ゆとり世代活用と女性力活用
第21回からは具体的な施策構築の手順や方法について説明をしていきますが、その前に「ゆとり教育世代の戦力化施策構築の手順」について簡単に説明したいと思います。
下の表は、ゆとり教育世代を教育する際の流れを大まかに3ステップにまとめたものです。人事教育施策の構築を考える際であっても、ゆとり教育世代と女性社員で異なる特徴や注意点を中心に説明します。
ゆとり教育世代の人事教育を考える場合、これまでは基本的には性別についての区別はなく、教育対象はあくまで「ゆとり教育を受けた世代」という認識でした。
ゆとり教育世代に対する人事教育策が難しいのは、彼らが「企業や担当者、あるいは旧世代の誰もが、これまで経験したことのない思考や行動力を持った人間・世代」であるため、旧世代が持つ過去のノウハウや経験の蓄積が通用しないという一点であり、それ故に、前例のない事態に頭を抱える人事担当者も多いのだと考えられます。
一方、女性社員に対する人事教育策はどうでしょうか?当たり前ですが、女性力はゆとり教育世代よりもはるか以前から存在しています。ということは、当然企業はそれまでに培われてきた人事教育のノウハウを有効活用することができるはずであり、未知の闇に手探り状態で挑まざるを得ないゆとり教育世代への人事教育に比べれば、はるかに楽なはずです。
にもかかわらず、これまで説明してきたように、自身の無知や未熟な法整備によって女性の権利を奪ったり、女性の不満の声を無言の圧力で押しつぶしたりするだけでは飽き足らず、女性に対して新しい差別意識を持ったり実害を与えたりする社員が後を絶たないなど、依然として多くの企業における女性労働者への環境整備や意識改革はお粗末極まりないものになっています。
繰り返しになりますが、これらの原因は「男性社員の差別意識や偏見」にほかなりません。男性社員の「どうせこの仕事も結婚までの腰掛けなんだろう?」というセリフに代表されるように、過去において、経営者および男性社員の多くはそもそも女性労働者を(恒久的な)労働力と見なしておらず、だからこそ女性社員に特化した人事教育をしてこなかったという歴史があります。
ましてや「企業の成長のためには女性力が必要不可欠」という意識で人事教育に取り組む企業はごく一部であり、それ故、大半の企業には過去のノウハウや経験値がゆとり教育世代と同じようなレベルでしか蓄積されていないのだと考えられます。
近年では、大企業や先見の明を持った経営者を中心にこの現状が改善されてきましたが、それでもまだまだ「当たり前」というレベルには到達していません。
ここで冒頭の「ゆとり教育世代、戦力化のための3ステップ」を見てみましょう。ゆとり教育世代の教育ステップの核となる部分は、「過去のノウハウが通用しない、あるいは過去にノウハウが蓄積されていない」という最大の問題点を解決する「Step1.ゆとり教育世代を理解する」であり、ここの成否が全体の成否を分けると言っても過言ではありません。
改めてゆとり教育世代の人事教育に関する論点・問題点を要約すると、上の表のようになります。
ゆとり世代と女性労働者との違い…
後述しますが、女性労働者に対する人事教育も、本質的にはゆとり教育世代への施策とそれほど大きな違いはありません。しかし手順自体はそうであっても、実質的な内容面では大きな違いがあります。それは何だと思いますか?前段で説明したように、ゆとり教育世代の能力開発および活用教育を妨げている原因の多くは「ゆとり教育世代に対する差別と偏見」だと考えられます。
この連載で繰り返してきましたが、女性労働力の成長や発展を大きく阻害してきたのも「差別と偏見」であり、その担い手も同じく「長く会社経験を経た男性社員」でした。過去に軽んじられてきた2つの労働力は、同じ理由で、同じ人物によって押さえつけられてきたといえます。
しかし、同じく「差別と偏見」によって阻害されてきたとはいえ、その内容をよく見てみると、若干の違いがあることに気付きます。
ゆとり教育世代に対する「偏見と差別」は、ゆとり教育世代という「未知の存在」に対し、理解できない・対応できない・受け入れたくないといった拒絶反応を、「だからゆとり世代は……」という曖昧な言葉に封じ込めた結果生まれたものだと考えられます。
