このところ連日のように報じられている「キャッシュレス決済」関連のニュース。諸外国と比べ遅れている“現金を使わない決済”の普及を進めるため、文字通り官民挙げての取り組みが加速している。政府は2025年までにキャッシュレス決済の比率を40%にする目標を掲げる。金融サービスを提供する企業も、さまざまな決済方法を提案・運用中だ。
2018年には、大規模なキャッシュバックを実施した新しいサービスや、訪日外国人客向けのQRコード決済対応が話題になった。2019年は、経産省が10月から開始予定の「キャッシュレス・消費者還元事業」に注目が集まる。
この事業は、消費税対策として消費を刺激するだけが目的ではない。事業者のキャッシュレス決済導入を支援する施策でもある。世界的な潮流のキャッシュレス決済拡大に向けた、政府の強い意気込みが感じられる。
経済産業省が2018年4月に公表した「キャッシュレス・ビジョン」によると、2015年の日本のキャッシュレス決済比率は18.4%。世界的には、韓国の89.1%を筆頭に50%超えが珍しくない中、非常に低い。消費者にとってキャッシュレス決済は、現金を持ち歩かずに支払いができる利便性に加え、場合によってはポイントサービスが受けられるメリットがある。国の後押しもある。今後、日本でも急激に伸びる可能性は大いに期待できる。
商品を販売したり、サービスを提供したりする事業者の側はどう対応すべきか。キャッシュレス決済比率が少なかったこれまでは、事業者が導入に二の足を踏むケースもあった。経済産業省が委託調査を行い、2017年に公表した「観光地におけるキャッシュレス決済の普及状況に関する実態調査」によると、観光地の店舗がクレジットカード決済を導入しない理由として最も多かったのは、「決済手数料が高い」(42.1%)で、2番目が「導入のメリットが感じられない」(35.7%)だった。
キャッシュレス決済の“弊害”検証…
利益の確保に苦労する事業者にとって、キャッシュレス決済で多くの場合必要となる決済手数料を支払うことに抵抗感がある。幸い、今回政府が計画している「キャッシュレス・消費者還元事業」では、消費税増税後の9カ月間について、おおむね3%台にある決済手数料率の1/3を国が補助することになっている。その間の業績を見て、キャッシュレス決済に対応し続けるかどうかを決められる。
2番目の「メリットが感じられない」というのも、将来を考えれば導入しない理由ではなくなっている。消費者が望むキャッシュレス決済の導入なしに、売り上げを維持できなくなる可能性すら出てくる。客離れが起きて、売り上げ自体が減る恐れがあるからだ。
事業者がキャッシュレス決済を導入するメリットは、売り上げ面だけではない。現金の扱いが少なくなることによる業務効率アップも見逃せない。現金を受け取らないので、代金の数え間違いや釣り銭の間違いが減少する。店舗において非常に重要な作業「レジ締め」もスムーズになる。さらにキャッシュレス決済は、売買記録がきちんと残る。決算業務や納税業務も効率化する。
キャッシュレス決済が主流になっていけば、開業前に両替を行って小銭を用意したり、閉店後、売り上げを銀行に入金するために、多額の現金を店の外に持ち出したりする手間も少なくなる。変化の1つひとつはわずかでも、全体としては無視できないメリットになるだろう。
乱立するキャッシュレス決済、どれを導入するか
経産省の「キャッシュレス・ビジョン」では、キャッシュレスでの支払い方法を、「プリペイド」(前払い)、「リアルタイムペイ」(即時払い)、「ポストペイ」(後払い)に分類する。このうちクレジットカードに代表される「ポストペイ」は、すでにかなりの店舗で導入が進んでいるのが現状だ。
最近、盛り上がっているのは、交通系や流通系の電子マネーに代表される「プリペイド」と、QRコードを活用したスマホ決済に代表される「リアルタイムペイ」だ。特にスマホ決済は、サービス事業者が国内・海外に数多く存在し、その仕様はバラバラ、操作の統一もされていない。また、サービス提供企業の撤退や合併・連合も頻繁で、数年後の状況すら予測できない。
乱立するキャッシュレス決済の中で、どのサービスを導入すべきなのか。現在、キャッシュレス決済を提供する各企業はそれぞれがキャンペーンとして「初期費用ゼロ」「販促ツール提供」といった特典を掲げて加盟店獲得に注力する。導入自体のハードルは下がっている。しかし、利用が少ないサービスを導入しても意味はない。かえって手間が増えるだけ、にならぬよう注意したい。
サービス提供企業と個別に契約して加盟する以外に、複数種類の決済方法に対応したサービスを利用する方法もある。たくさんのキャッシュレス決済を導入する際にはかなり有効だ。
急激に盛り上がるキャッシュレス化は、恐らく一過性のブームではない。疑問視していれば、あっという間に乗り遅れてしまうだろう。たとえ中小規模でも、キャッシュレス決済導入は真剣に検討したほうがよいだろう。
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