三重県、山梨県、栃木県などの地方に拠点を設け、地域密着型の不動産事業を展開するゴールドスワンキャピタル。代表取締役を務める伊藤邦生氏は、京都大学大学院修了後、大手金融機関に11年間勤務。会社員時代に個人で不動産投資を始め、その魅力を多くの人に伝えるために独立した。不動産の中でも興味を持つ投資家が少ない“地方物件”に目を付け、高い入居率が見込める「勝ち組エリア」を発見し、高収益投資市場を創出している。
この言葉を用いて不動産投資の世界を説明すると、「地方物件」はいわば「人の行く裏」です。リスクが高いと考え、多くの投資家は手を出しません。人口が都市部に流出しシャッター商店街が続くようなところで借り手がつくはずがないと考える人が多いからでしょう。しかし、たくさんの人が進む安全な道は、リスクは少ないかもしれませんが、競合が多いため、大きな成功を収めることが難しいともいえます。
伊藤社長は、不動産の中でも投資家が少ない地方物件に目を付けました。ただし、地方の全てのエリアが不動産投資に向いているわけではありません。多くのエリアの市場分析を繰り返した結果、地方にも中心部などは東京の都心と同様に人口が増えている、あるいは減少幅が少なく、高い入居率が見込める「勝ち組エリア」があることを発見したのです。
さまざまな地方都市に足を運び、数百棟もの物件を見てきた伊藤社長は、自身の目と足とで地方不動産に特化した投資のノウハウを積み上げていきました。それを基に、地方物件の投資に興味を持っている投資家に向けて物件紹介や投資術を伝えるコンサルティング事業を始めました。
ゴールドスワングループは、地方不動産物件の投資コンサルティングをメーン事業としています。自社で物件を購入し、賃貸経営する場合もあれば、自社で保有せずに物件を顧客である投資家に販売する場合もあります。地方物件、特に山梨県甲府市などを中心に人口30万人以下の地域を主要な対象としており、物件は個人が住むアパートやマンション1棟まるごとです。
比較的運営しやすい物件は不動産経営を希望する投資家へノウハウを伝えながら販売し、入居率が低く運営が難しい物件は、自社で買い取りリフォームなどを施し再生して賃貸物件として経営しています。同社の顧客となる投資家は首都圏に住む30~50歳代の男性が多く、大企業に勤務する高収入の会社員や、中小企業の役員、医師などで、1人でアパートを7~8棟経営している人もいるといいます。
「会社員で不動産投資をしている人をサラリーマン大家さんと言ったりしますが、私はこれは片手間でやっているように聞こえて好きではないんです」と話す伊藤社長。不動産経営は1つの立派なビジネスであると位置付け、投資家に対しては不動産経営をする事業家としてしっかり経営ノウハウを身に付けてもらうよう、コンサルティングしています。
なぜ地方物件なのか?
一般的にはリスクが高く、投資家が避けたがる地方物件。伊藤社長も、誰かに会うたびに「地方は人口が減っているのに、そんなところで賃貸業ができるのか?」と聞かれるそうです。もちろん、地方物件といっても、冒頭で説明した通り全てのエリア、全ての物件が投資に適しているわけではありません。エリアと物件をしっかり選ぶこと、そして購入後は地元の不動産会社と連携しながら入居者を見つけ、満室経営をめざすことで失敗しない投資ができるのです。
地方での不動産にはどのようなメリットがあるのでしょうか?また、どんなリスクがあるのでしょうか?ゴールドスワングループの事業アイデアのエッセンスを交えながら詳しく見ていきましょう。
高利回りを生かす
地方物件の一番の特徴は、相対的に利回りが高いことです。利回りとは、投資元本に対する利益の割合をいいます。例えば東京都の都心の物件は、年間の利回りが約5~10%が一般的です。家賃は比較的高いのですが、物件の値段が高いので投資元本が大きくなるためです。これに対して、地方物件であれば、10~20%程度確保できるものがあります。物件によってかなり幅があるのですが、やはり物件を相対的に廉価で入手できることが魅力です。
「地方物件は、とんでもなく利回りの高い物件もあれば、低い物件もあり玉石混交です」と伊藤社長は話します。地方物件は、きちんと選べば都心よりも高い利回りの物件を買うチャンスが多いといえます。
少ない競合の中で抜きん出る
東京の物件は購入希望者が多くいます。地方に住む数少ない投資家でさえ、地方ではなく東京の物件を購入する傾向があります。
一方、地方物件の購入希望者は非常に限られています。まず外国人投資家は手を出しません。例えば外国人に「青森県の物件」といっても「青森県はどこですか?」ということになります。地方物件を購入するのは、ほんの一握りの東京の投資家か、そのエリアで資金を持っている少数の事業会社の経営者や地主などに限られるのです。
競合が多い東京物件の場合、優良物件が出たらすぐ購入しなくてはなりません。朝に「良い物件がありますよ」と連絡があったとしても、夕方にはもう5件ほど買い付けが入っているというのが東京の特徴です。
逆に、地方ではそのスピードは不要です。利回り27%の物件ですら、1年間インターネットに掲載していても買い手が付かないことがあるくらいです。このように、地方には良い物件が放置されていることが多いのです。
また、長年放置されている物件が多いので、価格交渉がしやすいのも特徴です。買い手が現れると売り主は何とかして売ろうという姿勢になります。実際に伊藤社長も、地方の不動産会社に話を聞きに行くと、「何カ月ぶりだ」と歓迎されることが少なくないそうです。
また、地方は競合相手が弱い。競合するのは、地元で不動産経営をしている会社や大家になりますが、多くの地元の大家は節税対策などでアパートを建てたもののそのまま放置していたり、農業を本業とする人が、土地があるのでアパート経営を始めたけれど、あまり力を入れていなかったりと経営者意識が希薄な人が多いのです。
これらの大家は管理会社に入居者探しや運営などの物件管理を任せていて、特に満室経営のための努力をしていなかったりします。「東京の都心で強い競合と争うよりも、地方の緩いところできちんと満室経営をめざして運営していった方が結果的にうまくいくだろう」というのが伊藤社長の考えです。
入居募集の工夫をしたり、リフォームで物件を再生したり、モデルルームを作ったり、現地の相場感を考えながら適正な成約手数料を設定したり、他社よりお得な募集条件を付けたり――。東京では当たり前に誰もがしているような経営努力でも、地方ではあまりなされていません。だから、地方でしっかり管理運営を実施することで、高い入居率を確保し、着実に賃貸経営をしていくことができるというのです。
『なぜ新事業が起こせるのか?飛躍するベンチャー7社に学べ!』/森部好樹著
発行日:2015年4月21日