1968年にタカラ(現・タカラトミー)から発売された「人生ゲーム」は、現在までに累計1000万個を突破し、“誰でも一度は遊んだことのある”と言っても過言ではないほど、ポピュラーなボードゲームとして知られています。
人生ゲームはもともと「The Checkered Game of Life」という名で、米国で1860年に誕生しました。つまり、日本に輸入される100年以上も前に生まれたことになります。なぜ19世紀のゲームが、21世紀の今も販売され続けるヒット商品となったのでしょうか。その魅力に迫ります。
もともとは宗教的なゲームだった
人生ゲームを考案したのは、米国・マサチューセッツ州の印刷業者であるミルトン・ブラッドリー。当時24歳だったブラッドリーは、大統領の肖像画を販売していましたが、売れ行き不振のため、別のビジネスを考案します。そこで彼が思いついたのが、すごろく型のボードゲームでした。
チェス盤を利用して作られたそのゲームは、「人生のシミュレーションができる」という、これまでのすごろくとは異なるコンセプトを持っていました。単に「早くゴールにたどり着いた人が勝ち」ではなく、盤面の指示に従って人生を疑似体験し、ゲーム中に得られるポイントの数を競うというものです。
とりわけユニークだったのは、コンセプトの核に「聖書の教え」を据えたことです。すごろくのマス目を「善」と「悪」のマスに分け、善のマスに止まることで、ポイントが加算される仕組みとしました。これはブラッドリーが熱心なクリスチャンだったのが理由とされます。
この人生ゲームは人々の心をつかみ、当時としては高めの値段設定だったにもかかわらず大ヒットしました。ブラッドリーは自ら会社を立ち上げ、人生ゲームをビジネスの軸とします。
米国発なのに、ゲーム中に「お歳暮」…
その後、モデルチェンジされるに従い、ゲーム内から宗教色は排除されていきますが、逆に「数」で勝敗を決めるというコンセプトは発展しました。やがて勝敗を分ける軸は、ポイントではなく「お金」へと変わっていきます。
ゲーム中のイベントも、職業を選択する、給料をもらう、生命保険に入る、株で投資を行う……といった、お金に関するものが多く盛り込まれました。巨大な資本主義国である米国の価値観を反映したような、お金による「勝ち組」「負け組」がはっきり分かれるゲームとなりました。
人生ゲームが人気を集める理由の1つに、就職やマイホームといった、リアリティーのある人生シミュレーションが行える点があります。当時もボードゲームは存在していましたが、人生を疑似体験できるものは希少でした。
もう1つ重要なポイントとして、時代のトレンドや地域性を積極的に取り込み、内容のブラッシュアップに熱心だった点もあるでしょう。例えば日本版ならば、お歳暮やお正月の習慣もゲーム内に取り入れられています。米国版の人生ゲームを直訳したままでは通じない部分を、各国の国柄に合うように最適化したのです。
また、1990年代の人生ゲームには、ベルリンの壁崩壊のイベントが取り入れられたり、当時ヒットした「人面犬」まで登場したりしました。2006年には、当時ライブドアの社長を務めていた堀江貴文氏が製作協力した「人生ゲームM&A」というものもありました。堀江氏がその後逮捕されたため、人生ゲームM&Aは発売中止となりましたが、流行を敏感に取り入れようとするメーカーの姿勢が見て取れます。
小道具の存在も見逃せません。米ドルを模したお札に、家族を表すピンが載せられる車型のコマ。まるで「人生はギャンブルだ」と言わんばかりのサイコロ代わりのルーレットは、もはや人生ゲームの定番と言うべきアイテムです。
すでにある面白いものを、より面白くすればよい
人生ゲームの根底にあるのは、サイコロ(ルーレット)の出目という不確かな要素に左右されながらゴールを競うという、すごろくの基本的な面白さです。さらにゲームの勝敗の基準を数字に変え、お金もうけや結婚といったイベントを盛り込み、本当の人生で簡単に味わえない出来事をゲームで面白おかしく疑似体験できるという、他のすごろくにはないエンターテインメント性を生み出しました。結果的に、100年以上も売れ続けています。
ヒット商品を生み出すためには、必ずしもゼロから作る必要はなく、「すでにある面白いものを“より面白くする”」に目を向けるのが重要だと、人生ゲームの成功から見て取れます。
参考文献
・タカラトミー監修『人生ゲーム COMPLETE』主婦の友社
・佐藤安太『人生ゲーム 人生は1マス5年で考えよう』マイナビ
・佐藤安太『おもちゃの昭和史』角川書店
・アンドルー・マクラリー『おもちゃの20世紀』平凡社