これによれば、出生数は72万7277人で過去最少(8年連続減少)、合計特殊出生率は「1.20」で過去最低(8年連続低下)となった。また、死亡数は157万5936人で過去最多(3年連続増加)となり、婚姻件数は47万4717組で減少、離婚件数は18万3808組で増加、などが明らかになった。
その中でも注目すべきは、先ほども触れた合計特殊出生率(1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の指標)だ。全ての県が前年より低下、都道府県別では沖縄県(1.60)、宮崎県(1.49)、長崎県(1.49)が高く、東京都は全国で唯一「1」を割り込む0.99となった。その他、北海道(1.06)、宮城県(1.07)が低い。今回、東京都が1を下回ったが、これは前代未聞の事態という。
出生数と死亡数の差である「自然増減数」は、マイナス84万8659人で過去最大の減少となり(17年連続減少)、全ての都道府県で減少。人口千対の自然増減率は、マイナス7.0で前年より0.5低下した。婚姻件数は47万4717組で、前年より3万213組減少、婚姻率(人口千対)は3.9で、前年より0.2低下などが発表されている(詳しくは「結果の概要」を見てほしい)。発表されている「プレスリリース」を参考に小括すると、2023年の日本は危機的な人口減少および少子化の傾向を示している、といえるだろう。
同統計の「人口動態総覧(率)の国際比較」を参照すると世界における日本の状況が見えてくる。これによれば、出生率は下から2番目、死亡率は最も高い。婚姻率は真ん中(5番目)、離婚率は低いほうから2番目となる。合計特殊出生率については、韓国、シンガポールに次いで低いほうから3番目だ。目立つのは日本の出生率の低さと死亡率の高さ。婚姻は多いものの、この出生率の低さは、子どもを持たない夫婦が増えている、と見る向きもある。
この統計発表後まもなくの6月7日に開かれた武見厚生労働大臣の会見によれば、合計特殊出生率が過去最低という厳しい結果から、「実効性のある少子化反転に政策をつなげるためには今何が必要か、加速させていくべき施策を教えてほしい」という記者の質問に、「少子化の進行は危機的な状況だと受け止めています。若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでのこれからの6年間がラストチャンス」と大臣は述べている。
武見大臣は続いて「昨年末に取りまとめられた『こども未来戦略』に基づき、男性育休の取得推進や育児期を通じた柔軟な働き方の推進などの共働き・共育ての推進への取り組みを加速化していくつもり」と語る。具体的には、「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」(6月5日成立)に従い、育児休業給付率の引き上げや、育児時短就業給付、育児期間中の国民年金保険料免除措置などを行っていく。さらに若い世代の所得向上も重要な課題とし、若者の非正規雇用から正社員転換のための事業主への支援、「わかものハローワーク」などによる就職への支援、非正規雇用の若者の処遇改善のための同一労働同一賃金の徹底など、労働市場改革への取り組みを行うという。
これらの施策は「こども家庭庁」などと連携しつつ、「きわめて深刻な少子化傾向の歯止めに全力を尽くしたい」と大臣は述べた(「異次元の少子化対策」といわれる「こども未来戦略」については「こども未来戦略方針」や「こども未来戦略(リーフレット等)」などが参考になる)。
さらに少子高齢化が進展し、働き手不足なども懸念材料に。対策は?
