「日本政府観光局(JNTO)」の発表によれば、2024年1月から4月の訪日外客数は1160万人を超えたという。単純計算すれば、1年で3400万人を超えるインバウンドとなり、コロナ前の2019年に記録した3188万人を超えることになる。インバウンド需要の拡大が引き続き見込まれる。
インバウンド需要や、ECシフトなどで販売チャネルの強化・拡大が重要に
一方で、国内需要に目を向けるとEC(電子商取引)へのシフトが進んでいる。2023年8月発表の経済産業省の電子商取引に関する市場調査の結果によれば、2022年の消費者向け電子商取引(BtoC-EC)の市場規模は22兆7500億円に上り、前年比で10%近い伸びを見せている。2013年が11兆円あまりだったので、10年かからずに倍増したことになる。また、法人を対象とした企業間電子商取引(BtoB-EC)も2022年には前年比12.8%増の420兆2000億円と巨大な市場になっている。
こうした市場や取引環境の変化は、販売チャネルにも変化を要求する。インバウンド需要を引き寄せるためには、海外への情報発信や海外に向けて販売する「越境EC」などの対応が求められる。国内向けのEC市場に向けても顧客情報を使った営業支援やデジタルマーケティングの活用などの必要性が高まり、企業間の取引においては、EC化が進むことで従来型の対面の商談からオンラインによる情報提供やコミュニケーションへのシフトが求められる。
販売チャネルの強化・拡大について、以下の3つの視点で対応を考えてみたい。1つめが「オンラインの活用」、2つめが「デジタルマーケティングの活用」、3つめが「助成金や行政サービスの活用」である。
従来の商習慣を見直し、オンライン活用型へシフト…
EC化が進むと、これまでの対面型、訪問型の商談や、紙ベースの資料提供がフィットしなくなってくる。コロナ禍で客先と対面できない状況により強制的に変化を求められた企業も多いが、現在でも対面がベストとの考えは根強く残る。そうした企業であっても、ECの広がりによる販売チャネルの拡大を目指すならば、オンライン活用型の商習慣にシフトするような発想の転換が求められる。
その1つが、オンライン商談やリモート接客への対応。オンライン会議ツールを使ってミーティングをすることは大手企業ではかなり一般化した。もちろん対面の良さはありながらも、商談や会談の内容によってはオンラインが適しているケースもある。遠方の顧客への営業はオンライン商談で密に行う事が可能になるし、これまでは訪問が難しいことから獲得できなかった顧客にも対応を充実させることが可能になる。従業員側も、外出や出張が連続することで身体的疲労が重なることが懸念されてきたが、自社から、あるいは状況によっては自宅やリモートオフィスなどからも商談や接客が可能になれば、働き方の自由度がぐんと高まる。
Webサイトの拡充も必要な対応だ。紙ベース中心だった営業資料を、Webサイトなどオンライン利用に適した形態に移していく必要がある。それも時代はスマートフォン全盛であり、同一情報をパソコンとスマートフォンに最適化して表示させるような仕組みも必要だ。外出先でスマートフォンしかない顧客に、パソコン表示の小さな文字の画面を拡大しながら見ていただくのは避けたいものだ。クラウドストレージなどを活用して営業担当者が場所を問わずに資料を引き出せる環境も整えたい。
オンライン活用型をさらに追求するならば、顧客情報の活用も不可欠だ。顧客関係管理(CRM)などの顧客情報システムを単体で利用するだけでなく、社内の基幹システムなどと連携させて一元管理することで、これまで見えなかった顧客の攻略方法が分析できることもある。さらにチャットボットなどを活用して、省力化しながら営業力を高める営業支援の仕組みも考慮に入れたい。
デジタルマーケティングや助成金・補助金も活用を視野に
オンラインを活用した商習慣へのシフトが進んだら、デジタル空間での顧客育成にも力を入れたい。デジタルマーケティングの手法を取り入れることで、メルマガ配信やウェビナーの実施といったデジタル上の取り組みをきっかけにした顧客育成を展開し、拡充することができる。メールの利用やWebサイトのアクセス情報だけでなく、オウンドメディアの提供やリアルのイベントで収集した顧客情報などを組み合わせて、マーケティングを推進する。
このように販売チャネルの拡大を推進するとなると、どうしてもシステム的な対応が必要になり、先立つ資金が気になる。新しいシステムを導入するにも、コンテンツの作成やリアル・オンラインを問わずイベントの開催にも、まずは投資が必要である。そうしたときには、政府や自治体などが提供する補助金や助成金などをチェックしたい。ECサイトをリニューアルするような場合は、中小企業庁の事業再構築補助金が対象になることがある。業務効率化やDX等に向けたITツール(ソフトウエア、サービスなど)の導入には「IT導入補助金」(中小企業基盤整備機構)が対象になる場合がある。展示会やイベントなどへの出展への支援としては、例えば東京都の「市場開拓助成事業」による助成金のような自治体で支援策が用意されていることがある。こうした資金を活用して、販売チャネルの拡大につなげる施策を一歩一歩積み重ねていくことが、インバウンド時代、EC時代に生き残る方法の1つと言えそうだ。
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