法律は土台の「1つ」に過ぎません。制度を上乗せしても崩れないしっかりした土台をつくるには、「ワーク・ライフ・バランス」と「法律」の双方を、同程度制度に盛り込む必要があります。前回から引き続き、労働基準法について解説します。
労働基準法に記載されている、2014(平成26)年4月時点での女性(妊産婦含む)に関する条文と説明を下記にまとめました。なお各種法律の運用や解釈については、ケースごとに異なる可能性がありますので、実際に運用する場合にはその都度専門家に相談・確認してください。
下記の「労働基準法における女性労働者に関する主な条文」が女性労働者に関係する主な条文です。単体で意味を成すものもあれば、他の条文を踏まえた上で、その例外規定としての特徴を持つ条文もあります。
また第15回でも説明したとおり、労働基準法はあくまで「最低限の基準」を規定している法律です。たとえ法律違反をしていないとしても、それが最低限ギリギリの基準だとしたら労働者の不満は高まるでしょうし、女性社員の能力をフル活用するという効果も望めません。
繰り返しになりますが、実際に運用する際は関係条文やその他の関係法令、および自社内での現状や問題の状況などを加味した上で、できれば専門家の意見を交えながら運用するようにしてください。
――ポイントは、「労働者が女性であっても、性別以外の理由(能力・勤怠・功績など)で差別的取り扱いをすることは違反ではない」「性別を理由にしていても、賃金以外の部分(待遇・昇進・福利厚生など)について差別することは違反ではない」という点。ただし労働基準法では問題なくても、その他の関連法(男女雇用機会均等法や最低賃金法など)による規制や罰則を受ける可能性があるので、その点は注意してください。…
2.解雇制限(第19条)
「使用者は、(中略)産前産後の女性が第65条の規定(後述)によって休業する期間及びその後30日間は解雇してはならない」
――ただし使用者が打切補償を支払う場合や、天災事変などで事業の継続が不可能となった場合は解雇が可能となるケースもあります。
3.坑内労働の禁止(第64条の2)
「使用者は、妊娠中の女性及び坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後1年を経過しない女性を、坑内で行われるすべての業務に定める業務に就かせてはならない(第64条の2の1・要約)」
「使用者は、臨時の必要のため坑内で行う一部の業務を除き、前号に掲げる女性以外の満18歳以上の女性を、坑内で労働させてはならない(第64条の2の2・要約)
――64条の2で禁止される「坑内で行われる業務」は「女性に有害な業務として厚生労働省令で定めるもの」として明記されています。実際に運用する際は、厚生労働省令をご確認ください。
4.危険有害業務の就業制限(第64条の3・要約)
「使用者は、妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性(以下、妊産婦)を、重量物を取り扱う業務・有害ガスを発散する場所での業務・その他妊産婦の妊娠・出産・哺育等に有害な業務に就かせてはならない」
――ここでの「有害な業務」は、厚生労働省令にて定められています。運用の際は、厚生労働省令をご確認ください。
ただし、たとえその業務が「有害な業務」に規定されていなかったとしても、経営者としては妊産婦の母体への肉体的な負担となる業務は極力与えないようにしておく配慮も必要です。一時的に生産性が落ちる恐れがあっても、そうした配慮があると他の女性社員の、将来にわたる安心や信頼にもつながり、長期的にはモチベーション・マネジメントとしての効果も期待できます。
5.産前産後休業(第65条の1.2)
・産前休業:「使用者は、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合、就業させてはならない」
・産後休業:「使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし産後6週間を経過した後、女性本人が就業を請求した場合、医師が支障ないと認めた業務に就かせることは差し支えない(第65条の2・要約)」
――女性本人が「就業」を請求したとしても、産前産後6週間を経過していない場合は就業させてはいけません。産前・産後、および就業請求・休業請求の違いを勘違いしやすいので注意しましょう。
6.経緯業務転換(第65条の3)
「使用者は、妊娠中の女性が請求した場合、他の軽易な業務に転換させなければならない」
――「妊娠中の女性が請求」と「転換させなければならない」の2点に注意しましょう。本人から請求がない場合は、5の産前産後休業にかからない限りは転換させず、就業させても問題ありません。
7.時間外・休日労働・深夜業の規制(第66条・要約)
「使用者は、妊産婦が請求した場合、超過労働・時間外労働・休日労働・深夜業をさせてはならない」
――この条文は、他の規定(第32・33・36条など)の規定に優先されます。他の条文に書かれている「変形労働時間」について簡単にまとめると、「妊産婦が請求した場合、フレックスタイム制以外の変形労働時間制の規定は適用されない」となります。複数の条文が絡んでいますので、それぞれの条文の内容を確認の上運用してください。
8.育児時間(第67条の1.2)
「生後満1年に達しない生児を育てる女性は、第34条の休憩時間のほか、1日2回、各々少なくとも30分、その生児を育てるための時間を請求することができる(第67条の1)」
「使用者は、前項の育児時間中は、その女性を使用してはならない(第67条の2)」
――条文中の「第34条」は、「労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩時間を、労働時間の途中に与えなければならない」というもの。当条文はこれらの休憩時間以外に、さらに育児時間を女性に与えるべし、と書かれています。またここでの「1日2回」については、時間帯やとり方などについては労働者の任意なので、2回分をまとめてとることもできます。
しかしここで注意しなければいけないのは、当条文はあくまで該当する女性が「(休憩を)請求することができる」権利を明記したものなので、使用者は女性から請求されない限り、休憩を与える必要はありません。しかし、もし当該女性が請求してこない理由が「男性社員の無言の圧力」や「(男尊女卑が根付いた)企業風土」などによるものだとしたら、まずはそこを直さなければいけません。
9.生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置(第68条)
「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」
――男性社員にとっては「たかが生理」と思うかもしれませんが、女性にとっては筆舌に尽くしがたい苦痛。そこに対する男性社員・男性経営者の気配りがあるのかないのかで、女性力活用の成否は大きく違ってきます。
この条文は、先に説明した「セクハラ」と絡んで、女性にとっては非常に重要かつデリケートな部分です。また「ワーク・ライフ・バランス」「モチベーション・マネジメント」「メンタルヘルス」などの論点にも広がる可能性があります。
この条文については存在を知らない経営者および女性社員も少なくありませんので、同条文を人事活用制度に盛り込むと、期待以上の効果を発揮するかもしれません。
経営者の「法律違反をしていないのだから、この程度(最低限のラインギリギリ)でいい」という考えは、人件費や数的効率の上では正しいのかもしれませんが、本章の趣旨やモチベーション・マネジメントの観点からすると、間違い以外の何物でもありません。
資源的な限界や不景気による影響のため実際には難しいかもしれませんが、経営者としては、なるべくならば「労働基準法の基準は十分満たしているけれど、さらに女性社員が心身ともにのびのびと働ける環境を整備しよう」というおおらかな心がけで環境づくりに取り組んでほしいと思います。