インターネットやスマートフォンの普及により、オンラインでの旅行予約のニーズが高まっています。2兆円を超えるといわれるオンライン旅行市場の追い風を受け、成長を加速させているのがエボラブルアジアです。
オンライン旅行事業、訪日旅行事業、ベトナムにおけるITオフショア開発事業、投資事業の4つの事業を柱として、アジアを舞台にしたビジネスを展開しています。2016年3月31日には東京証券取引所マザーズ市場への新規上場、2017年3月31日には東京証券取引所第一部へ市場変更を果たしました。
【社 名】 株式会社エボラブルアジア
【事業内容】 オンライン旅行事業、訪日旅行事業、ITオフショア開発事業、投資事業
【設 立】 2007年5月
【本 社】 東京都港区愛宕2-5-1 愛宕グリーンヒルズMORIタワー19階
【資 本 金】 1,028,598千円(振込資本1,862,195千円)
【従業員数】 約828人(連結)*2017年8月時点
国内航空キャリアグループすべてと直取引し、多様な販売チャネルを持つ
株式会社エボラブルアジア
代表取締役社長
吉村英毅(よしむら ひでき)
1982年生まれ。東京大学経済学部経営学科卒業。経営管理と金融工学を専攻。大学在学中にValcom(2009年10月、旅キャピタルに吸収合併)を創業。07年、旅キャピタルを共同創業し、代表取締役社長に就任。13年10月に社名をエボラブルアジアに変更。16年3月、東証マザーズに上場。17年3月、東証一部へ市場変更。
エボラブルアジアの営業利益のうち、約8割を占めているのがオンライン旅行事業です。主に国内航空券をインターネットで販売しており、国内線のウェブ販売では最大手です。
オンライン旅行事業におけるエボラブルアジアの強みは3つあります。
1つは国内航空キャリアグループすべてと直取引があるため、国内全航空会社グループの全券種を取りそろえることができることです。
2つ目は多様な販路です。一般ユーザーだけでなく、法人企業の出張手配や旅行会社へのOEMでのコンテンツ提供、提携会社への国内航空券の提供をしております。法人企業は一度契約するとほとんどの会社がリピートで利用するため、ストックビジネスとなっています。
3つ目がシステム開発における強みです。エボラブルアジアは後述のシステム開発リソースをベトナムに持っていますが、その中に自社開発部隊もあり、約50人のエンジニアが働いています。販売サイトのサービスをブラッシュアップさせる際には必ずシステム開発が必要になります。ベトナムに開発部隊を抱えることで安価で速いスピードでの対応が可能になっています。
日本人を対象とするオンライン旅行事業に対し、日本に旅行に訪れる海外旅行客を対象にしているのが訪日旅行事業です。現在、日本を訪れる旅行客は年間2000万人ほどですが、政府は2020年までに倍の4000万人にまで増加させるという目標を発表しました。今後の市場の成長とともに、事業拡大を狙います。当事業として民泊関連サービスへの参画も表明しました。
これらの旅行事業の売り上げが伸びている理由は、航空会社が増え、特にLCC(格安航空会社)が人気となり、一般ユーザーから横断検索ニーズが高まっているからです。そのニーズに対して同社販売サイトでは国内全航空会社グループの航空券を比較検索できるという強みがあります。
2016年3月、東証マザーズに上場を果たした際の様子(中央が吉村社長)
オリジナルの「ラボ型」システム開発が特徴…
11年、エボラブルアジアはベトナムに拠点を設立しました。当初は旅行サイトの自社開発のために現地エンジニアを採用してシステム開発をしていましたが、ベトナムのエンジニアの高いクオリティーに可能性を感じ、翌12年に日系企業にベトナム人開発リソースを提供するITオフショア開発事業を始めました。
「ベトナムは国を挙げてITオフショアを基幹産業にしようと取り組んでいます。エンジニアは人気職種で、優秀な人材をたくさん採用することができます」と吉村社長は話します。
20人から始めたオフショア開発ですが、現在では約750人ものエンジニアを擁し、東南アジアにおける日系オフショア開発企業では最大手となっています。
エボラブルアジアのITオフショア開発事業の特徴は「ラボ型モデル」という独自のスタイルでサービスを提供していることです。ラボ型モデルとは、クライアントごとに専属の開発チームを提供し、チームに対する作業指示や進捗管理をクライアントが行う仕組みです。クライアントが自社のチームメンバーに対してどんなシステムをつくりたいかを指示できるため、要望にかなうシステム開発ができやすくなります。ラボ型モデルはクライアントが現地に開発子会社を設ける感覚に極めて近いものです。
