待機児童問題の解消には保育士の確保が不可欠だが、保育士不足は深刻化している。その背景として、子どもの命を預かるという責任の重さに伴う過酷な労働環境と、それに見合わない低過ぎる給与体系が指摘される。政府はこの問題を受け、保育士業務の負担軽減や効率化につながるシステム導入に補助金を支給するなど、保育現場の労働環境の改善に乗り出している。
保育士が足りない!全国で約7.4万人が不足
厚生労働省「保育人材確保のための『魅力ある職場づくり』に向けて」では、保育の量拡大に伴って必要とされる保育士数は、平成29年度末で約46万人と推定され、約7.4万人の保育士が不足すると見積もられている。
平成24年に大学・短大・専門学校などの保育士養成施設で保育士資格を取得して卒業した者のうち、保育所に就職するのは約半数にすぎないというのが現状だ。保育士資格を有するハローワーク求職者も、約半数は保育士職種を希望していない。「賃金が希望と合わない」が47.5%、「休暇が少ない・休暇がとりにくい」が37.0%など職場環境に起因する項目が挙がっている。
保育士は早期離職の傾向も強い。就業継続に関する理由としては、「責任の重さ・事故への不安」が40.0%と最も多く、再就職を希望しない理由は、「就業時間が希望と合わない」(26.5%)が最も多い。保育士資格を有しながら保育士職に就いていない潜在保育士を活用するには、職場の環境や処遇の改善が必須だ。
退職理由の一つは「オーバーワーク」と「安い賃金」…
「子どもが好き」「保育に携わりたい」という思いで保育士資格を取得した人が、憧れの職場から早々と去ってしまう。これは、労働環境があまりにも過酷だからだ。保育士不足で、需要に供給が追い付かない。定員基準のぎりぎりまで子どもを受け入れる保育現場で、保育士1人当たりの負担がますます加速するという悪循環に陥っている。
子どもの命を守るという重責を抱えながら、エネルギーあふれる子どもたちの相手をするのは心身ともにハードである。それに加えて、事務作業や保護者への対応にも追われる。その労働量を考えると、保育士の給料は驚くほど安いといっていいだろう。「保育士等に関する関係資料」(厚生労働省)によると、勤続年数7.6年(平均年齢34.8歳)の保育士の平均年収は、216万1000円だ。
東京都福祉保健局の「東京都保育士実態調査報告書」(平成26年3月)によると、保育士における現在の職場の改善希望は、「給与・賞与等の改善」が59.0%でトップ、以下「職員数の増員」「事務・雑務の軽減」「未消化(有給等)休暇の改善」「勤務シフトの改善」と続き、安い給与と仕事量の多さが、保育現場を圧迫していることがうかがえる。
業務効率化が急務!補助金が使えるケースも
待機児童の解消と、保育士の職場環境の改善は待ったなしだ。政府は、厚生労働省の平成27年度補正予算「保育所等における業務効率化推進事業」の中で、保育士の負担となっている書類作成業務について、ICT化推進のための保育システム(園児台帳・指導計画・保育日誌等)の購入に必要な費用を支援するとした。
対象となる施設は、保育所、幼保連携型認定こども園および地域型保育事業。保育士の業務負担軽減を目的に、ICT化推進のための保育システムを導入した場合に、1カ所当たり最高100万円の補助金が出る。また、事故防止や事故後の検証に使えるカメラの設置についても、1カ所当たり最高10万円が補助される。
保育士は保育と並行して、あるいは子どもたちが帰宅した後に、書類作成などの事務作業に当たっているのが現状だ。手書き中心だった書類作成がICT化することによって、保育士の負担が少しでも軽減され、本来の業務である保育に専念できることが期待される。