美容室の新規出店ラッシュが収まらない。競争が激しさを増している。厚生労働省のデータによると、この数年、美容室(美容所)数は毎年3000~4000施設ずつ増加。2017年度は24万7000件に達した。
その一方、家計の美容サービスへの支出は増えていない。総務省の家計調査によると、2017年における1世帯当たりの理美容サービスの年間支出金額は3万3552円。2015年の3万3914円よりもわずかに減っている。
市場のパイが大きくならない状況の中、店舗数の増加が続く。それは廃業への恐れへとつながる。店舗数の増加は年間3000~4000施設だが、これはあくまで開業数と廃業数の差にすぎない。実際は多くの美容室が廃業を余儀なくされている。
競合店が増える中で生き残るためには、新規顧客の獲得も重要だが、既存顧客のつなぎとめ、リピートの増加が大きな経営課題となる。苦労して顧客を新たに獲得しても、1回だけでは経営状態は改善しない。既存顧客に、ヘッドスパなどのメニューをプラスして顧客単価をアップさせるのも、収益改善のポイントだ。
美容サロンで新規顧客の獲得やリピート率向上のために、割引クーポンの配布が広く行われている。初回来店時の割引だけでなく、2回目以降の来店でも割引価格を適用しリピートを促す方法だ。これらは一定の効果は期待できるが、実際はサービス料金の値下げにすぎず、収益性の向上につながらないケースもある。それよりも重要なのは顧客満足度のアップだ。いくら料金が安くてもサービスに満足していない店に、顧客はリピートしてくれない。
顧客情報は美容サロンの最大の財産…
顧客満足度の向上で鍵を握るのが、顧客管理の徹底だ。エステティックサロン、ネイルサロンなど美容関連の業界では、何にも増してこれが重要になる。氏名、性別、住所、メールアドレスといったプロフィールはもちろん、来店日時、施術内容、髪や肌の質、好み、担当スタッフといったサービス内容を記録して、すぐにチェックできるようにする。
顧客に施術したサービス内容が明確に記録されていれば、次回来店したときに適切な施術ができる。例えば、「前回よりもちょっと短めに」とか「前回より前髪のパーマを少し強目にしたい」と言われたときに、問題なく対応できる店とできない店、どちらに顧客がリピートするかは明らかだ。
顧客管理ができていればダイレクトメールを送り、来店間隔が空いたときに来店を促すのも可能だ。また、その顧客に合わせたヘアケア製品などを売り込み、客単価アップも期待できる。顧客情報は美容サロンの最大の財産だ。その管理の巧拙が経営を左右するといって過言ではない。
チェーン店はともかく、中小の美容サロンでは顧客情報の管理を、紙ベースで行っているケースが少なくない。しかし、紙ベースでの管理は手間がかかる割に、使い勝手が悪い。人手不足に悩む中小の美容サロンこそ改善すべきだ。
プロフィール程度ならともかく、サービス内容についても詳細な顧客情報を紙に記入して実用的なカルテを作るのは、実はハードルが高い。例えば施術内容。ヘアスタイルをイラスト的に描き、注意点などを文字で添えることになるが、短時間で正確に書くのは容易ではない。「前に切ったときと同じように」と言われてカルテを見て同じように施術したつもりでも、再現性に欠けて結局満足してもらえなかった−−−−。こうした事態が十分起こり得る。
紙ベースの顧客管理だと、最初に来店した直後のサンキューメール、スタイリングの状態を聞いて再来店を促すフォローメールを送るといった細やかな対応をしようとしても、手間がかかるので徹底し切れない。そしてリピート率が上がらない事態を招く。
予約の受付に際しても、来店予定日時やスタッフのスケジュールをチェックした上で、たくさんの中から該当カルテを探し出し、予習しておかないと顧客満足度を上げられない。これらの段取りは、忙しいスタッフのストレスになる
こうした問題を解決する有力な手段が顧客管理の電子化だ。少し前までは顧客管理をパソコンで行うには、導入や運営にかなりのコストがかかり、操作も難しく使いこなせずに結局は挫折というケースも見られた。しかし、最近は中小規模の美容サロンでも使いやすく、かなりコストが低いシステムが登場している。まずは、実際に使っている同業者に話を聞いたり、試験的に導入したりすることから始めてみよう。