2023年4月1日から中小企業の残業割増賃金率の猶予措置が廃止され、中小企業も月60時間以上の残業については50%の割増賃金を支払う義務が生じている。従業員の長時間の時間外労働を抑止するのが目的だが、人材不足に悩む中小企業にとっては大きなプレッシャーにもなる。割増賃金の引き上げの負荷を減らすためには、どこから手を付ければよいのだろうか。
月60時間超の残業に50%以上の割増賃金が
すでに労働基準法によって月60時間以上の時間外労働、つまり残業については、50%以上の割増賃金率を支払うと設定されていた。しかし、残業に頼らざるを得ない中小企業の事情が勘案され、中小企業の割増賃金率は25%以上に据え置かれていた。それが2019年に施行された「働き方改革関連法」によって猶予期間が廃止されることが決定した。
この割増賃金率は、原則として1日8時間、週40時間の法定労働時間を基準として、月60時間を超えた残業時間に対して、50%以上の割増賃金を支払うというものだ。2023年4月1日からこの法律が中小企業にも適用されている。
ただし、残業時間については、2018年6月の改正労働基準法によって、月45時間、年360時間の上限が設けられている。この上限を超えるには労使間で「特別条項付きの36協定」の締結が必要とされる。締結していないで月60時間超の残業が発生した場合には割増賃金を支払っても、労働基準法違反になってしまう。
いずれにしても今後は中小企業でも、月60時間超の残業については50%以上の割増賃金を支払わなければならない。しかも深夜の残業については25%以上の深夜の割増賃金率が適用される。月60時間超の時間外割増賃金と合わせると75%以上の割増賃金を支払うことになる。
2023年4月1日から月60時間超の残業割増賃金率は大企業、中小企業ともに50%(中小企業の割増賃金率を引き上げへ)
システムの活用で根本的な企業体質改善を…
休日労働については、法定休日に労働した場合は、これまで通り35%の割増賃金率が適用されるが、会社が指定した休日など法定外休日に発生した労働時間は時間外労働とされ、月60時間超に含まれることになるので併せて注意が必要だ。
割増賃金率が引き上げられることは、体力のない中小企業にとって大きな負担になることは間違いない。しかし、適切な対策を講じることで負荷を軽減するだけでなく、企業体質そのものの改善につなげることもできる。
1つの対応策として考えられるのが、代替休暇の活用だ。月60時間超の残業を行った従業員の健康を確保するために、引き上げ分の割増賃金を支払う代わりに、有給の休暇を付与することが認められている。この場合に代替休暇の時間数の算定方法や代替休暇の単位などを定めた労使協定の締結が必要となる。
しかし、こうした制度を利用するにしても従業員が休暇を取得できるように、業務全体が効率化されていることが前提となる。そのために欠かせないのが、「いつ」「誰が」「どんな仕事をしていたのか」を把握すること。つまり従業員の労働時間の可視化である。可視化することで、人員配置の見直しや効率化のポイントが見えてくるはずだ。
労働時間を可視化するためにお勧めしたいのが、勤怠管理システムの活用だ。勤怠管理システムを使って、出退勤の状況、休暇取得の状況、労働時間の管理することで、時間外労働時間数の集計や給与計算、代替休暇の振り替えなどのための基本的なデータを取得することができるようになる。
さらに勤怠管理システムのデータを企業側と従業員側が情報を共有することで、コミュニケーションツールとして活用できることも大きなメリットだ。残業が増えている従業員に通知したり、上司にアラームを発したりして残業抑制の指導を促すことができる。また、企業側もどこに負荷がかかっているかを知り、適正な人員配置など対策を講じることができる。
こうした勤怠情報の電子化は多くの用途が考えられ、根本的な企業体質の強化につながる可能性も高い。厚生労働省でも働き方改革推進や業務改善の助成金を用意し、生産性向上に取り組む中小企業を後押ししている。この機会に体質改善に積極的に取り組んでみてはどうだろうか。
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