つまり、ゆとり世代への差別意識の多くは、旧世代の「思考停止」の末に生み出されたものであり、「未知の存在」であるゆとり教育世代の非常識な言動や振る舞いから(旧世代)自身を守る防衛策という色合いを濃くしています。
対して、女性労働者に対する「差別と偏見」はどうでしょうか。気付いている人も多いかと思いますが、女性労働者に対する差別意識は、ゆとり教育世代に対するそれとは意味合いが大きく異なります。これまで説明してきたように、女性に対する差別意識は長年の歴史によってゆっくりと培われてきた「常識」であり、日本独特の文化的な側面すら持っていると言っても過言ではありません。現代に生きる日本男性も日本女性も、多かれ少なかれこの「文化的な常識」にとらわれており、無意識のレベルにまで浸透しているそれはそう簡単には払拭できません。
このように、女性に対する差別・偏見の目は、わずか10年の間に生まれたゆとり教育世代へのそれとは歴史的な重みという意味で大きく異なります。
また先ほど説明したように、ゆとり教育世代への差別・偏見は「旧世代の自己防衛策」という意味を多分に内包していますが、女性に対するそれは前者よりも攻撃的で、積極的で、卑屈な側面をはらんでいます。「男性は女性よりも偉い」「男性の戦場に女性がしゃしゃり出てくるな」「男性は仕事、女性は家庭」といった、男性が持つ時代遅れな常識は単なる拒絶反応をはるかに上回り、時には女性を敵や邪魔者として見ることも少なくありません。
これら男性のゆがんだ優劣意識が出世欲や虚栄心や性欲などと混ざり合うことで、実害を伴う「マタハラ」や「セクハラ」につながっていくのでしょう。女性を「当然のごとく男性よりも下の存在」とする意識がいつしか「男の立場を荒らす邪魔者」に変わっていくことで、より積極的に女性を排除する方向に向かう……。これが単なる拒絶反応としての(ゆとり教育世代に対する)偏見とは大きく異なる点だと考えられます。
前項までで「女性力活用のための環境整備の基礎」として「法的知識」を説明しました。しかし土台としての法律は、さらに今回の差別意識の理解や排除といったものの上に成り立っています。これらの認識の違いを理解し、差別意識や偏見をなくし、正しい認識を全社に周知徹底させない限り、どれほど正しい法整備をしたところで、その土台はいとも簡単に瓦解するでしょう。
過去に女性力活用の施策を準備したにもかかわらず、途中で機能しなくなったりうまく運用できなかったりといった経験があるとすれば、その理由の根底に前述のような無意識レベルの偏見や差別意識があったのかもしれません。
女性力活用のための5ステップ
説明が後先になりましたが、今回からは、これまでの内容を踏まえた上で具体的な施策構築の手順を説明します。
下の表に大まかな流れをまとめました。
女性力活用の人事教育施策構築の大まかな流れは、このように5ステップに分けられます。冒頭でも説明したように、女性力活用の施策はゆとり教育世代へのそれとは異なり、特に未知の存在への対応でもなければ、ノウハウが皆無というわけでもありません。
前述した理由によって過去にノウハウがないとしても、女性蔑視の意識をなくし、法律的な知識を活用すれば、過去のリーダー訓練や新人教育をカスタマイズすることによって十分対応が可能となります。
今回は改めてStep1を説明しましたが、内容としては、これまでに再三再四説明してきた「女性蔑視意識」について簡潔にまとめたものにすぎません。
男性社会の女性社員に対する「男尊女卑意識」がいかに根深く、実害をもたらせてきたのかを、具体的な施策構築のスタートラインに立った今、改めて考えてみてください。
なお、まだ先の話にはなりますが、Step3は自社内にまったくノウハウがなく、これまで女性社員に対して何も着手してこなかった企業、あるいは逆に過去に何度も女性社員教育に着手しそれなりの手間暇をかけてきたのに、一向に成果が上がらない経験のある企業に向けての説明です。
ある程度ノウハウがある、あるいは過去の成果をさらに上げたいというレベルの企業は特に重視しなくてもいいポイントではありますが、(その多くが世界に名だたる大企業とはいえ)他社の女性力活用の方法・取り組み方・成果は、たとえ事業規模や業種が異なっていても非常に参考になるはずです。