企業の人材が流動化し中途採用が増えている中、「採用してみたら、欲しかった人材と違っていた」というミスマッチはありがちなこと。特に、管理職以上の採用ミスは企業にとって大きな痛手であり、人材紹介会社などを利用したとしても、3~4割のミスマッチが起きるのが実情です。
日本リファレンスサービスは、中途採用のミスマッチをなくすために、第三者機関として採用候補者に関する前職での評価を代理収集するリファレンスサービスを企業に提供しています。
【社 名】 日本リファレンスサービス株式会社
【事業内容】 国内唯一のリファレンスサービス(幹部採用セカンドオピニオン)の提供
【設 立】 2012年5月
【本 社】 東京都千代田区五番町
【資 本 金】 1500万円
【従業員数】 10人
日本リファレンスサービス株式会社
代表取締役CEO
山本治樹(やまもと はるき)
大手教育系企業にて事業開発に携わり、社長表彰6回などの実績を残す。その後、ベンチャー企業の幹部に特化したエグゼクティブサーチファームのBNGパートナーズにて、エグゼクティブコンサルタント、新規事業立ち上げ、リファレンスサービスに従事。2012年5月、日本リファレンスサービス設立
リファレンスがあることは事前に候補者に知らされ、最終面接の前に、本人の同意を得て行われます。最初に、日本リファレンスサービスが候補者本人と面談して「元上司・同僚・部下」といった推薦人3人を出してもらいます。次に同社が、推薦人が適切かどうかを判断し、その上で3人それぞれに面談を実施。採用側企業の求める確認事項を中心に、具体的な実績や経緯などをヒアリングし、その結果をレポートにまとめて企業に提出します。
リファレンスを実施することで、採用面接だけでは分からなかった事実が明らかになることがあり、採用してから「期待と違う、しまった!」ということがなくなります。企業としてはコストと時間のロスを防ぐことができるのです。
ミスマッチの解消にはリファレンスがどうしても必要
山本治樹代表がリファレンスサービスを知るのは、前職のヘッドハンティング会社・BNGパートナーズでのことでした。
教育産業大手で営業・管理・運営の仕事をしていたものの「このままでいいのか」と思っていた山本代表は、たまたま見たブログをきっかけにBNGパートナーズの立ち上げに参加しました。
ヘッドハンティング事業を進めていく中で、どうしてもミスマッチが生じます。そこで、同社では社内にリファレンスサービスを扱う部署をつくり、山本代表は次第にそちらにシフトすることになりました。
採用面接は、基本的に候補者の自己申告であり、アピールの場でしかありません。そのため「3回程度の面接で重要な即戦力を採用することは難しい」と山本代表は話します。ミスマッチを解消するためには、どういう環境で働いてきたのか、仕事の実績・スキル・スタイル、そして弱みも含めた人柄について候補者の事実を知る必要があるのです。
ところが、リファレンスサービスを本格的に事業化しようとすると、採用企業の社内に無理が生じます。なぜなら、ヘッドハンティングは紹介が成立して報酬がもらえるビジネスですが、リファレンスは、不採用になる可能性も内包したサービスだからです。つまり、ヘッドハンティングとリファレンスは利益相反する部分があるのです。
話し合いの結果、山本代表は独立することになり、2012年5月7日、日本リファレンスサービスがスタートしました。当初資本金の500万円は、仕事で知り合ったベンチャー企業の社長など10人から借りて用意しました。
リファレンスを広める責任と使命がある…
起業したものの“リファレンス”という言葉自体が世の中に知られておらず、テレアポ営業をしても、「そもそもリファレンスって何?」「興信所とどう違うの?」という反応で、仕事をもらうのにとても苦労したと山本代表。中には興味を持ってくれる会社もありましたが、日本リファレンスサービスが創業間もない会社ということもあり、なかなか契約にまで至りませんでした。
また、運よく契約が取れたとしても、リファレンスする候補者がすぐに現れるとは限らず、実際の仕事はしばらく先だったりします。その一方で、家賃など一定の固定費は毎月出ていきます。そうこうするうちに、払うべきものを払うと自分の給料が出ないという状況に追い詰められ、その状況が9カ月続きました。なんとかその間は蓄えで暮らしましたが、やがて貯金が底を突いてしまいます。仕事の方は思うように数字が上がらず「このサービスは本当に必要なのか、意味があるのか」と葛藤し悶々(もんもん)とする日々が続きました。
