スマートフォンの普及は、商品の購買行動も大きく変化させている。20年ほど前までならば、消費者として製品やサービスを購入するには店頭に出向くことが当たり前だった。それがパソコンの前でクリックすればさまざまなモノが買えるようになり、気が付けば手元のスマホからいつでもどこでも購買が可能になった。購買機会と手段が多様化しているのだ。
こうした状況は、商品やサービスを提供する側から見れば、販売チャネルを複線化できることを意味する。コロナ禍で店頭への来店客が激減した中でも、ネット通販に力を入れて従来以上の売り上げを確保したという店舗のトピックも聞くほどだ。これまで手掛けていなかったネット通販などの電子商取引(EC)を活用することで、売り上げ増に期待できる可能性は高い。
右肩上がりの「ECサイト」、物販系は特に市場規模拡大
国内の消費者向けのECは、右肩上がりで市場規模が拡大している。経済産業省の「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」では、2020年の消費者向けECの規模を19兆2779億円と報告している。前年の19兆3609億円からは微減だが、わずか7年前の2013年には11兆1660億円だったことを考えると、市場規模は大幅に拡大している。
2020年に微減となったのは、コロナ禍の影響で旅行サービスを含むサービス分野のEC市場が大幅に減少したためと考えられる。物販系分野のECは、巣ごもり消費の影響もあって前年比21.7%増の12.2兆円へと大幅な増加を見せている。
物販系ECの内訳を見ると、「生活家電・AV機器・PC・周辺機器等」(2兆3489億円)、「衣類・服装雑貨等」(2兆2203億円)、「食品、飲料、酒類」(2兆2086億円)、「生活雑貨、家具、インテリア」(2兆1322億円)の各カテゴリーが上位を占め、4カテゴリーで物販系分野の73%に達する。これらの分野を中心に、ECサイトの拡充が消費者の購買行動にフィットする動きになるだろう。
【急成長する電子商取引(EC)市場】
商品梱包や受発注などの実労働も増加、人手確保の方法も要検討…
経済産業省調査では、ECを「インターネットを利用して、受発注がコンピューターネットワークシステム上で行われること」と定義している。受発注までがインターネットで行われるのは必須だが、物販系分野であればECサイトだからといって実際の商品提供の各種業務がなくならない点にも気を配りたい。
物販系分野でECサイトによる販売を強化し、対策が効果を奏して売り上げが伸びたとする。販売チャネル多様化に成功し、喜ばしい状況だ。一方で、ビジネスの拡大には人手確保が必要になる。例えば、仕入れ商品を販売しているビジネスだったとしても、ECサイトの受発注状況を確認し、商品を引き当て、注文ごとに仕分け、梱包。その後に、宅配業者などに伝票と共に渡す作業が発生する。注文のあった顧客に向けては、お礼や発送確認連絡などのメールの送信も行う。加えて、自社製造の商品を取り扱っていたら、製造部門の人材確保も必要になってくるわけだ。
ネット通販などのECサイトでの販売は、先が読みにくいことも特徴として挙げられる。というのも、SNSなどで自社の商品が思わずバズって、想定を超える注文が殺到することもあるからだ。こうした場合には、即刻人手が必要になる。ネットをビジネスの基盤にすることは、時としてビジネスにスピードが要求されるのだ。急な注文増加に、梱包や配送の実労働を担うスタッフが足りない。そうした急な人手不足の場合は、Web求人情報サイトに登録してもすぐには対応できない。
半面、販売の好調な状況がいつまで継続するかも分からない。長期に売り上げ増が見込めるならば、求人情報サイトで長期雇用のスタッフを雇えばよいだろう。しかし、ネット上の流行は移ろいやすいことも事実で、一時的な販売増に終わることもある。必要なときに必要なだけのスタッフを確保できる態勢が求められるのだ。
注目したいのが、自分の時間に合わせて単発や短期の仕事に就くギグワーカーの活用だ。さまざまな分野でスキルを持ちながらも、長期雇用などとは異なる単発的な働き方を求める人材である。ギグワーカーと企業をマッチングするWebサービスが複数登場しており、こうしたWebサービスを活用すれば注文の急増に必要な人手を迅速に集めることも可能だ。ECサイトの活用というと、映りのきれいな写真や魅力的なキャッチコピーなどを生み出すWeb人材をまず求めたくなる。だが、バックヤードの実労働が急増したときの人手を確保も重要なポイントだ。こうした手段を検討しておくこともビジネス成功の一因になる点を踏まえておきたい。