2014年に異物混入事件を起こした食品メーカーは、クレームへの対応に問題があるとの指摘を受けて商品の出荷を停止した。同社は、商品回収や工場設備の刷新などに数十億円の費用をかけるという。企業にとって、クレーム対応は重要な仕事の1つだ。対応に不手際があった場合、業績低下や経営危機にまで発展するケースも珍しくない。
一方、クレーム対応をきっかけに、消費者がファンになるケースもある。2015年にカルビーは、食感が悪いというクレームを受けてから1カ月足らずで14万個の商品の自主回収を決断した。このような迅速な対応により、「苦情を訴えた顧客のおよそ95%が、同社の商品を再購入すると答える好結果につながっている」(PRESIDENT Online『カルビー「クレーム客の再購入率95%」は、なぜ成し遂げられたか』 2016年10月31日掲載)という。どのようなクレーム対応が理想なのだろうか。
SNSによる拡散、炎上が急増
製品やサービスに関するクレームは、数や程度の差はあれ、すべての企業で発生する可能性がある。「不具合が見つかった」「部品が不足している」など物理的に明白なものから、「担当者の態度が悪い」「品質に不満がある」といった心理的なものまで、日々さまざまな内容の意見が寄せられる。受け付けた際は直ちにその内容を確認し、対応するというのが鉄則である。
対応が優れていれば、クレームを出した側は納得してその企業を評価するだろう。これは顧客満足度を高めるとともに、業績アップにもつながる。しかし、対応に問題があれば企業イメージを大きく損なうばかりか、顧客の信頼を失う結果を招きかねない。
昨今ではSNSでクレームが瞬く間に拡散し、炎上してしまう。もちろん虚偽の情報であれば否定すべきだろう。しかし、内容によっては当事者のみならず、社会全体から一斉に非難を浴びることになる。
クレーム対応の問題点…
クレームに対し的確に対応するために専門部署を設けたり、詳細なマニュアルを用意したりするなどの対策を講じる企業も増えている。しかし、それがかえって問題を大きくしてしまうケースも見られる。
例えば電話でクレームを受けた際、すぐに「担当者に代わりますので」と伝えてしまうのは相手の感情を大きく損なう場合がある。不満を持っている人にとってはその企業全体がクレーム対象であり、担当者が誰なのかは一切関係ない。まずは内容を聞いた上で、必要があれば担当部署に引き継ぐというのが筋道だ。
また、マニュアルに頼る対応にも注意が必要だ。マニュアルはあくまで状況に応じた例を示しているものにすぎず、個々のケースに当てはまるとは限らない。的外れな応対や文面通りの謝罪では、むしろ相手の感情を逆なですることになる。たとえその場は乗り切れても顧客の不満は消えず、SNSに書き込まれて炎上という結果をもたらすかもしれない。この場合、事実無根とは言い切れず、イメージ低下が避けられない状態に陥ってしまう。
テクノロジー活用で改善を推進
このような現状を踏まえて、各企業では顧客対応に関する取り組みに対して大幅な見直しを開始した。まず基本的な事項として、社員の顧客対応に対する意識を高めることが挙げられる。SNSでの炎上例にも見られるように、その場しのぎの対応は決して許されない。寄せられたクレームに素早く対処するのはもちろん、終了時の締めくくり(クロージング)までしっかり責任を持つ姿勢を示し、損なわれた信頼を取り戻す。さらに、将来的な顧客満足度向上につなげるという意識が求められる。
さまざまなクレームに対応できる能力を高める手段として、先進的なテクノロジーの活用も検討されている。例えば、顧客からの問い合わせを受け付けるコールセンターでは、オペレーターが多くの事例から回答例を検索するシステムが導入されていることが多い。最近では顧客にストレスを与えず対応するためにAI(人工知能)を活用し、会話の内容をコンピューターが認識して最適解を自動表示する仕組みが開発されている。
クレームを出した顧客にとっては、自分が知りたいこと、よりお得になることなどの情報を的確に返してもらえる。クレームをきっかけに、オプションの購入にまで発展するケースもある。各企業は、クレーム対応を仕方なくこなす業務ではなく、ITをうまく活用して顧客に感動してもらい、ファンに変える仕事にしようとしているのだ。
クレームは改善のチャンス
クレーム発生後の対応にも変化が見られる。製品やサービスに問題がある場合は謝罪が最優先となる。その問題を速やかに改善に役立てるための全社レベルでの仕組みづくりも大切だ。全社員共通の課題として向き合い、情報共有を進めれば、当事者意識を高めるとともに、顧客満足度向上に取り組む姿勢を世に示すことにもつながる。その一方、不祥事を隠ぺい、あるいは自らも被害者と主張した結果、深刻な経営不振に陥るケースも後を絶たない。「謝ればOK」ではなく「その後どうするか」が重要なのだ。クレームを厄介事と捉えず、むしろ改善のためのチャンスと考えて対処すれば、将来的にはそのクレームをきっかけにファンを生むことも十分可能なのだ。謝罪の気持ちとともに改善の意志をはっきり示すことは、ビジネスを成功に導く秘訣といえるだろう。