ブティックスは介護用品を販売するECサイトを運営しています。「けあ太朗」という総合店舗を持ちながらも、介護靴や車椅子など、それぞれのアイテムに特化した専門店を展開しているのが特徴です。現在、約30店のECサイトを運営しており、500社以上のメーカー・ブランドから集めた約3万点の介護アイテムを販売しています。
また、EC事業から派生させたM&A仲介事業や展示会事業も開始しました。
【社 名】ブティックス株式会社
【事業内容】 介護・高齢者向けのeコマース事業、展示会運営事業、M&A仲介事業、他
【設 立】 2006年11月
【本 社】 東京都品川区西五反田
【資 本 金】 7330万円(資本準備金含む)
【従業員数】 30人
リアル店舗とネット通販の両方の良さを併せ持つECサイト
ブティックス株式会社 代表取締役社長 新村祐三(しんむら ゆうぞう)
1990年早稲田大学卒業。2006年ブティックス設立。介護用品のEC事業、介護業界最大級のBtoB展示会事業、介護施設のM&A仲介事業などで急成長。企業と企業、企業と人をつなぐ「ビジネス・プラットフォームNo.1企業」をめざし、新しいサービスを次々に立ち上げている
ブティックスが運営するECサイトの特徴は「限りなく実店舗に近い通販サイト」であることです。「無店舗なのでコストは抑えられるため、比較的買いやすい価格に設定できると同時に、リアル店舗の良さである対面接客の要素も取り入れ、電話でお客さまにきめ細かく対応しています」と新村祐三社長は話します。例えば、車椅子や介護ベッドなどの介護用品を購入する顧客は、基本的には自分が使うのではなく配偶者や親のために購入します。買い物をする本人は商品についての知識がないことがほとんどだといいます。
「同じ車椅子でも種類は多岐にわたります。お客さまからお電話をいただき、車椅子を外に出て使うのか、部屋の中でのみ使うのか、寝たきりなのか健康なのか、詳しくヒアリングすることで用途に合った機種をご案内しています」と話す新村社長。リアル店舗に近い接客対応により、ブティックスは顧客からの支持を獲得してきました。例えば、沖縄への家族旅行を計画していたが、直前になって高齢の親に車椅子が必要なことに気付いた顧客のケース。車椅子の納品には通常2~3日を要するため、今から購入しても旅行に間に合わない。
何とか翌日に納品してもらえないかと問い合わせを受けたそうです。この要望に対してブティックスのスタッフは各メーカーと早急にやり取りをして、翌々日、出発当日に空港に直接車椅子を届けることで旅行に間に合わせることができました。
「スタッフたちは問い合わせを受けたら、どうしたらお客さまの要望を実現できるか、さまざまな手を尽くして考えます。商品知識ももちろん大事ですが、それ以上にお客さまのニーズに応えたいというマインドを大切にしています」と新村社長は語ります。
アイテムごとの専門店を展開
高いホスピタリティーのほかに、アイテムごとの専門店を展開していることもブティックスのECサイトの特徴です。創業当時、新村社長は既存の介護用品のECサイトを見て「種類は何でもあるけれど、実際に欲しいものが見つからないという印象を持った」と言います。
「とにかく探しにくいんです。すべての介護用品を網羅するのではなく、介護靴しかないけれど、靴なら何でもそろっているという専門店が必要だと感じました」と話します。
実際、車椅子を望む顧客と介護靴やつえを望む顧客とでは介護度が違っており、寝たきりで介護ベッドやポータブルトイレを望む人には、必ずしもつえは必要ありません。それぞれの商品によって客層が異なるのが介護アイテムの特徴です。専門店に特化し、品ぞろえを豊富にすることで売り上げは急増し、会社が成長するきっかけとなりました。現在、つえや介護靴の品ぞろえは日本一とされ、それぞれ600点ほどの商品をそろえています。
介護施設と介護用品メーカーをマッチング…
顧客からの信頼を得られたことで、ブティックスのECサイトで販売を望むメーカーも増えていきました。この数年間で介護業界は大きく拡大しましたが、参入企業も増え、競争が激化しています。その中で、どのメーカーも生き残りをかけ、売り上げを伸ばすための手段を考えているのです。
一方で、介護施設には「見守りセンサーを新しく取り替えたい」「ベッドが老朽化しているので入れ替えたい」などのニーズがあり、メーカーを探しています。両社のニーズを知った新村社長は、マッチングのための展示会を開くことを考えました。
