安倍内閣は、観光を地方創生や成長戦略の柱の1つに据え、わが国の基幹産業へと成長させる目標を打ち出している。そのカギを握るのが訪日外国人旅行者、インバウンドの増加だ。訪日外国人旅行者数が2000万人時代を迎える中、さらに旅行者数を増やし、地方を含めた経済活性化につなげるためには、多言語での案内や無料Wi-Fi環境の拡充などが求められる。
「爆買い」の消費行動に変化
2015年の訪日外国人旅行者は前年比47.1%増の1973万7000人を記録した。この増加傾向は2016年に入っても衰えず、1~8月までの累計で前年比24.7%増の1606万人となっている。だが、外国人旅行者の消費行動には変化が見られる。
観光庁の「訪日外国人消費動向調査」2016年4-6月期によると、訪日外国人1人当たりの旅行支出は15万9930円で、前年同期に比べ9.9%減少した。中でも、「爆買い」の主役を担ってきた中国人旅行者の旅行支出は前年同期比で22.9%減少。円高の影響もあるが、富裕層を中心に高額の宝飾品や家電製品を大量に購入していた姿は影を潜めつつある。手ごろな価格で品質が良いとされる化粧品や医薬品、日用品を土産に買い求めるようになるなど、爆買いのフェーズも変わってきた。
外国人旅行者の満足度…
同調査によれば、買い物代は3603億円(構成比37.8%)で、前年同期の3856億円(構成比43.4%)と比べて縮小している。一方、構成比は小さいものの、増えているのが娯楽サービス費だ。2016年4-6期は276億円(2.9%)で、前年同期に比べ金額で37億円、0.2ポイント増加した。これは、訪日外国人旅行者の関心が体験型サービスにも移っている事実を物語る。東京や関西などの主要な観光地を巡って、ショッピングにいそしむだけでなく、観光地で和服を着たり、地方で伝統文化に触れたり、雪国でスキーを楽しんだりする。日本ならではの体験をツアーに付加するプランも増えているようだ。
「訪日外国人の消費動向 平成27年10-12月期報告書」(観光庁)によれば、訪日前に期待していたことは「日本食を食べる」が最も多かった。これに対し、日本滞在中に行ったことで満足度が最も高かったのは「日本のポップカルチャーを楽しむ」(91.3%)、「日本の日常生活体験」(89.8%)、「日本の歴史・伝統文化体験」(88.9%)、「自然体験ツアー・農漁村体験」(88.4%)など体験型が上位を占めた。
観光を地方創生につなげていくためには、地方への外国人旅行者の訪問を増やしていく必要があるが、その地域の食事や自然、景勝地の観光に加え、体験型の楽しみ方を工夫することにより、新規やリピーターの来訪も見込めるのではないだろうか。
情報を入手する通信環境や言語対応が課題か
市販の旅行ガイドブックなどには載せにくい、地域ならではの魅力を発信する手段として、インターネットやSNSが大いに役立つ。同報告書によれば、訪日外国人旅行者が出発前に得た旅行情報源で最も役立ったのは「個人のブログ」(28.0%)で、続いて「自国の知人・親戚」(17.1%)、「口コミサイト」(11.9%)、「SNS」(11.2%)となっている。
また、滞在中に得た旅行情報源で役立ったものは、「インターネット(スマートフォン)」(60.0%)、「インターネット(パソコン)」(20.6%)、「観光案内所(空港以外)」(17.0%)となっており、情報発信者はインターネットをうまく活用するなど、外国人旅行者を呼び込む工夫が必要になる。
だが、課題もある。訪日外国人旅行者の満足度を高めるには、もっと手軽に情報を入手できる通信環境やコミュニケーション(言語)環境の整備が不可欠だ。同報告書によれば、日本滞在中にあると便利な情報として「無料Wi-Fi」(52.1%)が最も多く、以下、「交通手段」(48.3%)、「飲食店」(32%)が挙げられている。
駅名や道路の標示などで、英語表記は充実しつつある。今後は、英語のみならずアジアやヨーロッパからの旅行者向けの多言語対応がますます必要となってくる。交通乗り換え案内や飲食店のメニュー表示、観光案内、製品・サービスの紹介など、公共機関や民間企業を問わず、至る所で“おもてなし”が求められている。