前回は、ゴールドスワンキャピタルが「地方不動産」というニッチ市場で、どう事業を展開してきたかを紹介した。第2回は、同社の強みとその流儀について、伊藤社長の経験談を交えながら話を展開していく。
ゴールドスワンキャピタル(「地方不動産投資」で高収益投資市場を創出する事業)第2回
地方物件のリスクとデメリット
不動産投資を株式で例えると、東京の物件は大企業の大型株、地方物件は小型株や未上場株といえるでしょう。
大型株は誰もが知っているような有名企業の株ともいえ、大勝ちはしにくいかもしれませんが、大きく損をすることもありません。小型株の場合は、もしその企業がヒット商品を1つ出せば、株価が3倍、5倍になることがあり得ます。ただし、やみくもに株を購入してもうまくいきません。どんな会社なのか、どんな事業をしているのか、きっちりと調査し分析する必要があります。大型株と同様に東京の物件はローリスクローリターンであるのに対し、地方物件は小型株と同じようにハイリスクハイリターンだといえます。
そこで、伊藤社長は地方物件のリスクもきちんと投資家へ伝えることを方針にしています。中でも最も気を付けなければならないのが「空室リスク」です。地方は購入する物件を誤ると、空室リスクが非常に高くなります。
次に流動性の低さはデメリットにもなります。投資家が少ないため、自分が手にした物件を売りたいと考えたときに、東京の物件のようにすぐには買い手が付かないことが多くあります。換金したいときにすぐに現金化できるわけではありません。
また、地域性が強かったりよそ者に対して排他的なエリアもあります。地方の狭いコミュニティーの中に入っていくことになるので、「東京者が来た」などと嫌われないように気を付ける必要があります。
そして、東京に比べて、街が常に変化していくリスクがあります。これは地方の最大の特徴といえるでしょう。
地方はその街ごとに中心地があり商業地がありオフィスエリアがあります。その中で、商業施設が新しくできたり閉鎖したり、官公庁や大学が移転するなど、都市の構造が変わるリスクがありますので、常にウォッチしておく必要があります。
ただし、街の変化は10年、20年単位で起こります。その変化を常に意識し、自治体が発表している都市計画も参考にしながら、今後どのように発展していくのかのビジョンを念頭に置いておけば、過度に恐れる必要はないともいえます。
「勝ち組エリア」で勝負する…
このように地方不動産ならではの特徴やリスクがある中で、ゴールドスワングループが地方不動産投資に成功しているのには理由があります。同社の最大の強みといえるその理由は、徹底した「エリア分析力」です。やみくもにどのエリアの物件にも手を出すのではなく、利回りが高く、高い入居率を見込めるエリアに絞って物件を選んでいます。
東京の都心は人口が安定しており、むしろ増加傾向にあるくらいです。それに対し、地方は減少の一途をたどっているかというと、決してそういう地域だけではありません。伊藤社長は地方の中でも人口が比較的安定している主要都市に目を付けました。例えば、中部地方は全体で見ると人口が減少していますが、名古屋市は増加しています。三重県全体では人口が減っていても四日市市や鈴鹿市では減り方は小さい。
地方都市は人口が減少している地域とそうでない地域が明確に分かれており、今でも不便な場所から便利な場所へと人が移動しているのです。このように地方の中でも比較的人口が安定していて不動産投資に向いているエリアのことを同社は「勝ち組エリア」と呼んでいます。
また、投資に適したエリアの条件は大きく3つあります。
1つは、金融機関の融資が付きやすいエリアです。不動産購入時には銀行の融資を受けることがほとんどなので、そもそも金融機関が少なかったり、東京からの投資家を想定しておらず融資が付きづらかったりするエリアというのは、いくら利回りが高い物件があったとしても避けた方が賢明です。「例えば青森市などは、東京から不動産を購入する投資家が来ることなど想定されておらず、融資が付きづらい」(伊藤社長)といいます。
次に投資に適した物件があるかどうか。例えば、5000万円から1億円程度のRC(鉄筋コンクリート)のマンションを探しても、2000万円のアパートしかない、というエリアも結構あると伊藤社長は言います。さらに、収益が出るエリアかどうかを確認すること。「不動産投資連合隊」などの収益物件専門のサイトで県ごとに物件を探してみることを、伊藤社長は勧めています。
2つ目が利回りの高い物件があること。地方全ての物件が利回りが高いかというと、そんなことはありません。例えば京都市は利回りの高い物件はほとんどありません。京都は古い街なのでもともと土地の価格が高く、売る人も少ないため利回りが低くなりがちです。一方で東北地方や北陸は利回りが高い物件が多いそうです。
他にも、街が常に変化するという地方の特徴に対しては、伊藤社長は「マルチニーズがあるエリアで賃貸経営すること」を意識しています。例えば、工業団地で働く人向け、近隣の大学に通う大学生向けなどのシングルニーズのエリアでは、万一その工業団地や大学が閉鎖・移転した場合、入居率が低下しやすくなります。不景気で工業団地がなくなったとしても、国道があり自家用車を持っている人は街中に出られるので、生活エリアとしてニーズがあるなど、複数のニーズがあれば安定した入居率が見込めます。
また、伊藤社長は実際に現地に足を運び、その周辺の類似物件の入居率を調べます。「経験からの感覚値ですが、そこの入居率を見て、7~8割であれば、手堅く賃貸経営ができると思います。一方で、5~6割の物件が多かったり、平均して5割を切っていたりするエリアというのは、需要が少ないと考えます」。
どのようにして入居率を調べるのでしょうか?
「単純に外からベランダを見ると、空き部屋は暗くなっていてカーテンが付いていません。空き部屋を地道に数えていき、全戸数からその割合を出すのです」
また、地域の適正家賃、競合物件の家賃についても調べます。このとき、不動産仲介会社の物件検索サイトで「○○駅から徒歩10分」というようなキーワードだけで比較するのは注意が必要です。「駅徒歩10分」で検索すると、駅の北側と南側の両方の物件がヒットするからです。地方では同じ「駅徒歩10分」のエリアでも、人気のあるエリアと人気のないエリアに分かれます。
例えば、仙台市に「東照宮」という駅がありますが、駅の北側は山になっていて人気が低いのですが、南側は仙台駅にもすぐに出られて街も整備されていて人気があります。そうすると、北側と南側とでは家賃の相場が変わってきます。同じ駅徒歩10分のエリアでも、このことを理解しておかなければ、適正な家賃を知ることができません。しっかり地図を見ながら調べることが重要です。
伊藤社長はこのように人口トレンドや家賃相場、エリアの特徴、入居率を細かく分析し、賃貸需要のあるエリアなのか、長期的に賃貸需要が見込めるエリアなのかを見極めています。
『なぜ新事業が起こせるのか?飛躍するベンチャー7社に学べ!』/森部好樹著