私たちの暮らしになくてはならない重要な社会インフラ「道路」。通勤通学や買い物、ジョギングといった個人の日常生活はもちろん、トラック輸送などの産業物流も支えている。万一、道路が使えなくなれば生活に大きな影響がある。
そうした事態に陥らないように、国や自治体は道路の路面が傷んだら補修する。それには相応のコストが必要だ。そのコストを抑えるために、計画的な補修を実施するには点検・診断が重要になる。ただ道路といっても、数車線ある太い幹線道路から、住宅地の細い生活道路までさまざまだ。いかにして安いコストで、それらすべてを点検・診断するか。国や自治体の大きな悩みだ。
専用車両と専用機器を使う路面診断の半分以下のコストに
そんな悩みを解決する手段として、一般の車両を使いつつ、人工知能(AI)を活用して低コストで路面点検を実施できるソリューションがある。
従来、道路の路面点検を実施するには、大きく2つの手法がある。1つは、路面性状測定車による測定、もう1つは道路パトロールによる“目視”の点検である。
路面性状測定車を使うと、道路の「平たん性」「ひび割れ率」「わだち掘れ量」という路面点検の3指標のデータを測定できる。しかし、専用車両と専用機器を利用するため、相応のコストが発生する。高速道路や国道など幹線道路はともかく、生活道路までこの方法で点検するのは現実的ではない。一方、道路パトロールによる人の目視点検は、点検スキルが属人的であるほか、客観的なデータが残せない。
2つの方法の問題点を解決する路面点検手法として、NTTフィールドテクノは2018年3月にAIを活用した「道路路面診断ソリューション」の提供を開始した。
汎用車両と汎用ビデオカメラ、スマートフォンでデータ収集、AIで解析…
このソリューションの最大のメリットは、低コストで路面点検を実施できるところだ。多くの地方自治体は財源難にあえいでいる。高度成長期を中心に整備した道路などの社会インフラは、年月とともに老朽化が進む。だからこそ点検をして安全性を確保したいが、予算が確保できないジレンマがある。
実際、道路路面診断ソリューションを使うと、どの程度のコスト削減が期待できるのか。NTTフィールドテクノによれば、路面性状測定車を使う場合に比べて、2分の1から3分の1程度にコストが削減できるという。
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道路路面診断ソリューションで確認した路面の状態[/caption]
低コストの点検を実現したポイントは、データを収集する方法の工夫と、データ解析へのAIの適用である。
データ収集には、路面性状測定車の代わりに、一般の車両を使う。収集する方法も、市販のビデオカメラやスマートフォンを使って、走行しながら路面の撮影と振動データの収集をしていくだけ。特殊なカメラは不要だ。
このようにローコストで取得した路面の動画データを、AIを使って解析し、道路のひび割れを検出するほか、取得した振動データから、独自のロジックによって平たん性を示す指標「IRI」を算出する。また、3つ目の指標であるわだち掘れ量の検出も対応予定だ。
解析、診断した情報は、Web地図の上に「平たん性」と「ひび割れ」の状態が「見える化」される。
前述のように道路パトロールによる目視点検には、客観的データとして残しにくい問題があった。一方、道路路面診断ソリューションなら、簡易に同じ基準で点検が行え、データとして残せる。
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道路路面診断ソリューションの流れ[/caption]
専用の機器から、柔軟に利用できる汎用機器への移行は、ICTの多様なシーンで進んでいる。道路の点検という、労働力不足や国の財政悪化が進む中、インフラを適切に維持していかねばならない。そのためには、こうした取り組みをさらに拡大していく必要があるだろう。
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