一流のリーダーに欠かせないスキルの1つが、仕事のスピードである。しかし、実際のビジネスシーンでは、スピードだけは解決できない問題もある。
例えば、予定された仕事量に対して、与えられた時間が極端に短いというケースがある。猛スピードで仕事をしても、予定された仕事量に達することができない場合、一流のリーダーはどのような判断を下すのだろうか。
今回は、元マイクロソフト社の“伝説のプログラマー”こと中島聡氏の著書『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である』(文響社刊)を参考に、終わらない仕事の終わらせ方を見ていこう。
期限を守るべきか、完成度を優先して延期すべきか
時間内に望ましい完成度まで仕上げられない場合、リーダーに考えられる選択肢は大きく2つある。「期限を延ばしてもらう」か「未完成なものを納品する」である。
この選択肢に対し、中島氏は同書のなかで「納期を守ることが重要」と断言している。細かいことは後で直せばいい。まずは「絶対に納期を守る仕事」をし、粗削りでもいいから早く全体像を見えるようにすることが大切だと語る。
中島氏のこの姿勢は、マイクロソフトのトップであるビル・ゲイツ氏も同じである。ゲイツ氏は「納期を優先する」ことの典型的な実践者で、締め切りを守ることを異常なほど重視していた。…
例えば、パーティー会場に花をセットする仕事をある人物に任せた場合、生花店の都合で花の到着が遅れたとしても、そのことを言い訳にするような人間や仕事の仕方は、絶対に許さなかったという。
この場合、与えられた仕事は、パーティーに間に合うように会場に花をセットすること。お店に花をオーダーすることは、その人が選択した1つの業務かもしれないが、あくまでプロセスであり、仕事そのものではない。つまり、選択した本人にその責任がある。間に合わないのであれば、別の手段を講じてでも花を調達する責任がある。それが仕事である。
仕事は、基本的にその仕事だけで完結することなどない。完結すると思われる仕事でも、ほとんどの場合、他の仕事に関わっている。ソフトウエア開発などはその最たるもので、あるチームの開発が遅れると、結果としてすべてのチームの仕事に影響を与えることとなり、開発は遅れ、費用は膨らみ、会社存続の危機にもつながりかねない。だから、締め切りは絶対に守らなければならない、というのだ。
「完全であること」ではなく「全体像を示す」ことが重要
未完成のものを納品する場合にも、いくつかの選択肢がある。例えば、部分的であっても、品質の良い一部を納品する方法もあるだろう。しかし中島氏はそれよりも、完成した場合にどうなるかが分かるよう、全体像の骨格が分かるように納品することが重要としている。
Windowsもそうだが、スマートフォンのOSもアプリも、常にアップデートし続けている。メーカーは完成度の高い商品とするために、常に商品を改良し続けている。つまり、後に提供される未来の完成品からすれば、今の製品は未完成品にすぎないのだ。
これは、ソフトウエアに限らない。自動車でも、電化製品でも、衣料や、住居でも、あるいは、医療や介護といったサービスでも同じである。100%のモノを提供することは永遠にできない。だからこそ、どのようなものが求められているのか、その全体像を明らかにしなければならない。提供するものの範囲が決まっていれば、まず、そのアウトラインを示すこと。それが、締め切りを守ると同時に、必ず達成しなければならないことである。
「納期を守る」ことがマイクロソフトの繁栄を支えている
中島氏が、マイクロソフトでビル・ゲイツ氏からWindows95の開発を任されたのは、納期に対する姿勢が徹底していたからだ。バクがあっても、ライバルチームから大変な批判を浴びせられても、経営トップが判断しうる全体像を、予定されたプレゼンテーションの日に示した。そして計画通りWindows95の開発を担うことができるのは自分だと、ゲイツ氏を納得させたのだ。日本人としてその偉業を成し遂げた中島氏は、やがて伝説のプログラマーと呼ばれるようになった。
マイクロソフト社は1999年に時価総額世界一に輝いたが、それから15年以上過ぎた2016年10月末時点でも、時価総額で第3位にランクインしている。ゲイツ氏も、20年以上たった今も世界長者番付の1位である。この事実を陰で支えているのが、「納期を守る」という、一流のリーダーが下す選択なのだ。
参考文献:
『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である』(文響社刊、中島聡著)