2017年12月、金融庁は、「金融検査マニュアル」の廃止も視野に入れた大胆な監督方針の転換案を打ち出しました。金融検査マニュアルは、銀行や信用金庫といった金融機関が融資審査を行う上で、ガイドラインとなる重要なものです。金融検査マニュアルが廃止された場合に想定される、融資を受ける側の中小企業の資金調達に生じる変化を解説しましょう。
銀行や信用金庫といった金融機関は、金融庁から金融業の許可を得て営業を行っています。金融庁は許可後も、金融機関へ定期的に立ち入り検査を行うことで、業務が適正に行われているかをチェックし、問題が見つかれば是正指導をしてきました。
立ち入り検査で融資に関してチェックされることは、返済が滞り不良債権となるような金融機関のリスクを回避する的確な審査が行われているかです。この場合のリスクが生じる要因とは、業績が芳しくなかったり、実現性の低い事業計画などに融資していたりする状態になります。リスクを軽んじるような融資を行うのは、金融検査マニュアル的にはNGの行為です。リスクを軽んじた融資が目立てば是正指導の対象になり得ます。
このように金融機関業務をチェックするときに、何がOKで、何がNGかをジャッジするガイドラインが金融検査マニュアルですから、金融機関の業務もそれに沿ったものでした。
ガイドラインが廃止となり、融資審査はどう変わる
金融検査マニュアルは全国一律のガイドラインです。東京、大阪といった大都市の金融機関も、人口減少が進む過疎地域の金融機関も、同じ基準のもとで行われてきました。この金融検査マニュアルがあるがゆえに、金融機関の行動が画一的になっていた面があったのです。
画一的になった理由は、是正指導を受ける可能性を最小化するため、金融検査マニュアルに沿った融資ばかりを行うようになったからです。ガイドラインを設けたことによって不良債権になるような融資は減ったかもしれませんが、顧客企業のためではなく、金融庁の顔色をうかがうような無難な融資ばかりという金融機関を多く誕生させてしまったわけです。
金融検査マニュアルが廃止されれば、こうした状況を脱却して、各金融機関がそれぞれの個性に応じた融資審査を行えるようになると期待されているのです。
融資を受ける側はどのように対応していくべきか…
これまでは金融検査マニュアルがあったため、極端なことをいえば、A銀行で断られた案件は、B銀行、C信用金庫に行っても、同じく断られている状況でした。どの金融機関も金融検査マニュアルに沿って同じような融資審査を行っていたためです。
金融検査マニュアルが廃止されると、各金融機関がそれぞれの融資方針・個性に応じた審査を行えます。そうなると、A銀行で断られたとしても、B銀行やC信用金庫では違った審査結果となる可能性も出てきます。
今後は融資を受ける側も、単に支店が近い、金利が低いということだけではなく、自社に合った融資方針を持つ金融機関を探して、相談をするという行動力が必要になってきます。融資を受ける側が能動的に金融機関を選択する価値がある時代になるということです。
このように選択する場合に重要になってくるのが、金融機関の個性が如実に現れる「金融仲介機能のベンチマーク」です。
自社に合う金融機関を探すためのベンチマークとは?
金融仲介機能のベンチマークとは、各金融機関がそれぞれの目標を明確にし、目標を達成していくための成果指標(ベンチマーク)をまとめたものです。
例えば、大阪に本店を置く池田泉州銀行では、地域との共存共栄や、地域の中小企業と個人にフォーカスを当てた融資を行っていくことを目標にしています。
一方、同じ大阪に本店を置く近畿大阪銀行の場合は、地域経済の発展に力点を置いて、顧客企業のコンサルティングと成長支援をしていくことが目標です。
ほかにも池田泉州銀行の指標は、顧客企業の「経営改善」のため、近畿大阪銀行は顧客企業の「事業拡大」のためなどを挙げています。
ここに金融機関の個性が表れます。例えば、業況が必ずしも上向きではない企業は池田泉州銀行のほうが親身に対応してくれるのではないか、成長のための投資資金を求める企業は近畿大阪銀行のほうが融資を引き出しやすいのではないか、といった分析をしたうえで、相談ができるようになったのです。
個性を読み解く金融仲介機能のベンチマークは、金融機関ごとに記述内容が異なります。また、金融機関によっては文字量が多く全てを読み込むには、手間がかかるかもしれません。あるいは、どれも同じような内容で、明確な違いが分からないというケースもあるでしょう。そのようなときは、「ライフステージ別の融資件数」を見ることで、おおよその個性をつかむことができます。
ライフステージ別とは、創業期、成長期、安定期、低迷期といった企業のライフステージごとに、融資件数を分類したデータのことです。その金融機関が、どのステージにいる企業への融資を重視しているかが分かります。融資件数の分布から、創業企業の掘り起こしを重視しているのか、低迷期の企業の再生支援を重視しているのかなどという傾向をつかむことができるのです。
金融検査マニュアルが廃止されれば、融資は金融機関ごとの個性を反映したものになることが予想されます。融資を受ける側も、金融仲介機能のベンチマークなどから個性を分析し、自社と相性が良い金融機関を見つけていく目利きが必要になっていくでしょう。