「ペーパーレス」は、企業にとって古くて新しい課題だ。ペーパーレスを進めることで紙や印刷、保管スペースなどのコストを削減できる。文書・書類を電子化してファイルサーバーやクラウドストレージに保管することで社内に散在する情報の検索が容易になり、本社・拠点を含め全社的な生産性の向上が可能になる。さらに紙の使用を減らすことで環境保護、SDGsの取り組みに貢献できるなど、ペーパーレスにはさまざまなメリットがある。
出番がなくなる「紙の会議資料」
ペーパーレスを推進する企業も少なくないが、「紙」にこだわる企業も確かに存在する。こうした企業では、なぜペーパーレスが進まないのか。ペーパーレスに対する“抵抗勢力”が一定数いるからだ。例えば、会議資料にしても、手元に紙の資料があれば議事内容も分かりやすく、メモなどの書き込みもできる。顧客・取引先への提案書にしても、紙を持参して説明した方が相手も理解しやすい。そんなことはない、という声も聞こえてきそうだが、業務経験が豊富な「ベテラン」と呼ばれる層の中には、紙を前提にした仕事のやり方をしてきた人もいるのではないか。
だが、こうした仕事の仕方は見直す時期に来ているのかもしれない。会議にしても、コロナ禍を経てオンライン会議が定着し、プレゼンテーションソフトで作成したデジタルの資料を共有しながら会議を行うことも増えた。多くの企業では「紙の会議資料」の出番が少なくなっているのが実情だろう。
顧客・取引先への提案資料も同様だ。デジタル化した提案書を前もって先方にメールで送付したり、クラウドストレージにアップロードしたりする。対面での商談であっても、デジタルの提案書をノートパソコンやタブレット端末で参照しながらプレゼンテーションするといった仕事の進め方が可能だ。
「紙」を減らして企業体質を強化。情報管理にも効果的なペーパーレス…
ペーパーレスにより、業務の効率化やセキュリティにも効果がある。業務効率化の面では、例えば、会議資料の作成があげられる。紙で印刷(コピー)するとなると参加者の数だけ必要になり、準備の手間と時間もかかる。電子化してファイルサーバーやクラウドストレージに保管、参照する仕組みにすれば、資料準備に時間を取られることなく、直近の最新データを参照しつつ会議が実施できる。セキュリティ面でも、紙の資料では紛失や不十分な管理による機密情報流出というリスクもあるが、クラウドストレージに保管すれば、部署や役職に応じたアクセス権限の設定や、社外の取引先とのファイル共有などセキュリティを担保しながら厳密な情報管理が可能だ。
会議資料のペーパーレスはすでに実施している企業も多いはずだが、一気に「紙」をオフィスから無くすのは難しい。そこで、ベテラン社員を含め、皆の協力が得やすく、業務効率向上の成果が表れやすい部分から始めるといいだろう。具体的には、全社共通の人事・労務・給与・経費精算などのバックオフィス業務に関連する電子化とペーパーレスを進める方法がある。例えば、非正規雇用の従業員を含めて社会保険や雇用保険の手続きを電子化する。この点、既に2020年4月から資本金1億円以上など特定の法人に対して健康保険・厚生年金保険、労働保険、雇用保険の一部の手続きについて電子申請が義務化されている。義務化の対象でない企業も電子申請により、申告書などのペーパーレス化を進められるだろう。
紙の書類や領収書が多くて煩雑
毎年行われる年末調整についても、ペーパーレスを視野に入れたい。人事・労務担当者は書類の配布や回収の手間を減らせる他、従業員はスマートフォンなどを使って必要事項を記載するなど、書類提出に関する業務効率化が可能だ。
また、従業員の理解を得やすいのが出張費などの経費精算だ。紙の書類に領収書などを添付して経理担当者に提出する煩雑な作業から、電子化、ペーパーレスへと転換するのだ。経費精算、精算処理などを支援する各種の製品・サービスも提供されている。
今後、企業のペーパーレスを後押しすると見込まれるのが電子帳簿保存法への対応だ。他方で行政手続きの効率化を目的に政府・自治体が進める電子申請の動きもある。こうした時流を適切に判断し、多角的に判断していきたいところだ。そのためにも自社にとってどのような製品・サービスが適しているのか、社内浸透に向けた各種の施策の進め方など、文書・情報管理の電子化、ペーパーレスに精通したITサービス事業者に相談するという選択も有効な手立てとなるだろう。
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