前回見たように、女性力活用が叫ばれているにもかかわらず、改善が見られない、あるいはマタハラなど悪化しているケースも見られるのはなぜでしょうか。今まではその理由を主に「男尊女卑意識」に求めてきましたが、本項では別の視点から分析・考察していきます。
まず、下記のグラフ(1と2)をご覧ください。このグラフは、1979年から2012年までの20歳以上の全国民を対象に調査した、いわゆる「性別による家事・仕事の分担」に対する意識の変化です。グラフを見ると、時代的な相対変化に男女差はあまり見られませんが、同時代の男女の意識には差があります。
やはり大方の予想通り、男性の方が「男は外で仕事、女は家で家事」に賛成する割合が多く、女性は低くなっています。しかし時代が流れるにつれ、男女ともに性差による家事分担に賛成する割合は右肩下がりになっており、ここからも男女同権への社会的な意識の変化が見てとれます。
なお2012年は男女ともに賛成の割合が伸びていますが、これはサブプライムローン問題を発端とする世界的な不景気や災害によって、就職や転職が困難になったことによる一時的な意識変化だと考えられます。それを示すかのように、最新の2016年調査では、男性の回答が賛成44.7%、反対49.4%、女性の回答が賛成37.0%、反対58.5%となっています。
ここで特筆すべきは、男性の賛成は2016年調査でようやく5割を切りましたが、それまでずっと過半を占めていたことです。一方、女性は2002年に反対が賛成を上回り、その5年後の2007年には反対が6 割弱を占める結果になっています。
下記のグラフ(3と4と5)は、35歳未満の男女を対象とした「女性のライフコースに関する考え方の変化」をグラフ化したものです。端的にいえば「結婚したら仕事はどうする?」という質問に対する回答をまとめたものです。3つのグラフから社会情勢の変化が見えてきます。また、今後の人的資源活用を考える上では非常に重要なグラフだといえます。
女性のライフコースに関する考え方の変化(男女別)
※35歳未満の回答者より抽出
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出典:国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査(独身者調査)」(2010年)[/caption]
●各コースの定義
・専業主婦コース:結婚して子どもを持ち、結婚や出産の機会に退職。その後は仕事を持たない
・再就職コース:結婚して子どもを持つが、結婚や出産の機会に一旦退職。子育て後に再び仕事を持つ
・両立コース:結婚し子どもを持ち、仕事も一生続ける
・DINKSコース:結婚するが子どもは持たず、仕事を一生続ける
・非婚就業コース:結婚せず、仕事を一生続ける
これらを見ると、女性は総じて「結婚はするが仕事もしたい」「仕事だけ、あるいは結婚だけというどちらか一方というライフスタイルは望んでいない」ということが分かります。
グラフ3の女性の理想を見ると、「再就職」と「両立」がどの時代でも高い水準を誇っており、全体的な形もそれほど変化がありません。このことから、「結婚と仕事の両方を望む」という意見は、ある程度の普遍性を持っているといえるでしょう。
一方、グラフ4の女性の現実を見てみると、時代が流れるにつれ「再就職&専業主婦:減少」「両立&非婚就業:増加」している点が際立ちます。「専業主婦の減少」と「非婚就業の増加」は、そのまま「女性が社会進出できるという社会的な「成熟」、もしくは「女性が就業しやすくなったことによる晩婚化・非婚化」の指標と見ることができます。
しかし、ここで経営者に見てほしいのは、「再就職が減り、代わりに両立が増加している」という点です。これは「日本企業の女性力活用の度合い」であるともいえ、「両立の増加」は「女性が結婚しても、福利厚生や育児休業などを活用することで、女性が働き続けられる環境を企業側が整備している」ことを意味しています。
つまり、この変化は女性が「仕事も結婚も両方希望している」という点を踏まえて、企業側が、従来のような「結婚=寿退社」という旧態依然とした考えや対応を変えて、女性力を長く活用する方向にシフトしていることを表していると考えられます。
連載第2回で紹介した女性力活用の国際比較の図を思い出してみてください。日本は典型的な「M字カーブ」を描いていました。このM字の谷を示すのが、ここで言う「再就職」の割合です。「(女性の、現実における)再就職の割合が高いほどM字の谷は深くなる」ので、この割合が徐々に減ってきているということは、M字カーブの谷が徐々に浅くなってきているという証しです。
今後「両立」が増加し、「再就職」が減少していけば、日本は晴れて先進諸国のような「曲線カーブ」を描けることになります。そしてそのカギは、経営者が握っているのです。
常識の非常識化を知ること
グラフ5の男性の期待を見ると、当然のことながら「非婚就業」の割合は低いものの、グラフ4の女性の現実に比較的近い形をしていることが分かります。
この結果が「女性の希望をくみ取ったから」なのか、それとも「不景気なので共働きせざるを得ないから」なのかは定かではありませんが、前述のグラフ1、グラフ2の変化と合わせて見ても、ここ15年ほどの間で「男性社会」は徐々に変化してきているのは確かなようです。
誤解を恐れずにいえば、社会的にこのような変化が見えてきている現在において、なお旧態依然とした運営形態や過去の慣習に固執している企業は、すでに「これからあるべき企業の形」に乗り遅れているということになります。これまでのような「男は外、女は中」という女性労働者に対する常識は、すでに日本社会の中ですら常識ではなくなってきています。
にもかかわらず、年配の男性経営者、あるいは女性社員自身が「日本は男性社会。周りの人も皆そう思っている」と侮り、諦めているようでは、時代に取り残されてしまいます。そうならないように、自身の常識と周囲の意識の変化をもう一度じっくり見直してください。女性力活用のための事前準備は、そこから始まるのです。