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東京ビッグサイトで開催された第2回展示会「CareTEX(ケアテックス)」の様子。16年5月からはWeb上でのマッチングもスタート[/caption]
2016年3月に東京ビッグサイトで開かれた第2回の展示会「CareTEX(ケアテックス)」では、約350社のメーカーが出展し、約1万5000人の介護事業者が訪れました。わずか2回目にして、業界最大規模の商談展に成長したのです。また、5月には時間と場所の制約を取り払い、インターネット上でも商談ができるウェブ展示会「ケアテックス・クラウド」もオープンしました。さらに、介護業界に特化したM&A事業も15年4月より開始しています。
「介護業界は二極化が進んでおり、小規模な施設は経営難に陥っているところも多い。その施設にも入居者はいますので、廃業を回避するため、我々のネットワークを使って、売却して引き継げる会社との仲介をしています」と新村社長は話します。
39歳で妻の実家が経営する会社の再建に立ち上がる
もともと起業家志向だったという新村社長は、大学卒業後、若いうちからじかに経営に触れたいと考え、創業4年ほどだった小さな外資系企業に就職しました。展示会を運営する会社で、すぐに事業責任者に任命され、山あり谷ありながらも事業は拡大の一途をたどります。
「このままここで働き続けるのもいいのではないか」と思い始めていた新村社長に転機が訪れたのは06年、39歳の時です。介護用品のレンタル事業を展開していた妻の実家の会社が、介護保険制度の改定の影響で売り上げが激減し、経営危機に追い込まれたのです。悩んだ結果、新村社長はその会社を買い取り、経営再建に挑戦することを決意しました。
「この機会を逃すと、恐らく一生起業せずに終わるだろう。これは神様がくれたチャンスだと思いました」と新村社長は当時を振り返ります。これがブティックスのスタートでした。
しかし、全く成果が出ず、経営再建どころか、このままだと倒産という状況に。そこで新村社長は、これまでのレンタル事業主体の経営から、介護用品のECサイト運営事業への転換を決断します。最初は総合店舗で今のような電話対応もなく、ただ商品をインターネット上で販売するだけでした。月間売り上げは20万~30万円。粗利益は数万円しかなく、3500万円の資本金をどんどん食い潰していく毎日が続きました。3人のスタッフでスタートしましたが、毎月100万円近い大赤字だったといいます。
事業はやり方次第で必ずうまくいく
突破口となったのは、インターネット上に掲載されている電話番号を見つけて問い合わせをしてくる顧客の存在でした。新村社長は商品説明や返品交換など、顧客はリアル店舗に近い接客対応を求めているのではないかと考えました。
「そこで電話番号を大きく書いて『お困りの際はご連絡ください』と掲載すると、かなりの数の問い合わせが来たのです。電話で1件1件、丁寧に対応させていただいたところ、わずか3カ月で月間売り上げが10倍ほどに伸びました」と新村社長は話します。
同時に探しにくさを解消するために専門店化を実現したことで、競合他社との差異化に成功し、成長を遂げることができました。ブティックスは創業10年目を迎えました。苦しかった時代を振り返り、新村社長はこう語ります。
「ブティックスはこれまで逆境をバネにして成長してきました。お客さまのニーズに応えたといえば聞こえはいいですが、最初はそんなにきれいなものではありません。わらにもすがる思いで、あれもやってみよう、これもやってみようと必死の形相で事業を守ってきたというのが正直なところです。事業はやり方次第で必ずうまくいく。うまくいかないのは、ただ自分がその方法に気付いていないだけ、というのは当時からずっと思っていることです。うまくいっているときほど人は努力をしないものです。むしろ、逆境のときこそ新しいサービスを生み出すチャンスです。どうすれば新しいサービスが生み出せるのか、新たなステージに行けるのか、常に考え続けることが大切だと思っています」。
ECサイト運営に続き、展示会事業、M&A仲介事業と事業の柱を増やし、経営の基盤を強固にしつつ、介護・高齢者業界において、ビジネス・プラットフォームの日本一の企業をめざします。
MORIBE's EYE
eコマースに「対面販売に限りなく近い接客」を加味し、実店舗に近づけたことでeコマースが発展。さらに介護用品や介護施設用の設備・備品に関する多くの関係者が集まる日本最大級の商談展示会「CareTEX(ケアテックス)」を主催。介護・高齢者市場におけるマッチング・ビジネスで急成長。
※情報は記事執筆時点(2016年7月)のものです