ネット銀行は、実店舗を最小限にしてインターネットを介した取引を中心とする金融機関です。相性がいいネット通販決済に使ったり、金利面などで魅力がある住宅ローンを借りたりと、個人として利用している方は少なくないと思います。
一方、企業はネット銀行は送金手数料が低く、リアルタイムで入金状況も確認できることから、入出金に特化した決済ツールとして活用するケースが目立っていました。しかし、これからは融資面でもネット銀行の存在感が高まっていく可能性があります。
金融機関には、預金・決済・融資の3つの機能が求められます。ネット銀行は預金・決済のツールとしては申し分ないのですが、融資機能が手薄なことが企業のメーンバンク選びの上でマイナスに働いてきました。
まずJNBは、2015年から中小企業向けの融資商品を展開しています。これは「Yahoo!ショッピング」「ヤフオク!」に出店している事業者向けに商品仕入資金を貸し出すもので、融資申込に当たっての無担保・無保証人、さらに決算書が不要であることをセールスポイントにしています。
無担保・無保証人といった借り手にとって有利である条件設定ができる理由は、JNBの主要株主であり「Yahoo!ショッピング」の運営元でもあるYahoo! JAPANとの提携に隠されています。
Yahoo! JAPANとの提携により、JNB側では「Yahoo!ショッピング」モール内での売り上げや商品の動き、出店者の評判が取得できるため、融資申込金額(仕入資金)の規模の妥当性や、返済能力の判断が可能になっているのです。Yahoo! JAPAN 側にとっても、出店者に資金が供給されることで、モール内での取引が活発になるというメリットがありそうです。
JNBが中小企業向け融資を行う理由は、金利収入で利益を得ていくというよりも、モールの活性化のほうにあるのかもしれません。いずれにせよ、「Yahoo!ショッピング」での売り上げがメーンの中小企業にとっては、既存の金融機関よりも使い勝手が良く、メーンバンク化も視野に入ってきます。
楽天銀行は既存顧客の対応強化の路線か
Yahoo!サービスを利用する事業者向けの融資を展開するJNBに対し、楽天銀行でも2016年から「楽天銀行ビジネスローン」と称した融資商品の展開を始めました。JNBが商品仕入資金・小口資金融資に特化しているのに対して、楽天銀行は融資上限額を1億円にして、大口融資も視野に入れているのが特徴です。
融資条件については、原則有担保・経営者保証付と、既存の金融機関と同様のものになっています。記事執筆時点(2017年5月)で取り扱い開始から1年もたっていない中なので推測の域を出ませんが、既存顧客への提案内容の1つとして、融資もメニューに加えたというところでしょう。
前述の帝国データバンクの調査でも、少数ですが楽天銀行をメーンバンクと認識している企業も見られます。一般的に、メーンバンクは「融資残高か決済取引が最も多い金融機関」と答えることが多いため、楽天銀行をメーンバンクと認識している企業は、「金融機関との取引は決済だけ(融資は受けていない)」という企業なのではないかと推測されます。
もしかすると、地方銀行などの既存金融機関が取りこぼしていた無借金企業の資金需要を掘り起こすというのが、楽天銀行の融資戦略なのかもしれません。
ネット銀行はメーンバンクになり得るか
業務がネット通販中心で、資金需要はショップ用の仕入資金のみということであれば、JNBは有力な選択肢になり得ます。楽天銀行も融資の相談先候補に加えることはできるでしょう。しかし、実店舗を最小限にすることでコストカットを実現してきたネット銀行に対して、何をどこまで求めることができるかという問題があります。
例えば、突発的な要因で資金繰りが一時的に悪化した際に、返済条件の変更や繰り延べを受け入れてもらえるか、それとも機械的に債務不履行と扱われるのかなど、不透明な部分が残ります。地方公共団体の制度融資の窓口になっていないということも課題の1つです。
現時点では、ネット銀行をメーンバンクの座に据えるのは尚早ではないでしょうか。地方銀行や信金・信組との取引を継続しつつ、サブバンクとして融資取引を始めていくぐらいが無難かもしれません。