年々深刻度を増している少子化問題解決に向けた施策の目玉として2015年に内閣府がスタートさせた「子ども・子育て支援新制度」。希望出生率1.8の実現、待機児童ゼロをめざした取り組みが本格化しつつある。その中で必要性を指摘されているのが、保育士の業務効率化だ。現場の負担をいかにして減らせるか、さまざまな試みが続けられている。
保育士を圧迫する「事務作業」
子ども・子育て支援新制度は、日本における超少子化の進行や家庭、地域を取り巻く環境変化に対応するため、2012年に制定された法律(子ども・子育て支援法)に基づき整備された制度である。具体的には児童手当給付や保育施設拡充といった「量的」要素と、子どもたちがより豊かに育っていける環境を整備する「質的」要素という両面から、社会全体での支援が定められた。当制度は2015年4月から施行されている。定員オーバーで保育園に入れない待機児童の解消など、量的問題解決への取り組みは広く知られるところだ。もう一方の質的問題、とりわけ保育士の処遇面については、専門性の強い職種であることなどからあまり改善が進んでいない。
保育士の主な仕事は、子どもたちを見守り育てながら教育する「保育業務」。だが実際は、毎日の保育記録、行政への提出書類作成といった事務的業務にもかなりの時間が費やされている。先ごろ東京大学発達保育実践政策学センターが全国の保育士を対象に行った調査によると、「事務作業の多さに負担を感じる」と答えた保育士が非常に多い結果となった。
新制度では、保育を必要とするすべての家庭が利用できる環境をつくるため、これまで一律だった保育時間を保護者の就労状況などに応じて個別に管理することが定められている。多くの自治体で各保育施設は園児の登降園時間を報告する必要があり、保育士の負担がさらに増大すると懸念される。
登降園時間などの書類は定期的に自治体へ提出されている。「子ども・子育て支援新制度」により、園児の登降園時間の厳格な管理が求められるようになった。行政への申請書類作成などで保育士の事務作業負担は増大している。手書き中心が当たり前の保育園では、毎日の記録をいったんメモした後、指定の書式や帳票に転記する必要がある。
一般企業ではこのような問題に対処するために、勤怠管理システムなどのICT活用が進んでいる。保育の現場でも意図的にICT導入を遅らせていたわけではない。ただ、人員不足や財政状況などにより、ICT活用にまで手が回らないのが実情だ。多くの保育園は、保育以外の業務で疲弊している。
ICT活用で大幅な負担軽減…
厚生労働省は「保育所等における業務効率化推進事業」として、ICT化推進のための保育業務支援システムの導入に必要な費用の一部を補助し、保育士の業務負担の軽減を図る方針を打ち出した。これは、保育の現場で作成される書類がほとんど手書きである現状を踏まえ、これらをICTによって電子化し、効率化を図ろうというものだ。
新制度への対応を目的として、保育業務を速やかにICT化するさまざまなソリューションが各社から提供されている。中でも園児の登降園時間を自動で記録する仕組みは、業務効率化を進めるものとして期待が高い。NTT西日本の「登降園管理システム」はICカードをカードリーダーにかざし、登降園時間を記録する。このデータは園内のサーバーに蓄積され、自治体に提出する帳票を自動作成する。
また、本システムでは保育の目標を達成するための指導計画や、園児台帳と連動した保育日誌を同時に作成・管理できるほか、保護者からの欠席連絡をWeb上で受け付ける機能も標準装備される。必要に応じて職員の出退勤管理、保護者への請求・入金管理、お知らせメール一斉送信といった機能も追加可能で、各種の業務を一元的に扱えるのが特徴だ。本システムの開発には、元保育士や現役の保護者が携わっている。パソコン操作に不慣れな保育士にも、使いやすくするための工夫が凝らされているという。
保育ICTが提供する「Hoisys(ホイシス)」、日立システムズの「保育施設向け業務支援サービス」は、登降園データや園児情報の管理をクラウド上で行うことで導入コストを抑え、手軽に開始できるサービスを提供している。
これらのシステムは、いずれも保育士の事務作業負荷軽減をメリットとしてうたっているが、実際の効果はそれだけに限らない。施設運営に関するデータを一元的に管理することで、抱えている課題が明らかになり、改善の道筋が見えてくる。課題の「見える化」実現も注目すべきポイントだ。
保育業務に専念できる時間を創出
NTT西日本の「登降園管理システム」を導入した保育施設からは、導入効果に関する多くの意見が寄せられている。ある保育所(園児数100人程度)では、まず最大の課題であった事務作業負荷については、毎日約1時間、園の玄関に張り付いて記入していた利用者名簿の記入が不要になった。毎月約20時間の業務が0分になったわけだ。また、手作業で行っていた出席日数の確認は毎月約2時間かかっていたものが自動集計で5分程度に。毎月約4時間かかっていた自治体への報告書類の作成も、利用実績から印刷するだけなので毎月15分程度と、大幅な効率化が実現している(NTT西日本調べ)。トータルではこの保育所で、毎月およそ26時間かかっていた事務作業が20分ほどに短縮された計算となる。その時間を保育業務に活用できることは、大きなメリットだ。
ICT活用による業務効率化で保育士の負担が減ることは「保育業務の効率化」につながる。今後もさらなる工夫を重ね、子育て現場をより快適な環境にするためのICTソリューションが求められている。(事例動画)
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