生活者にインタビューする際、レコーディング・グラフィックの手法を使って話している内容をその場で図式化すれば、聞き手も話し手も理解が進み、本音を引き出しやすくなる。「気持ちいい」など、生活者が語る言葉のイメージだけでは曖昧なとき、生活者が感じるその言葉に近いイメージの写真を選んでもらえば、聞き手も分かりやすい。話す内容や言葉を視覚化することができれば、双方の理解につながるはずだ。
デザイン・シンキングでは、生活者の行動をインタビューしたり、出来上がったプロトタイプを試してもらったりすることが多い。そうした内容は、さらなる気付きやアイデア出し、プロトタイピングといったそれぞれのプロセスの判断基準にもなるだけに、重要な場面といえるだろう。
左はこれまでのライオンの「トップ ナノックス」で、右が2016年2月に発売した「トップ スーパー ナノックス」のパッケージ。「センイ1本1本から徹底クレンジング」のキャッチコピーを押し出している
だがモニターとなる生活者は必ずしも本音を言うとは限らないし、自分の考え方をうまくまとめて話せない人もいる。聞き手が話し手の言葉を正確に理解できなければ、開発の方向性を誤ることにさえなりかねない。
強い洗浄力をどうアピールするか…
ライオンも商品開発に当たり、同様な課題を持っていた。2004年から社内に生活者行動研究所を設置するなど、生活者視点のものづくりを推進。モニターの声を盛り込んできているが、単なる感想だけを聞いても参考にならず、話し手もなかなか意見がまとまらない。
そこでライオンが取り組んだ手法がモニターの声を視覚化することだった。具体的には、レコーディング・グラフィックの手法を活用。プロトタイプに対する感想をモニターがディスカッションするとき、会話の内容をその場でイラスト化して構造化した。こうすると話し手は自分が言いたいことが明確になり、聞き手も理解しやすくなるため、より議論が深まる。
さらにモニターが感じる言葉の内容を確認するため、例えば「気持ちいい」と感じる写真をそれぞれ持参してもらい、モニターがどんな場面を「気持ちいい」と感じるのかを探るようにしている。言葉の定義が曖昧なままでは、モニターの意見を商品に反映させることが難しくなるからだ。
「モニターが抱く言葉の感覚はそれぞれ異なる。何気なく話している言葉が、どんな意味で使われているかまでイメージできないと正しく理解できない」(生活者行動研究所の新條善太郎・ブランドマネジメント開発担当部長)
こうした開発体制の成果が顕著に出てきた例が、2016年2月に発売した洗剤の新商品「トップスーパー ナノックス」だ。これまでよりも強い洗浄力を持った自信作だが、商品の特徴である先進性や洗浄力を市場にどうアピールするかが課題だった。
モニターとワークショップを繰り返したり、モニターの前で実際に洗って見せたりして感想も聞いた。すると商品に対して「繊維」「安心感」といったイメージが出てきた。そこから「センイ1本1本から徹底クレンジング!」といったキャッチコピーが生まれたほか、パッケージには安心感を示す意味で水泡のイラストを描いたという。
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モニターの前で実際に洗って見せたところ、繊維のレベルまで汚れが落ちていることに、モニターが大きく反応した(左写真は、実際のモニター時のもの)。右は「トップ スーパー ナノックス」のCM映像で、繊維のレベルまで汚れが落ちている点をアピールするようにした
(写真提供:ライオン)[/caption]