2019年10月の消費税の税率アップが迫ってきた。2019年度へと年度が替われば、残り時間は半年を切る。過去に延期された経緯もあるので100%とはいえないが、今度は実行される可能性が高い。経営者は、2019年10月までに対応を完了させなければ、以降の業務に支障を来す。準備は間に合うだろうか。
東京商工リサーチが、消費増税予定日の1年前に当たる2018年10月に実施したアンケート調査では、消費税増税に対して「準備していない」という回答が全体の6割を占めた。企業規模別にみると、大企業での回答は42.9%だったのに対して、中小企業では63.3%に上る。中小企業の対応には遅れが目立つ。
政府は、軽減税率に対応したレジの導入や、システム改修を支援する補助金を用意するなど、中小企業の消費税率アップ対策を後押ししてきた。しかし、補助金の申請件数は、想定を下回っているのが現状だ。迫る期限を前に、事業者の動きは鈍い。
今回、消費税の税率が8%から10%へ引き上げられる。それとともに、低所得者層への配慮から、「酒類・外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」を対象に、消費税の「軽減税率制度」が実施される。
これが、これまでの消費税の税率アップとは異なる点だ。多くの事業者にとって、対策が必要になる大きな要因だ。同じ食品でもテークアウトすれば8%の軽減税率の対象になるが、店内の飲食設備で食べると「外食」となり10%の消費税がかかる。このような面倒な状況になるのは、すでに多くの人が耳にしているだろう。軽減税率の対象と対象外の両方の商品を扱う店舗の場合、対応は不可欠だ。複数税率に対応したレジの導入や、システム面からサポートがなければ、商品管理や申告・納税に甚大な影響が及ぶ恐れがある。
一方、中小企業の中でも、飲食に関連する商品の提供がない企業は大きな影響はないのか。「これまでのように8%から10%に消費税が上がっても、請求書の消費税率を変えればよいのでは」などと思っていないだろうか。
「飲食以外の企業は無関係」はウソ…
実は、軽減税率が実施されると、飲食料品を扱っていない事業者でも、売り上げはもちろん、仕入れ、経費などでも複数の税率に分けて記帳して管理する必要があるのだ。例えば、経費で購入して事務所で来客に出すコーヒーは、軽減税率の適用。一方、外出先で打ち合わせに使った喫茶店のコーヒー代は通常税率。こうした場合、税率ごとに区分して帳簿に記載し、最終的に消費税の税額を計算しなければならない。すべての事業者にとって、消費増税と軽減税率の実施は、かなりの負担がのしかかってくる。いち早く対応を検討しておかないと後で慌てることになる。
増税後も4年間は簡素な「区分記載請求書等保存方式」で軽減税率と通常税率を記載すればよい。だが、さらに追い打ちをかけるように、「適格請求書等保存方式」(インボイス制度)が4年後の2023年10月に導入される。インボイス制度の導入後は、さらに厳密に税率ごとの消費税額と適用税率を記載した請求書を作成して保存しなければならない。この4年後の対応も視野に入れておく必要がある。
つまりほぼすべての企業は、今回の軽減税率の導入によって、仕入れや売り上げに関連する請求書の1枚1枚について、それなりの手間がかかるようになる。事務処理の手間が膨らめば、人件費の上昇を招くかもしれない。また事務処理に追われれば、営業や生産にも影響が及ぶかもしれない。
中小企業庁の補助金申請は9月末まで
そうした事態を未然に防ぐ方法の1つが、新しいレジシステムの導入や改修だ。税率アップや軽減税率を織り込んだ製品なら、事務作業は大幅に省力化できる。中小企業庁の軽減税率対策補助金(中小企業・小規模事業者等消費税軽減税率対策補助金)の申請期限は、当初の2018年1月末から大幅に延長されて2019年9月末になった。消費増税直前まで補助金が受けられるわけだ。
さらに昨年末、申請を加速させるために、制度の大幅拡充が図られた。その柱は3つ。まずは補助対象の拡大。事業者間取引における請求書などの作成に対応するシステムの開発・改修、パッケージ製品・事務機器などの導入に関わる費用が対象となった。さらにレジの設置時とは別に行われる商品情報(商品マスタ)の登録にかかる費用や、複数税率に対応する「券売機」も対象だ。
次に補助率の引き上げ。レジの設置・改修、受発注システムの改修などに要する経費の「3分の2以内」から、原則「4分の3以内」に引き上げられた。3万円未満のレジを1台のみ導入する場合には、「4分の3以内」から「5分の4以内」に補助率が引き上げられたのも、中小企業にとっては魅力的だ。
3番目は補助対象事業者の取り扱いだ。従来は、補助対象外となっていた旅館・ホテルなどの一部の事業者に関して、広く補助対象として認められるよう、制度の運用改善が行われた。
複数税率対応レジの導入やシステム改修の補助金は、税率アップギリギリまで申請可能だが、機種選びや導入はもちろん、使い方に慣れるまで時間がかかる。今、一刻も早く活用を検討すべきだ。消費税率アップまで、カウントダウンが始まっている。残り時間は少ない。今すぐにも経営者が先頭に立って対応を実現しよう。