迫力と臨場感に満ちた体験ができる手段として知られるVR(仮想現実)。あたかも現実のように感じられる仮想環境を、コンピューターを使って人工的に再現するための技術を意味する。一方、AR(拡張現実)は現実世界に仮想的な情報を加えるテクノロジーだ。「ポケモンGO」によって市民権を得たといっていいだろう。仮想テクノロジーの最先端事情を紹介する。
VRの盛り上がりは著しい。2015年は“VR元年”と呼ばれ、2016年には最新機器が続々登場した。実用化に向けた動きが一段と加速し、幅広い分野で活用が期待される。このうち一般的に広く知られているのは、頭部にHMD(ヘッドマウントディスプレー)を装着して、利用者の視覚・聴覚に訴える方式だ。VRによって得られる最大のメリットは「臨場感」だ。SF的な宇宙空間だけでなく、現実に存在するスタジアムや観光名所など、あらゆるシーンを仮想的に表現する。
現実に行われたイベントをVRで再現し、体験を共有する試みが進められている。例えば、NTT西日本は野外広域イベントの活性化をめざした「スマート光ライド」の紹介にVRを導入している。
「しまなみ縦走2016」…
2016年3月に瀬戸内しまなみ海道沿線で行われたサイクリングイベント「しまなみ縦走2016」で、スタンプラリーの電子化や位置情報共有、周辺情報の提供、文字情報の多言語化といったICTを活用した「スマート光ライド」を実施した。
同社では、後日開催された屋内イベントで、しまなみ海道沿線の映像を組み込んだVR機器を設置。HMDを装着し、自転車型の機器に乗り込むと、ペダルをこぐ速さに応じて景色が動き、橋の高さや日差しまでもがリアルに描かれているため、まるで、しまなみ海道を走るような臨場感のある疑似体験が楽しめる。
VRでスポーツ強化
スポーツでは心技体といわれるように、身体を鍛えるフィジカルトレーニングだけでなく、心や技を鍛える観点で、イメージトレーニングの重要性も高い。あたかも自分自身がプレーしているような感覚が得られるVRは、イメージトレーニングに最適だ。今後も各種の競技で導入が進んでいくと思われる。
現場をそのまま伝送して臨場感アップ
ポケモンGOに代表されるARは、現実情報に仮想的な情報を加えるものと前述した。VRは仮想環境を人工的に再現する。ARとVRは厳密には別物だが、最先端の研究現場では、すでにARともVRとも区別できない体験を提供している。例えば、NTTが研究開発を行うイマーシブテレプレゼンス技術「Kirari!」は、臨場感をさらに高め、空間の共有をめざしている。
臨場感を出すためには映像、音声の高品質化が欠かせないが、それだけでは限界がある。Kirari!は伝送先の臨場感を高めるため、通常のカメラ映像と音声の伝送だけではなく、被写体となる人物の映像、会場全体の背景画像、音響空間の情報をそれぞれに分けて伝送し、かつ異なった方法で表現する。
例えば、人物は立体感あるホログラフィック映像として表示したり、人物の位置から音声が出ているような音響出力を実施したりする。また、背景はワイド映像で表示して、会場全体の状況を表現する。そうすることにより、あたかも目の前で競技が行われているような感覚を得られるのだ。
日常生活のさまざまな場面で登場するようになったVRとAR。発展の起爆剤となったゲームの世界はもちろん、現実社会のツールとしても本格的に活躍する段階に入ったといえる。今後の動向に注目したい。
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