2015年4月から、高等学校で同時双方向型の遠隔授業での単位取得が認められた。対面による授業と同等の効果があると認められるとき、74単位の内36単位までを上限に遠隔授業を行える。これまで遠隔授業は大学や通信制高校では採用されているが、全日制や定時制では教員と生徒が直接対面する授業が原則だった。
文部科学省が高校に遠隔授業を認めた背景は4つある。「人口過少地域において専門教員の確保が困難」「生徒の進路が多様化し高度な教育機会が必要」「通学困難な生徒に教育機会を提供」「世界的なICT教育の進展」だ。少子化と多様化が進む中で、世界的に活用が進む遠隔授業に可能性を見いだしているのだ。
特に、離島や過疎地での教育機会の提供は深刻な課題となっている。児童・生徒数が少ないために、自分とは異なる考え方に触れ合う機会が得にくい。また、大勢の前で自分の考えを発表するチャンスも少ない。そこで、学ぶ機会を増やし、授業の質を高めるために、テレビ会議システムなどで離れた学校同士をつないで授業を行う「遠隔交流授業」の取り組みが始まっている。
ここでは文部科学省の『遠隔学習導入ガイドブック2016』の中からその実践事例を見ていくことにする。高校ではなく小中学校の事例だが、遠隔交流授業で何ができるのかが分かりやすい。
各地で取り組まれている遠隔交流授業…
1つ目は長野県喬木(たかぎ)村立喬木第一小学校と第二小学校で行った算数の授業(※1)だ。各教室に大型ディスプレー2台を配置し、児童には情報端末を配布。4人の子供たちが好きな給食のメニューを、「問題の条件を整理し、それを基に筋道立てて考え、順序良く推論することができる」ことを目的とした課題を解かせた。「(1)Aさんは揚げパンではない(2)Bさんはカレーではない(3)CさんとDさんはカレーでも五平餅でもない」というヒントから、4人それぞれの好物は何かを考えさせた。授業では「近くの児童同士で、情報端末を見せ合ったり、書き込んだりしながら説明し合う」。大型ディスプレーには両校の児童の回答一覧を表示した。他の児童の回答に多く触れることで、「友達はどのように解いたか意識したり、考えの違いに目を向けたりすることができる」という授業の狙いを実現できた。児童たちは、遠隔交流授業により、いろいろな考え方があることを学べた。
2つ目は熊本県高森町立高森中学校と高森東中学校で行った社会科の授業(※2)だ。教室には2台の大型ディスプレーを配置し、1台には教室と生徒の映像、もう1台にはデジタル教材を表示した。「関東地方と世界の結びつきについて、資料から読み取ろう」というテーマに対して、各班で意見を集約した上で、高森中と高森東中の各班1名がペアになって、意見交換を行った。「自分の資料を相手に提示しながら説明を行ったり、説明を聞いたりして意見の共有と深化」を図った。この事例では、他校の生徒たちの多様な意見が得られただけでなく、「相手校の生徒に対して、提示しながら分かりやすく説明しようという相手意識をより強くもたせること」ができた。生徒たちは、相手に分かりやすく物事を伝える経験を積めたのだ。
これらの事例からは「多様な意見に触れられる」「相手に分かりやすく伝えようとする発表の場が得られる」という遠隔交流授業のメリットが理解できる。
満足度を高めるシステム面の準備
遠隔交流授業は、双方の学校が一体感を持てるようにすることが成功のカギになる。児童・生徒たちのやる気は授業の雰囲気に大きく左右されるため、相手校とうまくコミュニケーションが図れることが重要だ。そのためには、システム面でのサポートが必要である。音質や画質の状態、通信遅延の可能性などを考慮に入れるとともに、予期しない機器トラブルが発生しても、対応できるように準備するなど、システム面の準備をしっかり行えば、遠隔交流授業に対する児童・生徒の満足度も高くなるだろう。
遠隔交流授業をきっかけとした学習では、児童・生徒たちが学び続けるためには、リアルな体験との相乗効果もポイントとなる。例えば、遠隔交流授業の後に、お互いにテーマを深掘りした上で顔を合わせて再び交流すると、より深い学びが得られるだろう。体験型学習との組み合わせも期待できる。高森中と高森東中の遠隔交流授業の場合、理想をいえば、関東地方を実際に訪れてみたり、関東地方の専門家と交流したりするとより深い学びとなるはずだ。
ICTを活用すれば、学校と博物館などの施設をネットワークでつなぎ、生徒と専門家が直接話し合える仕組みもつくれる。教室にいながら世界中の人と接して、見聞を深められる。遠隔交流授業が単位認定された今、ICTを駆使したリアルに近い体験を提供することで、“理想的な学び”が現実のものとなっていくだろう。
※1 平成27年度文部科学省委託 株式会社内田洋行 教育総合研究所「遠隔学習導入ガイドブック2016 第1版」P10-11
※2 平成27年度文部科学省委託 株式会社内田洋行 教育総合研究所「遠隔学習導入ガイドブック2016 第1版」P14-15