冒頭に紹介した「2023年のキャッシュレス決済比率を算出しました」には「我が国のキャッシュレス決済額及び比率の推移」グラフが掲げられており、全体的に順調に伸びているのがわかる。
2023年3月の「キャッシュレス将来像の検討会 とりまとめ(概要版)」(経済産業省キャッシュレス推進室)によれば、「キャッシュレス」とは「物理的な現金(紙幣・硬貨)を使用しなくても活動できる状態」と定義するとある。続いて見ていこう。
ここでは取引相手に直接手渡しすることで取引する「現金」に対する「主なキャッシュレス手段」として、「口座振込/自動引き落とし」「カード/電子マネー」「スマホ決済」の3つが挙げられている。
ただし、前述の「2023年のキャッシュレス決済比率を算出しました」における「キャッシュレス決済」には「口座振込/自動引き落とし」が含まれない、という違いがある。
続いて「キャッシュレス推進の社会的意義」として、「キャッシュレス化を実現することで、“既存の課題解決”ד新たな未来を創造”する行動変容を喚起することができる」としている。この2ジャンルでのキャッシュレス推進のメリット(意義)として、2ジャンル8項目を挙げている。まずは1つめの「既存の課題解決」ジャンルの5項目を見てみよう。以下のとおりだ。
2つめの「新たな未来を創造」ジャンルは3項目。こちらも以下のとおりとなっている。
キャッシュレス社会実現の最大のメリットは「消費行動の利便性」という。内容として、財布を持ち歩く手間や現金を銀行やATMで引き出す手間、現金を数える手間の省力化。スピーディな支払いの実現、レジで現金が足りなくなるストレスなどが回避できる。家計管理においても家計簿への転記の削減、消費動向の可視化や分析の効率化などが実現。そんな感じで「消費者の生活がより便利になる」という。
決済比率の内容は? クレカ83%に対して電子マネーなどは一桁止まり
「2023年のキャッシュレス決済比率を算出しました」に話を戻すと、40%に迫るといえど、2023年度のデータ、クレジットカード+デビットカードが86%、電子マネーが5%、コード決済が9%。少し残念に思うのは、「消費行動の利便性」においては、コード決済や電子マネーがより効率性に優れるからだ。
とはいえ、クレジットカードやデビットカードがよく使われるようになった(2010年当時に比べると倍増)のは、なかなかの進歩ともいえる。以前は「カードは使わない」「カード払いは抵抗がある」という人が多数いたからだ。「キャッシュレス将来像の検討会 とりまとめ(概要版)」の71ページには「今後のキャッシュレス決済比率算定式:改訂案」という、キャッシュレス決済比率の新指標が示されている。これは先ほどみたキャッシュレスの定義に伴い、「口座振込/自動引き落とし」なども含む計算式だ。新指標で算出すると、2021年におけるキャッシュレス比率(現状指標32.3%)が「54%」に変わるという。
先述の「キャッシュレス将来像の検討会 とりまとめ(概要版)」には、「キャッシュレス・ロードマップ」をもとに、「世界主要国におけるキャッシュレス決済比率」が示されているが、韓国、中国、オーストラリア、英国などが上位で、日本は下から2番目の10位となっている。各国における計算式の詳細は不明だが、ここで新指標の数字を出したとて、順位はさほど上がらないのが現状だ。
キャッシュレス推進協議会「「キャッシュレス・ロードマップ2023」を公表しました」にある最新の「キャッシュレス・ロードマップ 2023」には、「キャッシュレス決済比率は40%に近づきつつも、国際的にはまだ低位」とあり、「国際的な比較において、国際的なキャッシュレスの進展もあり、我が国はいまだ低位にある状況です。キャッシュレス決済比率40%を到達後も、継続したキャッシュレス推進が必要と考えております」とある。今後は「世界最高水準の80%を目指す」方向で、気を緩めてはならないところだ。
国際動向なども踏まえて今後を予測。傾向と対策は?
「キャッシュレス・ロードマップ 2023」では、千円あたりの支払いにおいて、キャッシュレスのCO2排出量は「0.34g」と、現金での「1.06g」の3分の1の数字となり、「これにより、キャッシュレスをご利用いただくことが、より環境に優しい行動であることが確認できました」と述べられている。今後の環境や未来のためにも、キャッシュレスを推し進めるのがいい方向だ。
キャッシュレス決済は、かなりな省力化になるうえ、現金を扱うリスクも避けられておすすめだ。さらに、スマホ決済ではポイント還元やクーポンなども盛んでオトクだ。ただ、まわりでは「スマホ決済、やってみたいけど、なかなか」「クレジットカードやプリペイドが精いっぱい」という人も多い。悩む人は経済産業省「キャッシュレス決済の“いろは”」を読んでみよう。さまざまな悩みが解決する。
身近な例として、筆者が行きつけのスーパー(スマホ決済非対応)は、半年前、自動精算機が導入された。精算機は現金とクレジットカードの対応だ。最初は現金で支払っていたが、現金を扱うことの面倒さを実感、クレジットカードに切り替えた。こうしてなるべくキャッシュレス決済にシフトしていけば、環境にも人手不足にも、コスト削減にも貢献できていいことずくめだ。近いうちに新紙幣が出てくるというが、現金の利用は減っていくだろう。
消費者や店舗などの対応状況や意識の変化については「キャッシュレス将来像の検討会 とりまとめ(概要版)」「キャッシュレス・ロードマップ 2023」が詳しいので読んでみるとよい。「消費者の生活がより便利になる」のはもちろん、店舗や企業側も、大きなコスト削減や省力化が可能となるため、今後も気を緩めず推進したい。
世界的に見ると日本以上にキャッシュレス化が進んでいる国々は存在する。現状、コロナ禍の終息でインバウンド消費も盛んになりつつある現在、企業や店舗にとっては、より多様なキャッシュレス決済に対応した設備の導入が賢いだろう。また、顧客情報を慎重に取り扱うという観点からセキュリティ面にも十分に留意する必要があることを心得ておきたい。その上で、キャッシュレス決済においては、ソリューションがたくさんあるのでWeb検索などで探す、ベンダーに相談する、などが有効だろう。経済産業省「キャッシュレス」には、低利融資制度などの情報もあるので活用するとよい。「2025年までに4割」の目標はほぼ達成しようとしているが、まだまだ世界的には普及率が低い状態だ。今後は「世界水準の8割」を目指し、より便利で幸せな方向を探っていこう。
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