一般的に営業職は、口の達者な人材が向いているというイメージを持っている人も多いかもしれません。しかし、実際の営業は話す力よりも、顧客のニーズや心理をくみ取るための聴く力のほうが大切なのです。
対面や電話など営業方法を問わず、傾聴を重視したコミュニケーションは、あらゆるビジネスに活用できます。今回は、商談や日ごろの会話において「聴く」ためのテクニックについて解説します。
話し上手よりも聞き上手の営業が好かれる
営業職に限らず、接客業や販売職などでも、聞き上手な人は相手に好意を持たれる可能性が高くなります。人は、心理的にも「聴く」より「話をしたい」という欲求が強いからです。
会話というコミュニケーションは、受信側と発信側がいて初めて成り立ちます。2者の間で負担が大きいのは実は受信側です。ビジネスにおいて、負担の少ない発信側に営業が立つのは好ましくありません。商談の中で話を聞く労力を払ってまで、商品やサービスを購入しようという顧客は少ないのです。
それよりも、自分の要望やニーズをじっくりと聞いてくれて、必要に応じて問題解決のために必要な材料を投げてくれるような営業と付き合ったほうが、負担は少なく、実りのある商談になります。
コミュニケーションにおいては、どれだけ相手に負担を与えずに意思疎通を図るかが重要です。そのため商談においては、営業が顧客の負担を減らし、心理的欲求を満たす“聴き役“に徹する必要があるのです。
ただし聞くだけではダメ…
「聴く力」というと、とにかく黙って相手の話を聞けばいいと考える人も少なくないかもしれません。しかし、ただ相手の話を聞くのではなく、気分よく話せるような雰囲気をつくり、共感し、会話が広がる話題を提供するなど、さまざまなスキルを組み合わせて活用するのが本当の聴く力です。本稿ではこれを「傾聴力」と表現します。
傾聴する中で、顧客が好む話題や、話しやすくなるための架け橋をつくることで、聞き上手の魅力が発揮されます。
顧客の話を音として聞くことは誰にでもできますが、そこに耳を傾けて適切なタイミングで反応・共感する傾聴力は、意識してもできないものです。
相手の話に対する共感方法は、人によってやり方が異なります。営業が持っている経験や知識量、また顧客のタイプなどによってもさまざまです。そのため傾聴に特化した会話方法など、一概に言い切れるマニュアルはなく、最終的には自分なりの方法を探すしかありません。
傾聴力は一朝一夕で身に付くものではなく、経験や会話における価値観など、さまざまな要因で養われていく個性です。
競合他社との差別化は「人」に表れる
営業は、売り込みよりも顧客の話を聴くことに重点を置いたほうが、結果として成約になる確率も高くなっていきます。顧客の話にじっくりと耳を傾ければニーズもつかみやすくなりますし、人として気に入られれば継続的な関係性も構築されやすくなるからです。
顧客の中には“営業は売り込みをしてくる”と思い込んでいる人もいます。傾聴に特化した会話をすれば、こうした思い込みを緩和し、安心感を与える効果もあるのです。発信が多い営業に対しては“不要なものでも売り付けられる”という顧客の警戒心が強くなってしまうため、受信に重点を置いた営業よりも、顧客に避けられる確率が高くなってしまいます。
一方的な発信ばかりする営業は、サービスや商品の内容を問わず、コミュニケーションの中で顧客に大きな負担を与えています。その結果、たとえ取引が始まっても短期で終わり、継続的な関係性の構築ができる可能性は低くなってしまうのです。
モノやサービスが溢れる現代社会において、もっとも差別化しやすいものはそれを取り扱う“人”です。同じ商品を買うなら、ほとんどの人は安心感や信頼感を持てる人から購入するでしょう。商品やサービス以外で競合他社との差別化を図るのであれば、傾聴力を鍛えて人としての魅力を増すことが最大の武器となります。