また、このラボ型モデルはエンジニアの稼働率がほぼ100%であるため、競合他社と比べて安価にサービス提供できることも魅力となっています。
アジアをマーケットに事業を拡大
吉村社長の実家は130年ほど続く老舗企業を経営しているといいます。チーズやマーガリン、ホットケーキなど食品の製造販売会社です。吉村社長は幼少期から事業をしている親を間近に見て育ちました。中学生のときにマイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツが一躍、時の人となり、強い憧れを抱いたのが起業家をめざすきっかけになったといいます。
その後、東京大学在学中の03年に阪神タイガースがリーグ優勝した際に、このフィーバーを活用したビジネスができないかと考え、阪神タイガースとロイヤルティー契約を結び、缶コーヒーなどのグッズ販売を始めました。これが吉村社長の最初に起こしたビジネスでした。それなりに売り上げは上がったものの、野球チームの優勝時だけのスポットではなく長く続けられる事業をしたいと考え探していたところ、旅行会社を経営していた大石崇徳氏と出会います。そこで大石氏から旅行商品を仕入れる形でオンライン旅行ビジネスを開始しました。
07年に大石氏の会社と経営統合し、吉村氏を社長、大石氏を会長としてエボラブルアジアの前身となる旅キャピタルを設立します。会社設立以降、オンライン旅行事業は軌道に乗り、売り上げは伸びていきました。この事業をより大きく成長させるため、ベトナムに拠点を設立したことが転機となり、オンライン旅行事業だけにとどまらず、アジアをマーケットにして成長したいという思いを込めて13年10月に社名を「エボラブルアジア」に変更しました。
東証マザーズに上場、2020年までに取引高1000億円をめざす
16年3月31日、エボラブルアジアは東京証券取引所マザーズ市場に新規上場を果たしました。上場については8年ほどかけて準備をしてきたという吉村社長。「この1~2年で収益が安定し、内部の経営管理体制も拡充しました。いろいろなタイミングがしっかり合致し、安心して上場できると思えたのが今でした」と話します。また、上場のメリットについては次のように語ります。
「資金調達という面ではやはり非常に大きなメリットがあると考えます。また、上場したことで周囲から勢いのある会社だと見ていただけるのを感じます。まだ上場して間もないですが、上場前にはなかったような大きな事業提携の話をいただくなど、新たな可能性が広がっています」
エボラブルアジアは市場の追い風とともに、自社が持つビジネスモデルの強みを生かして成長してきました。
「2016年11月よりAirTrip(通称エアトリ)という自社サイトおよびスマートフォンアプリを提供開始いたしました。今後、オンライン旅行事業では、国内航空券を購入する際に、誰もがAirTripを第一想起するようなブランドに育て上げたいと考えています。訪日旅行事業では、インバウンドの市場は伸びているものの、まだ日系の旅行会社では勝ち組といえる会社は出てきていません。民泊系新規サービスも含め、そのポジションを狙いたいと思っています。ITオフショア開発事業では、現在、日系企業では最大手ではあるものの、世界を視野にすると30万人規模のエンジニアを抱える企業があります。そこを追いかけ、まずは1万人規模をめざします」と吉村社長は今後の展望を語ります。
旅行市場もITオフショア開発事業も、まだまだ市場の追い風は続くと吉村社長は読んでいます。新たな事業を始めようとすると、システム投資は必ず必要になります。日本のエンジニアは減少を続けているため、ベトナムでの需要は増えていくと考えています。
また、旅行業においても「東京オリンピックは確かにエポックメイキングな出来事」とは言うものの、「そこで高止まりではなく、それを超えて伸びていけると確信しています」と吉村社長は話します。まずは、事業全体の取扱高を現状の353億円(2017年9月期予想)から、できるだけ早く1000億円にまで拡大させることを目標に掲げています。
MORIBE's EYE
10年で200億円以上の売り上げ。35歳の若者。すごい。さらにすごいのは、200億円にまで売り上げを伸ばしてくれた旅キャピタルという名前を4年前にエボラブルアジアに変更、会社の今後の成長市場をアジア全域へと捉え直し、ベトナムでの新たなビジネスも加えてさらなる高成長を導き出したこと。頭の切り替えの早さ、大胆さに感心、感心。
※情報は記事執筆時点(2016年7月)のものですが、一部2017年9月に最新の情報に更新しました