長時間座りっ放しでパソコンに向かうデスクワークでは、オフィスチェアの重要性は見逃せません。自分に合わないチェアに座り続けると、肩こりや腰痛といった健康リスクにつながり、作業の効率が落ちてしまいます。
今回は、毎日の仕事を陰で支えるオフィスチェアの中から、特徴的な構造を持った3製品を紹介します。
高級チェアといえばハーマンミラー「アーロンチェア」
高級オフィスチェアの代表格は、米国ハーマンミラーの「アーロンチェア(クラシック アーロンチェア)」です。1994年の登場以来、世界で700万台を超えるベストセラーです。プロダクトデザインの傑作として、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久収蔵品になっていることでも知られます。丸みを帯びた背もたれと座面という、その独特のシルエットに、見覚えのある人も多いでしょう。
アーロンチェアは、デザインに加えて「素材」も特徴の1つです。従来のオフィスチェアは、背もたれと座面のクッションにウレタン材を使い、それを表布で覆うものが一般的でした。ところがアーロンチェアの背もたれと座面は、ウレタン材を使わず、向こう側が透けて見えるほどの粗いメッシュ地が張ってあるだけです。つまり、座る人の体重を張力で支える構造となっているのです。
「ペリクルサスペンション」と称されるこの独特な仕組みは、ウレタン材とは違い、内部に熱がこもらない構造です。この構造の開発には、実に7年もかかったといわれています。
アーロンチェアではこれ以外にも、前傾から後傾までさまざまな姿勢に追従するリクライニング機構を採用。背もたれは、背骨と骨盤の位置を安定させる独自形状となっています。
今年1月には、設計とデザインの大枠をアーロンチェアから受け継ぎながら、素材や操作性などを見直した新モデル「アーロン リマスタード」が登場しています。価格は、いずれも10万円台中盤から後半と高額ですが、長時間座っていても疲れにくい機能性は多くのユーザーが認めています。
先日、新宿に新オフィスを構えたあるIT企業も、スタッフ用のチェアをこのアーロンチェアで統一しています。
“折り紙”構造。イトーキ「フリップフラップチェア」…
日本企業も、アーロンチェアに負けていません。事務用品メーカーとして知られるイトーキは、「平面」を組み合わせて「3次元」を構成する、独特の構造を採用した「フリップフラップチェア」を、2016年に発売しました。日本やドイツ、米国のデザイン賞を多数獲得しました。
フリップフラップチェアは、背もたれと座面に、合計14枚の平面をつなげた形状を採用。山折り・谷折りを重ねた、折り紙のようなデザインが特徴です。この「折り目」が、姿勢の変化に連動して、自然に折れ曲がる構造となっています。
例えばパソコンに向かい仕事をするときは、正しい姿勢がキープできるよう、背もたれの左右部分が閉じ、肩や脇腹を支えます。一方で、上体を大きく後ろへそらした際には、背もたれの左右部分が開いて肩や脇腹のサポートが解除され、リラックスできる姿勢が取れるような構造となっています。
長時間の座り仕事で体への負担を減らすには、時折伸びをしたり座り方を微妙に変えたりして、特定の箇所に力を集中させ続けないことが有効です。本製品は、こうした姿勢の変化にもフレキシブルに追従できる機能性を備えている点が特に優れています。
実売価格は10万円前後。背もたれと座面のカラーは10種類から選択できます。ちなみに「フリップフラップ(flip flap)」という製品名は、英語で「パタパタ」という擬音を表す言葉となります。
立ち座りが多いならオカムラ「Luce」
最後に紹介するのが、座面が「斜め」という異色のオフィスチェア「Luce(ルーチェ)」です。家具メーカーのオカムラ(岡村製作所)が発売しています。
まるで荷物を置いたら滑り落ちてしまいそうな斜めの座面は、初めて見た人は「どうやって腰掛けるのか」と驚いてしまうかもしれません。ですが腰を下ろせば、背もたれと座面の奥が沈み込み、座面が水平になります。
立ち上がる際にはこの逆の動きをするため、文字通り「背中を押してくれる」構造になっています。着座から起立まで、一連の姿勢変化に対して座面と背面がフィットする仕組みのため、体を投げ出すように着座しても、衝撃が少ない構造です。
メーカーによると、Luceの「斜め」の構造は、人間の下肢部分の骨格と筋肉をモデルにしたといいます。実際に世界的なIT企業の国内拠点にて、立ち座りの多いコミュニケーションスペースでLuceが導入されています。実売価格は5万~6万円前後となっています。
デスクワークが多い職場や、会議やコミュニケーションが多い職場では、オフィスチェアはパソコンと同様に、従業員と触れ合う機会が多くなります。今回紹介した製品は比較的高額なものが多いですが、かといって「安かろう悪かろう」では、仕事の効率が落ちる恐れがあります。
「縁の下の力持ち」ならぬ「机の下の力持ち」であるオフィスチェアにこだわってみてはいかがでしょうか。