最近、さまざま分野にAI(人工知能)の活用が広がっています。このAIを活用し、より良いオフィス環境をつくり出す技術が、世界的な企業にてすでに実用化されています。AIを活用したオフィス設計とはどのようなものなのか、どのように変わる可能性があるのかを紹介しましょう。
最先端企業はオフィス環境にこだわる
オフィスの環境は、業務の生産性に大きく影響を与えます。最先端の企業は、生産性や創造性を向上させるために、さまざまなアイデアを取り入れてオフィス環境の改善に工夫を凝らしています。
そうした企業の1つがGoogleです。世界中に拠点を持つ同社の中で、米国オフィスは奇抜なアイデアによるほかでは見られないような環境をつくり上げていることで有名です。例えば、空調の管理にAIを取り入れています。AIは機械学習により、従業員にとってより快適な環境を学びながらオフィスの温度を最適化していきます。
空調管理のシステムを開発したのは、2013年に起業したスタートアップのBuilding Robotics。同社にはGoogleの親会社Alphabetが出資しています。
その仕組みを説明しましょう。オフィス内の空調をコントロールするシステムに、Building Roboticsが開発した「Comfy(コムフィー)」という端末を接続します。そうすると、Comfyを通じてスマートフォンやタブレットから、そのビルの空調をコントロールできるようになります。社員たちは、自分が寒ければ「暖かくして!」、暑ければ「涼しくして!」のボタンをタップして指示を出すだけです。
これだけなら手元のスマートフォンで簡単に空調の操作ができる「よくできた使いやすい空調システム」というレベルですが、ここから先が一歩進んだ部分です。
Comfyはクラウド上で、社員たちが行った空調コントロールの履歴(指示内容や時刻、場所など)と、実際に空調機の設定を変更してその結果変化した室温などの履歴とを基にして、社員にとって快適な室温をAIが「機械学習」(machine learning)によって自ら学んでいくのです。
キモになる技術は機械学習…
「機械学習」について、もう少し深く掘り下げてみましょう。
AIで用いられる機械学習とは、センサーなどのさまざまな計測機器から得られる計測データや、前述のようなユーザーの操作履歴といった行動データなどを解析して、有用な規則やルール、判断基準などを抽出し、判断の精度を繰り返し向上させていくような方法です。
ポイントは「反復的かつ自動的に」学習して、AI自らが判断の際のアルゴリズムを洗練させていくことです。ですから大量に学習することで、どんどん精度が増すのが特徴です。
もちろん機械学習で得られた判断方法がすべて正解という訳ではありません。しかし、判断基準となるアルゴリズムを人間が逐一与えていた頃に比べれば、AIの精度向上の効率化が飛躍的にアップし、近年のAIの応用、実用化に大きく貢献しています。
このようにComfyは実際の空調の操作や室温、その際の外気温などの情報を基に、社員1人ひとりに最も快適な設定や温度、それを実現するためのビル内の空調のパターンなどを学びます。そして、社員が指示や操作をしなくても、さまざまな変化を事前に予測した上で、快適な温度を維持できるようになってきます。
Comfyによるコントロールは便利なだけではありません。無駄な暖め過ぎや冷やし過ぎがなくなるので、空調にかかる電力消費を約20%削減できるという省エネ効果もあります。
生産性を上げるためのオフィスとは?
オフィスの温度がいつも快適なら、集中力が増し業務の生産性は向上する可能性があります。ただ、オフィスでの生産性を左右するのは、温度だけではありません。
Comfyは、空調システムだけではなく、照明や窓、ブラインドのコントロールも可能です。例えば、社員が暑く感じるとブラインドを閉じるなどの制御もできるようになっています。これをさらに応用すれば、温度だけではなく、オフィスの明るさや空気の流れなどもコントロールして、より快適で生産性の高い業務環境を自動的に構築してくれる、“オフィスAI”のようなものをつくり出すことも可能でしょう。
ゆくゆくは、オフィスのレイアウトづくりにも貢献しそうです。デスクや機器などのレイアウトはオフィス環境を考える上で重要な要素ですが、どのようなレイアウトが最適かというと判断が難しいものです。そこでAIに活用して、作業効率や成果物の品質、コミュニケーションやコラボレーション状況などの情報を収集/分析して、最も優れたオフィスレイアウトを構築するというのも十分にあり得る話です。
機器を可動式にして、業務状況に応じて毎日変わる「その日その日に最適なレイアウトになっているオフィス」というのも、効率的かつ刺激的です。実現には時間がかかるでしょうが、毎日出勤するモチベーションも上がるでしょう。
AIの手を借りてつくり出す快適なオフィス空間からは、今までになかった新しいビジネスが生まれてくるかもしれません。
<参照URL>
Comfy / What Is Comfy? | Building Robotics
http://buildingrobotics.com/