メガバンク、地方銀行、信用金庫、信用組合など、金融機関にさまざまな種類があるように、銀行融資にもさまざまな形態があります。
どのような形で銀行から融資を受けても、1000万円は1000万円です。しかし、実態にそぐわない形で融資を受ければ、後に資金繰りに窮することになったり、不要な金利を払い続けなくてはならなかったり、思いもよらないトラブルが発生する可能性があります。
今回は、融資形態の特徴と使い分け方をご紹介します。
融資形態は大きく4つに分けられる
銀行融資は大きく分けて「証書貸付」「手形貸付」「手形割引」「当座貸越」の4つに分類されます。
証書貸付は、「金銭消費貸借契約書」という契約書を銀行に差し入れて受ける融資です。銀行の代表的な融資形態であり、幅広く利用されています。必要に応じ特約を定めて実行するので、詳細な条件設定が必要な長期の借り入れとして一般的に用いられる融資形態です。
手形貸付は、借り入れ用の手形を銀行に差し入れて融資を受けます。主に短期の借り入れで利用されています。
手形割引は、売上代金を手形で回収した場合に、その手形を銀行に買い取ってもらい、現金化する資金調達方法です。手形は通常、支払期日まで現金に換えることができません。しかし、銀行に手形を持ち込むことで、支払期日までの金利を差し引いて、資金を調達することができます。
当座貸越は、融資の限度額を設定し、その限度額まで自由に融資を利用したり、返済したりできる融資方法です。
「では、どの方法が最も良いのか教えてくれ」という声が聞こえてきそうですが、すべての面でベストな融資というのは存在しません。それぞれに一長一短があり、その都度、資金使途や資金計画に応じた最適な融資形態を選択する必要があります。
融資形態の賢い使い分け方とは…
証書貸付の最も優れている点は、詳細な条件が設定できることです。多額の設備資金を調達する場合には、事業が軌道に乗るまでの間は返済額を少額に設定することがあります。また、10年、20年という長期間の融資では、金利水準も大きく変動する可能性があります。その場合には、どのように適用金利を見直すかも取り決めておく必要があるでしょう。こうした細かな条件を取り決めておくことが証書貸付では可能です。ただし、金銭消費貸借証明書に課される印紙代は、手形貸付に比べ割高であるというデメリットもあります。
手形貸付では、金銭消費貸借借用書を作成しません。約束手形を銀行に差し入れるだけなので、融資の実行手続きは簡単です。しかも上記のように証書貸付よりも印紙税の負担も軽くなります。しかし、手形貸付は短期の借り入れになるので、繰り返し手形を発行しなくてはならないケースも考えられます。その場合、その都度印紙税が課されるので、証書貸付の印紙代よりも高くなる可能性も出てきます。このように証書貸付と比較すると一長一短があるので、どちらのメリットが大きいか一概には言えません。実際には1年未満で返済期日を迎える短期の融資であれば、手形貸付が利用されるケースが多くなっています。
手形割引は、本来なら手形期日まで現金化できない金銭債権を、期日を待たずに簡単に現金に換えることができ、手形という資産の流動化を図ることができます。融資を行う銀行にとっては、手形支払人と割引依頼人(融資の申込人)のいずれに対しても債権の回収を図ることができるという点で、証書貸付や手形貸付と大きく異なります。もし、融資の申込人の信用力が不足していても、信用力のある会社が発行した手形なら銀行から融資を受けることも可能です。銀行にとっては最も融資しやすい融資形態ということになります。
しかし、それを悪用し、資金繰りの厳しい会社が共謀し、商取引の実体がない手形を発行し資金を調達するケースがあります。これは業界では「融通手形」と呼ばれ、銀行では特に注意を払っています。商取引の実態がなく、両者が共に資金繰りに窮している場合に発行された手形なので、不渡りになる可能性が高いからです。
当座貸越は、あらかじめ銀行と協議し設定した融資枠の範囲内で自由に利用することができます。例えば、1年間の期限で5000万円の融資枠を設定すると、融資金額が5000万円に達するまでは、いつでも融資を受けることが可能です。急に商品仕入れ資金が必要になっても、すぐに資金調達が可能です。また、返済に関しても余剰資金ができたときにはいつでも返済が可能なので、柔軟に利用できます。最も利用しやすい融資といえるでしょう。
ただ、銀行にとっては最も難しい融資形態でもあります。契約期間中に急激に業績が悪化したり、資金繰りが悪化したりすれば融資金の回収が困難になるなどリスクが高いからです。こうした事情から当座貸越を利用できるのは一部の優良企業に限られています。
使途に合わない融資が企業の経営を圧迫する
融資形態を選択するに当たり、最も重要な条件は資金使途と借入期間です。例えば工場の建設資金など、設備投資のための資金なら、証書貸付によって長期融資で賄うべきです。金利が安いからという理由で短期の手形貸付で資金調達を行えば、返済資金を調達するための資金繰りが圧迫されるリスクが生じるでしょう。
逆に、商品仕入れなどの運転資金を長期の証書貸付で調達しても、不利益となる点が出てきます。証書貸付は、手形貸付と比較して印紙代のコストがかさむことは先にお話ししました。さらに、余計な資金を銀行口座に寝かし続けることにもなりかねず、資本効率という点では必ずしも良いことではありません。
企業の財務指標には、資産や負債のバランスがうまく保てているかをチェックする指標があります。「流動比率」や「固定長期適合率」といった指標です。
流動比率では、流動資産と流動負債の比率から、企業の短期的な支払能力を判断することができます。固定長期適合率では、固定資産の調達に短期の借入金が充当されていないかを判断する目安になります。実態と合わない融資形態で借り入れを行えば、こうした財務指標に異常が現れます。それは長期的には資金繰りを圧迫するリスクを示す信号ですから、銀行員はチェックしています。
「融資は金利が安ければいい」というものではありません。融資形態をよく知り、ふさわしい融資形態を選ぶことが、長期的に資金繰りを安定させることにつながります。