2016年12月、名古屋銀行は医療系専門予備校を運営するキョーイクに対して、知的財産権を評価した融資を実行しました。同社の予備校名称であり、商標登録もしている「メディカルラボ」が持つブランド力に着目し、不動産と同じような担保価値を見いだしたのです。
名古屋銀行のように、商標権をはじめとする知的財産権を評価して融資を行う手法を「知財金融」といいます。知財金融とは特許庁が推進している融資手法で、特に東海地方では、名古屋銀行と愛知銀行が実績を積み上げています。
名古屋銀行はキョーイクの他にも、機械部品を製造する木下精密工業が持つ特許権を評価して融資を行っています。また、愛知銀行でもウイークリー・マンスリーマンション事業を展開するアットインが持つ商標権を評価した融資を行うなど、東海地方を地盤とする両行によって知財金融による融資先の掘り起こしが進んでいます。
この動きは、中小企業をメーン顧客とする信用金庫にまで広がっています。例えば岐阜信用金庫では、シリコン製品を製造するタナックに対して、特許出願などの知財戦略を評価した融資を行っています。タナックは年商10.6億円、従業員35人の企業です(2016年11月時点)。知的財産権を評価する知財金融は大企業だけではなく、中小企業にも活用できる融資手法であることが分かります。
知的財産が持つ価値とは…
商標権、特許権といった知的財産権は、その名の通り財産権の一種であり、自動車や製造設備、不動産と同じように財産的価値が認められています。よって知財金融についても、本質的には不動産を担保にした融資と変わりません。
ただ、自動車や製造設備などの固定資産は、時間の経過とともに価値が減少してしまいます。不動産なら、都市開発をはじめとした外的要因に大きな影響を受けます。それに対して、知的財産権は企業自身の努力によって価値を何倍にも増加させることができます。
例えば「東京ガールズコレクション」という商標は、もともと商標登録の実費相当分の価値しかありませんでした。しかし、この商標を元にイベントを展開し、実績を積み重ねることで2015年の商標権売却時には8億円の価値にまで跳ね上がりました。
知的財産権の担保価値は、それまで企業が積み上げてきた実績と将来の可能性によって決められていきます。つまり知財金融は、知的財産権を切り口にして、企業の将来性までも評価する融資手法ともいえます。金融機関を監督する金融庁でも、事業内容や将来の可能性を評価して融資を行う事業性評価融資を提唱していますが、知財金融は事業性評価融資の1種と位置付けることもできそうです。
知的財産権を評価する金融機関が増える?
特許庁と経済産業省は、知財金融を全国に広めるための運動を行っています。例えば2015年からは、金融機関が知的財産権を評価することを後押しする知財ビジネス評価書作成支援事業の公募を実施しています。3年目となる2017年は6月19日より申し込みを受け付けています。これは知的財産権の価値を正しく評価していくための調査費用を補助するものであり、金融機関は負担ゼロで知的財産権の評価に着手できます。
中小企業から、自社の知的財産権を評価するようにメーンバンクに依頼するのもよいでしょう。知的財産権を評価してもらうことで、自社の技術力やブランド力をメーンバンクにアピールすることにもつながります。
金融機関独自の視点から知的財産権の有効活用についてアドバイスされる可能性もあります。例えば広島銀行では、2017年6月26日から「企業知的財産活用診断サービス」をスタートしています。こちらは、広島銀行が知的財産権活用の観点から顧客の事業内容をヒアリングし、コンサルティングを行っていくサービスです。
広島銀行では、自行の目標を記載する金融仲介機能のベンチマークにも知的財産権を担保にした融資の推進を掲げるなど、顧客の知的財産権を評価していく姿勢を鮮明にしています。
特許取得、商標登録というと、他社の模倣を防ぐ守りのイメージが強いですが、金融機関の融資審査に組み入れられることで、自社の技術力やブランド力を評価してもらうための攻めのツールにもなり得るのです。これまで起業したばかりの企業は、不動産などの財産がないため融資を受けにくいという面がありましたが、知財金融はそれをカバーする可能性もあるでしょう。