そんなモヤモヤを吹き飛ばしてくれたのは、あるベンチャー企業社長からの「年間で契約させてくれ」という言葉でした。それまでの起業して2年間は、1件19万5000円の単発のみでのサービス提供だったのです。
その社長が言うには、かつては採用ミスを経験したが、あるときからリファレンスを利用したことで格段に違う結果になったとのこと。さらに「君にはこれを広める責任と使命があるんだ。自信を持ってやれ」と山本代表に言ったのでした。
また、その社長は経験が豊富で、ビジネスモデルをつくるのにたけていました。山本代表にも「顧問弁護士や顧問税理士のようなスタイルで、リファレンスサービスも年契約して月々お金をもらえるようするといい」などとアドバイス。山本代表はそれ以後、単発と年契約の両建てでサービスを提供するように変えていきました。
やがて、仕事のコツがつかめてくるようになりました。例えば、ベンチャー企業は一度採用に失敗してからネットなどで調べて問い合わせしてくることが多いとか。また、大企業の傾向や顧客の特徴も分かってきました。ダイレクトメールも工夫した結果、高い確率で返ってくるようになりました。営業スタイルも、テレアポや飛び込みといったアウトバウンド系から、顧客を呼び込むインバウンド系にシフトしていきました。
次第に契約も取れるようになり、年契約によって月々の売り上げも安定するようになると、さすがに1人では回せなくなり人を採用。もちろん自社の採用にも、リファレンスを取り入れています。
候補者のスクリーニングの役割も
比較的順調に契約が取れるようになってきたとはいえ、リファレンスという言葉はまだまだ世の中に浸透していません。ですから、どうしても「法的に問題はないのか」ということを企業は心配します。
ある大手企業と契約する前には、コンプライアンス上の問題が生じないかどうか、何人もの法務部の人を前に細かい説明を求められました。また、リファレンスの必要性は認めながらも、自社でこのサービスを利用すると「上司から『君の面接力ではそれが見抜けないのか』などと言われそうで自分の評価が悪くなる」と心配する採用担当者もいました。
一方、候補者側としても、悪意のある経歴詐称が増えている状況にあって、リファレンスをすることを告げると、同意しない人が1割程度はいるとのこと。他にも、それまでは「転職は2回」と言ってきたところ、リファレンス実施を知って「実は4回」とカミングアウトする人もいるそうです。この点で、リファレンスは候補者のスクリーニングの役割を果たしているといえます。
起業しても分からないことだらけ。やりながら修正していくしかない
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「絶対にミスなくやる!」――山本代表とスタッフとの綿密なミーティング[/caption]
リファレンスサービスを普及させたい、と山本代表は強く思っています。
「それにはまず、顧客から信用・信頼されることが必要であり、顧客、候補者、推薦者と誠実に、丁寧に接することが重要です。そのため、失敗して学ぶではなく〝絶対にミスなくやる!〟というスタンスで仕事に臨んでいますし、社員にもそう教育しています」
特に段取りが大事であり、本人同意の確認をしてから連絡するなどの手順を必ず守ること、また、顧客のためにも候補者のためにもスピード感を持って正確なレポートを作り上げることを徹底しています。そのおかげで、これまでクレームは1件もありません。
これまでの積み重ねで、ヒアリングの方法についても「何を」「どうやって聞く」というノウハウが確立し、マニュアルを作ってそれを全員で共有することで一定レベル以上のクオリティーが保たれています。
世間に認められるためにも、株式公開をして信用を得たいと山本代表は考えています。そのため、ここ1~2年で資金調達をして、業務を拡大させる予定です。
「今振り返ると、ここまで準備したら起業できるというものではなく、やらないと分からないことだらけでした。それでも、やりながら修正していくしかないので、とにかく一歩踏み出してよかった」と山本代表。ベンチャーの立ち上げに参加したことや、そこで新規事業を3カ月で潰してしまった苦い経験も、今に生かしているのです。
MORIBE's EYE
中途採用のリファレンスチェック。あるようでない会社。いいところに目を付けた。3人に面談する方法も簡単だがいい工夫。大体の会社、経営者は採用でかなり失敗している。経営者に説明すると即採用される。日本の遅れた人事テクニックの改革者。
『森部好樹が選ぶ 日本のベストベンチャー25社』/森部好樹 著
※情報は記事執筆時点(2016年6月)のものですが、一部2017年7月に最新の情報に更新しました