社会環境の変化などによって、学校が抱える教育課題は増え続けている。解決のポイントの1つは、教員が子どもたちと向き合う時間を増やすことだ。教員が抱えているのは授業だけではない。課外活動や事務処理に忙殺され、子どもと向き合う時間が圧迫されている。多くの学校がこの課題を解決するため校務の情報化を進めているが、教員の負担はなかなか減っていない。
文部科学省は、この問題を解決するためには校務に関わる教員への負荷を軽減する校務の情報化が有効であるとして、積極的にICTの導入を後押ししてきた。その結果、2006年3月時点で33.4%だった校務用コンピューターの整備率は、この10年間で急速に高まった。2015年3月時点で113.9%に達している(「平成27年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」文部科学省)。
校務用コンピューターの整備率が113.9%に達したということは、教員1人1台環境がほぼ整ったことを意味している(実際には1人1台以上の学校が含まれるため、教員全員に行き渡ったとは言い切れない)。しかし端末の整備が進んでも、大半の学校は手書きの書類を電子化した程度に過ぎず、校務に関わる負荷が大きく軽減されたとは言い難い。
負荷が減らない原因として、情報が一元化されていないことが挙げられる。紙の書類を扱っていた頃と、作業量自体がほとんど変わっていない。例えば、調査書を作成するとき、成績管理のファイルを開き、別のソフトで作った出欠管理表をプリントする。養護教諭が作成した保健情報を紙で受け取り、それぞれの情報を手作業で1つにまとめている。
こうした状況を打破するため、文部科学省は2016年6月、「次世代の学校指導体制にふさわしい教職員の在り方と業務改善のためのタスクフォース」の報告書を発表した。その中で教員の長時間労働を改善し、教員が子どもと向き合う時間を確保するための改善策として、成績処理や出欠管理、健康診断表、学校事務などを統合する機能を持つ「統合型校務支援システム」の整備を促進するとの方針を打ち出した。
教育現場の実態を調べてみると、統合型校務支援システムを導入している学校は、全国で40.1%(「教育の情報化について―現状と課題―」文部科学省)。校務用コンピューターの整備率が上がったものの、約6割の学校はその恩恵をほとんど得られていないということになる。
統合型校務支援システムの導入効果と課題
統合型校務支援システムは、グループウェア機能・校務事務処理機能・生徒情報管理機能が統合されている。このシステムの導入で、学校は以下のような効果が期待できる。
(1)成績処理や、学籍、出席管理などを統一されたアプリケーション上で行うことで、作業ミスの軽減、情報の二次利用が可能になり、校務に割く時間を大幅に削減可能
(2)生徒児童の名前を入力するだけで、ひも付いているすべての情報を入手できるので調査書などの作成が容易
(3)スケジュールや掲示板、共有キャビネットなどの機能を利用することで、校内はもちろん学校間、教育委員会と学校との情報のやり取りもスムーズになる
(4)出張・休暇などを電子申請・電子決裁で行える
以上のような多様な効果が期待できる一方で、統合型校務支援システムを導入する際には気を付けなければならない以下のような課題がある。
(1)不正ログインされると、校内の情報にアクセスされてしまうので、十分なセキュリティー対策を行う必要がある
(2)保守運用体制の整備はもとより、システムの冗長化が重要
(3)学期末や年度初めなど、異動やデータ移行のタイミングを意識して、教職員向けの導入研修を実施しなくてはならない
(4)帳票類統一に向けて、学校間の合意を形成する必要がある
統合型校務支援システムの導入は、教員の校務に関わる負荷を軽減し、子どもたちと向き合う時間を増やすための有力なソリューションだ。教育現場では、2020年に予定される学習指導要領改訂に伴い、今まで以上に“校務”と“教務”が融合することから、教員の校務業務の高度化と子どもたちへの指導力向上に対する期待感が高まっている。つまり教務利用の要素も考慮した、新たな統合型校務支援システムが求められる。教員の負担軽減はもとより、2020年の学習指導要領改訂に備えて、統合型校務支援システムを導入していきたいものだ。