デザイン・シンキング、もしくはデザイン思考として知られる手法について、今回取り上げるのはヤフーです。同社は新しい情報サイトの開設やタブレットシステムの開発にデザイン・シンキングを活用しました。デザイン・シンキングの「社内伝道師」を育成し、全社を挙げて新しいネットサービスの創造に取り組むヤフーの事例を紹介します。
全社を挙げてデザイン・シンキングによる新しいネットサービスの創造に取り組んでいる企業の1つがヤフーである。2013年夏から希望者に向けてデザイン・シンキングのワークショップを開催し、社内の各部門でデザイン・シンキングを推進するコアメンバーを育成している。
社内で新しいネットサービスを開発する際には、コアメンバーがデザイン・シンキングの導入をサポート。開発中の案件や実際に稼働したネットサービスなど、既に10件ほどのプロジェクトでデザイン・シンキングを活用している。
「デザイン・シンキングを“ユーザーファーストで問題を解決するための思考法”とヤフーでは位置付けている。自分たちのモノづくりの在り方を見直し、ユーザーに新しい価値を提供できるようにしたい」とヤフーでデザイン・シンキングを推進するシステム統括本部 技術支援本部 開発促進1部UX向上の瀧 知恵美氏は言う。ヤフーでは米スタンフォード大学のd.schoolの手法をベースにしており、デザイン思考研究所の研修なども取り入れている。
ヤフーの場合、かつてはワークショップを毎月1回、参加希望者を募って実施。毎回、6人を1グループとして合計24人ほどが2日間かけて参加していた。社内にデザイン・シンキングのエバンジェリスト(社内伝道師)を育成し、各部門にデザイン・シンキングの手法を広げていくためだ。
ワークショップでは、まずインタビュー研修を行った。デザイン・シンキングではフィールド観察など、ユーザーの状況を詳細に探ることが起点であり、非常に重要になるためだ。そこで2人が1組になり、例えばビジネス上の互いの体験などを聞き出していく。そうしてインタビューで出てきたさまざまな気付きやニーズが、課題となって顕在化する。例えば「タブレット用の新しいネットサービスが求められている」といった具合だ。
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デザイン・シンキング研修(1)
2人1組でインタビュー研修 2人1組となってインタビュー研修を行い、ユーザーの本当の姿をつかめるようにした[/caption]
出てきた課題に対し、各グループで解決方法を考える。「発想の創出」の段階である。例えば、ブレーンストーミングの手法を取り入れたりして課題解決のためのアイデアをメンバーで出し合い、有効性などからアイデアを分類していくのである。アイデアを基にさらに議論を重ねていき、問題解決に向けた最適な方策を考えていく。
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デザイン・シンキング研修(2)
ユーザーの声から問題をまとめる出てきたユーザーの声から、どんなニーズがあるかなど、グループごとに見えてきた問題をまとめていく研修[/caption] [caption id="attachment_12670" align="aligncenter" width="340"]
デザイン・シンキング研修(3)
アイデアを分類する問題に対する解決策のアイデアをグループごとに考え、分類していく[/caption]
その後、最適な方策に合わせてプロトタイプを作成する。この時、「タブレット用の新しいネットサービスが求められている」という課題であれば、ネットサービスの画面を作る。この時、実際の画面をプログラミングして開発するのではなく、ワークショップでは紙を切り抜いて簡単な画面を作り、見栄えなどをすぐ検証できるようにする。デザイン・シンキングでは、素早く試作してすぐイメージなどを検証できるようにしている。ワークショップでも、そうした点を再現した。
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デザイン・シンキング研修(4)
プロトタイプを作成解決策に基づいたプロトタイプを作成する研修。実際に開発するのではなく、紙の切り抜きでもいいので、イメージをすぐ見られるようにすることが重要だ[/caption]
紙で切り抜いて画面を作ると、別のグループメンバーに見せて体験してもらい、使い勝手を検証する。出てきた意見に応じて画面をさらに作り直して再度、検証する。こうした過程を繰り返し、ネットサービスの画面を高めていき、最終的な課題解決につなげる。
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デザイン・シンキング研修(5)
不具合をすぐに修正プロトタイプをユーザーに見てもらい、不具合があればすぐに修正する。紙のプロトタイプだから手間がかからない[/caption]
ワークショップでは最後に各グループの成果を発表して終わる。こうした参加者の体験がヤフーの社内に広がり、今ではデザイン・シンキングの手法に関心を示す部門が増えてきた。
現在の社内研修は第2段階にあり、ワークショップに代わって約2時間のプログラムを実施中。例えばインタビューのスキル向上、ニーズ分析や問題定義、プロトタイピングなど5種類がある。適用事例も既に10件以上になった。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年1月)のものです