「社員が元気よく挨拶できる会社にしたい」──。社長なら誰でもそう思っているはずだが、実は、挨拶の定着は意外と難しい。挨拶の浸透にチャレンジしては挫折してきたトップのために、良い挨拶が徹底している企業から見えてきた取り組みのコツを紹介する。第1回は、トップ自ら挨拶を率先することで挨拶の定着に取り組む幸南食糧に話を聞いた。
[CASE1]トップ自ら挨拶を率先
米の取引先からの指摘で挨拶の重要性に目覚めたという幸南食糧の会長、川西修氏(写真/大亀京助)
「トップが自ら変わって見本を見せなければ、従業員はついて来ず、挨拶は浸透できない」と、大阪府松原市の米卸、幸南食糧の川西修会長は指摘する。
幸南食糧は、地元で米穀店を開いていた川西会長が1976年に設立し、現在は売上高238億円(2015年6月期)まで事業を拡大した。その成長を支えたのが挨拶を徹底することだ。
同社に一歩入ると、ワンフロアになっているオフィス全体の従業員から「いらっしゃいませ」と声がかかる。「来社したお客さまの多くには、この挨拶の気持ち良さを評価して取引を決めていただける。内勤の社員が優秀な営業の役を果たしている」と話す。
川西会長が挨拶の重要性に目覚めたきっかけは、創業から10年ほどしたころ、ある顧客の店から取引停止を受けたこと。この店は挨拶で地域一番をめざしており、幸南食糧の商品の扱いが乱雑で、従業員が挨拶できないことを問題視した。
川西会長は「商品の品質だけでなく、お客さまと接する従業員の態度が取引を左右する時代になった」と実感し「お客さまにきちんと挨拶するにはまず社内から」と、挨拶の徹底を始めた。
3日と続かなかったが、仲間を見つけて策を練る…
まずは出社時、退社時の挨拶徹底から始めたが、3日と続かなかった。年配の従業員は「挨拶なんて、どうでもいい」と言い、若い従業員は「挨拶なんて照れくさくて恥ずかしい」と尻込みをした。
この様子を見て、川西会長は「実は当たり前のことを徹底するのがどこの会社でも一番難しい。それが徹底できれば大きな価値になる」と、自ら率先して挨拶をすることにした。
朝6時には会社に着き、出社してくる従業員に挨拶を始めたが、挨拶はなかなか定着しない。そんな状況が続いたある朝、いつも通り早朝に出社すると1人の社員が川西会長に挨拶をしてくれ「社長、ただ挨拶をしようというだけでは具体性に欠けています」と言い出した。この社員と2人で、どうすれば互いにしっかり挨拶していることを確認できるか知恵を絞った。
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幸南食糧が実践する「元気体温計挨拶」。出社時と退社時に出会ったら、互いの目を見ながら、体温が感じられるようにしっかり握手して挨拶する[/caption]
そこで生まれたのが、幸南食糧が今も実践する「元気体温計挨拶」だ。出社時と退社時に、顔を合わせた従業員同士が互いの目を見て体温が伝わるようにしっかりと握手して挨拶する。握手をするという動作があり、きちんと挨拶をしていることが互いにはっきり認識できる。しかも、握手を通じて相手の元気さが伝わってくる。
最初は、従業員たちが「握手まですることに意味があるか」と戸惑ったこともあったが、今では皆、自然と挨拶のときに手が出るようになった。
「挨拶をしましょう」という看板を掲げる会社はよく見るが、そうした標語だけではトップの挨拶浸透への思いはなかなか伝わらない。それよりも「握手する、体温が伝わるといった具体的な条件を決めるほうが、挨拶は徹底できる」と川西会長は自らの経験を語る。