる。自動配送ロボット導入の利点として「物流分野の人手不足対応」「時間を選ばず非対面・非接触の配送」「買物弱者対策」「便利な街づくり自治体支援」の4つが挙げられている。デメリットとして考えられるのは、コスト、安全面のほか、移動スピードが遅いため時間がかかる、臨機応変に対応できない、などだ。
ドローンについては、有人地帯での自律飛行が可能になり、ドローン利用の配送サービスが始まりつつあるものの、こちらもコスト低減が課題。それには、一操縦者による多数機の同時運航、運航管理システムを活用した高密度飛行といった、ロボット同様の取り組みが解決策だという。ドローン活用の利点は、物流に利用できる(荷物を運べる)、コスパに優れる、環境にやさしい、人の立ち入りにくい場所や危険な場所に行けるなどだ。デメリットは、操作ミスや電源不足での墜落、空中交通規制への抵触、犯罪への悪用、プライバシー侵害などがある(ドローンの飛行ルールに関しては国土交通省のページを参照したい)。
では、世界の動向に目を向けてみよう。自動配送ロボットの海外の動きは、「自動配送ロボットの社会実装に向けて」の「海外の動き」が参考となる。今まで600万件の自動配送を行い、毎日何千台もの配送ロボットが世界中で稼働とうたう米「Starship Technologies」は2月に9000万ドルの資金調達を行うと発表、なかなかの勢いだ。「Uber Eats」は米Serve Roboticsの配送ロボット2000台をロサンゼルスで稼働させている。Amazonも一部地域でロボット配送を実現している。中国では武漢市でコロナ流行時に医薬品の配送などに自動配送ロボットが活用され、2020年10月までに600億個を配送したという。都市部向けの自動配送ロボットを開発する「九識智能(ZELOS)」は、2024年3月、美団やバイドゥなどから約1億ドルの資金の調達を発表するなどこちらも勢いがある。
配送ドローンにおいては、EC大手や小売業者、物流企業などでサービス競争が激化している。米ウォルマートは4社のドローン配送企業と提携し、7つの州でドローン配送センター36店舗を立ち上げた。Amazonは商品をドローンで配送する「Prime Air」をイタリアと英国で2024年後半に開始するという。
今後どうなる、傾向と対策
経済産業省が3月6日に開催した「第9回 自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」には、「EVトラックやドローン等と併せて、自動配送ロボットの普及促進を行うことで、物流全体として、GXとDXが促進され、環境負荷削減のほか、食料品・医薬品のアクセス向上や、地域経済の活性化等、様々な社会的価値の創出に繋がる」とある。協議会では、現在実用化しつつある低速・小型の「遠隔操作型小型車」に加え、「より配送能力が高い自動配送ロボット」として「中速・中型」を対象に調査を実施。「より配送能力の高い自動配送ロボットに関する調査事業ついて」によれば、中速・中型の自動配送ロボットの社会実装により「年間約1000億円」の直接的な経済効果および、人手不足で運べなくなる荷物の「約9%をカバー」できるとし、なかなか期待できそうだ。
道路や街中での自動配送ロボットや配送ドローンは、コスト面やコントロール面など課題を抱えているが、今後の活用に大きな効果が期待される。動向を探りつつ今後を見守っていこう。その一方、公道がかかわらない「自律搬送ロボット」やドローンは、AIやカメラなどDXとの連携で、大きな効果が得られる範囲が広がっている。例えば、社内や工場内、倉庫内、敷地内などでの活用が具体的ではないかと思う。
自律搬送ロボットやドローンの活用については「自律搬送ロボット ソリューション」「ドローン ソリューション」などで検索すれば数多く出てくるので、自社に合ったものを探してみよう。場合によってはベンダーに相談してみるのも手だ。人手不足や物流の2024年問題を抱える今、定型業務などを自動化して業務効率化・生産性向上を図るRPAなどと共に、自動配送ロボットや配送ドローンの活用は必須ともいえるようになるはずだ。動向を探りつつ、検討・導入していこう。
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