日本経済新聞の記事「1~6月の人手不足倒産、前年比7割増 過去最多ペース」によれば、「人手不足が原因の倒産件数が2024年上半期に前年同期比7割増の182件」だったという。これは過去最多だった2023年を上回る勢いだ。2024年4月に時間外労働規制が適用された物流や建設業界を中心に、働き手を確保しづらい小規模事業者の倒産が目立つという。筆者としては「人手不足、人手不足」と口々に言ってはいても、まさか人手不足が倒産の原因になることまでは想像しておらず、ニュースを見てショックに感じた今日このごろである。
また、2024年6月の厚生労働省「雇用政策研究会報告書(案)概要」によれば、いわゆる「人手不足」には、「労働需要超過型の人手不足」(労働需要量に対し労働供給量が追いついていない)や、「構造的な人手不足」(企業側が求めるスキルを持った人材の不足による)、「摩擦的な人手不足」(求人と求職のミスマッチで生じる)などの類型が考えられるという。対策には、処遇改善などを通じた労働参加の促進、リスキリングの強化、労働市場のインフラ整備など、類型に合った処方箋が必要、ということで、なかなか一筋縄ではいかない。
さらに、これまでの雇用政策では労働者の能力向上に向けた施策の充実に重点が置かれてきた面があるが、人手不足が深刻化する今は、「企業が労働者に選ばれる職場をつくる」ための努力を高めることが重要という。例えば、先に紹介した「雇用政策研究会報告書(案)概要」では、人手不足対策として「多様な個人の労働参加」や「労働市場のインフラ整備」に加え、「新たなテクノロジー等を活用した労働生産性の向上」が大きな項目となっている。そして、自動化ツールやITツールなどテクノロジーを活用した生産性向上はもちろん、雇用の質を高める人的資本への投資、技術成長を踏まえたキャリア形成支援や職業訓練、テクノロジーに代替されない人的スキルの深化、生成AIやAIの活用に合わせた働き方改革など多様な方策・視点が紹介されている。
「企業が労働者に選ばれる職場づくり」というテーマについては、本媒体でも「育児・介護休業制度」や「健康経営」、そして「ムリ・ムダ・ムラ」の解消、「5S活動」「D&I」といった広範な視点から解説してきたのでぜひ参考にしてほしい。新たなテクノロジーにおける生産性や労働環境向上については、自社におけるテーマに応じてできることを探ってみよう。最寄りのベンダーや公共の窓口(「みらデジ」「IT経営サポートセンター」など)に相談するのも有効な方策となる。
キャリア形成支援など人材確保の面では、自社の環境や経営理念に応じ「企業が労働者に選ばれる職場づくり」への方策を練っていこう。例えば、「子育てサポート企業」認定を受けられる「くるみんマーク」、女性活躍推進法による「えるぼし」認定制度、女性活躍に優れた企業を選定する「なでしこ銘柄」、優良な健康経営を実践している企業として評価を受けられる「健康経営優良法人」認定制度などを利用して、企業イメージ向上を狙っていくのも手だ。
また近年では、「プライオリティパス」「転職ファストパス」といわれる、内定を辞退した学生が転職などで改めて会社を受け直そうとする際に最終面接からスタートできる特典制度なども話題となっている。こうした発想も取り込みながら、新卒や転職者など若い人材への優遇も行っていきたい。昔と違って現場や営業などでバリバリ働く若い人材が「いくらでも」確保できる時代ではない。ヘタをすると人材不足で倒産しかねない世の中ということを心得て、慎重に対応していきたいところだ。
今後どうなる? 傾向と対策
少し明るい話題もある。総務省「労働力調査(基本集計)2023年(令和5年)平均結果」によると、「2023年平均の完全失業率は2.6%」と、前年と同率となっている。また、完全失業者数は178万人(前年に比べ1万人減少:2年連続の減少)となり、2023年平均の就業者数は6747万人(前年に比べ24万人増加:3年連続の増加)といった具合で、決して就業者数が減っているわけではない。
しかし、今後、さらなる少子高齢化の進展が予測されている(厚生労働省「2040年を展望した社会保障・働き方改革について」)。“課題先進国”とも表現される日本だが、課題の解決に向けてさまざまな挑戦が日々続いている。その先駆的な取り組みを意欲的に取り入れつつ、自社の課題解決も図っていこう。多様性を力に変え、知恵をめぐらせて仲良く快適に。そんな明るい未来に向かって歩いていこう。
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