2016年の訪日外国人観光客は前年比21.8ポイント増の2403万9000人に上り、過去最高を記録した。地域別では中国(約637万人)が最も多く、韓国(約509万人)、台湾(約416万人)、香港(約183万人)と続き、この4地域で訪日外国人観光客の約72.7%を占める。リピーターの増加とともに、個人旅行が増えているのが最近の傾向だ。決まったルートをツアーで回る形から、個別体験型へとシフトしている。
聖地巡礼など体験型志向が高まる
旧正月に当たる春節の休暇には、中国や台湾をはじめ、アジアから多くの観光客が日本を訪れる。外国人観光客の目的は、この時期ならではの雪景色と味覚だ。例えば、岐阜県・飛騨高山はアジアの観光客に人気だ。情緒ある古い町並みは日本人観光客にもおなじみだが、この冬は少し様子が違う。日本だけでなくアジアでもヒットしているアニメ映画「君の名は。」の舞台を訪ねる聖地巡礼と、日本の情緒あふれる雪景色を楽しみに訪れる。
日本人には当たり前の雪景色でも、外国人にとって貴重な体験になる。観光客の関心が体験型観光へとシフトする中、身近にある観光資源を掘り起こし、その魅力を海外へ発信することが観光客を呼び込むためのポイントになる。
2020年に8兆円の旅行消費額をめざす…
政府では、地方創生の礎となる観光資源の魅力向上や、観光産業の革新と国際競争力の強化、ストレスフリーで快適な観光環境の実現をめざして「明日の日本を支える観光ビジョン」を掲げる。2020年に訪日外国人観光客数は4000万人、同旅行消費額は2015年度の2倍超になる8兆円を見込む。
こうした目標を達成するため、観光資源の魅力向上策の1つとして、文化財を核とする観光拠点の整備や、多言語解説の事業を2020年までに展開する。日本ならではの伝統的な生活体験や、農村地域の人々との交流を楽しむ「農泊」も推進する計画だ。
観光産業の革新では、温泉街や地方都市の活性化に向け、2020年までに世界水準のDMO(Destination Management/Marketing Organization:観光資源に精通し、地域と協同して観光地域づくりを行う法人)を全国で形成するほか、観光地の再生・活性化ファンド、規制緩和を駆使し、民間の力を活用した安定的・継続的な観光町づくりを実現するという。
観光客の行動パターンを把握する
外国人観光客の観光動線にも変化が見られる。我々日本人もそうだが、海外を訪問する際、最初は団体旅行やパッケージツアーを利用するケースが多い。旅行に慣れてくればリピーターとなり、思い思いの場所や楽しみ方ができる個人旅行へと変わる。観光庁「訪日外国人の消費動向 平成27年 年次報告書」によれば、訪日外国人の旅行手配方法では、団体ツアー参加が全体の25.6%、航空(船舶)チケットと宿泊などがセットになった個人旅行向けパッケージの利用が12.3%であるのに対し、往復航空(船舶)チケットや宿泊などの個別手配は62.1%に上る。
団体旅行から、思い思いの旅行を楽しむ個人旅行にシフトすることで、観光地の情報発信やプロモーションも変わらなければならない。団体旅行であれば、海外の旅行会社を中心にセールスをかければ旅行ニーズをくみ取れるが、個人旅行となると話は別だ。例えば、SNSを使って観光地の魅力を発信するといった個人旅行に特化したプロモーションも必要になる。
団体旅行やパッケージツアーであれば、日本での訪問先や行動などの観光動線について、ツアーを企画した旅行会社や手配を行うラウンドオペレーターから情報を得られる。個人手配旅行では動線の把握が難しい。そこで、訪日外国人などの観光客による公衆Wi-Fi利用状況などの統計情報を分析し、行動パターンを“見える化”するサービスも登場している。訪日外国人観光客数4000万人時代に向け、観光客の行動パターンの把握が効果的な観光施策の第一歩になる。