令和を迎えるわずか1カ月前、2019年4月1日は日本人にとって、忘れられない日になるかもしれない。限定的とはいえ、日本の労働市場が“普通の外国人”に対して開放された日だからだ。世界的には、移民を制限し国内労働者を保護する議論も目立つ。そんな中、この市場開放には大きなインパクトがある。
日本では、人手不足が深刻になる一方だ。1997年をピークに生産年齢(15歳以上65歳未満)人口が減少しているからだ。今後も見通しは非常に厳しい。その対策として、高齢者や女性と並んで、今後さらなる活躍が求められるのが外国人だ。それを促進するため、政府は新たな在留資格「特定技能」を設けた。それを盛り込んだ改正出入国管理法が2019年4月1日、施行された。
人材不足が深刻な14業種を対象に、一定の技能と日本語能力のある外国人に日本での就労を認めるのが「特定技能」の在留資格だ。従来、専門的・技術的分野に限定していた受け入れ制度を拡充した。一定の専門性・技能を有する外国人を幅広く受け入れるのが狙いだ。その規模は、初年度となる2019年度で最大4万7550人、5年間で約34万5000人を見込む。
新在留資格「特定技能」には「1号」と「2号」が設けられた。1号は「相当程度の知識または経験を要する技能」を持つ外国人に与える資格。比較的、簡単な業務に就くのを想定している。最長5年の技能実習を修了するか、技能と日本語能力の試験に合格すれば取得できる。在留期間は通算5年で、家族の帯同は認めない。
1号の受け入れ分野は、農業、漁業、飲食料品製造、外食、介護、ビルクリーニング、素材加工、産業機械製造、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊の14業種。業種別に5年間の最大受け入れ見込み数が設定され、一番人数が多いのは介護の6万人となる。それに、外食5万3000人、建設4万人、ビルクリーニング3万7000人、農業3万6500人と続く。
2号は、現場監督など熟練した技能を要求される仕事に就く在留資格だ。1号よりも高度な試験に合格する必要がある。1~3年ごとに更新ができ、更新回数に制限はない。配偶者や子どもの帯同も可能だ。建設や造船などの業種で将来の導入を検討している。
資格取得には技能と日本語の試験に合格しなくてはならない…
特定技能の在留資格の代表的な取得方法は、「特定技能評価試験」に合格すること。同試験は、各分野の業界団体が国の定めた基準を基に実施する「技能水準」に関する試験と、「日本語能力水準」の試験の2つがある。この両方に合格しなければならない。技能水準の試験は2019年4月に宿泊、介護、外食の3分野からスタートし、2020年3月までに全分野で実施される予定だ。日本語能力水準の試験は、国際交流基金日本語基礎テストや国際交流基金・日本国際教育支援協会の日本語能力試験などに合格する必要がある。
こうして特定技能の在留資格を取得した外国人を雇用する企業を「受入れ機関」と呼ぶ。受入れ機関になるには、5年以内に出入国・労働法令違反がないなどの条件がある。また、外国人への支援を適切に行う義務も課せられる。支援については専門的なノウハウも必要だ。受入れ機関による実施が難しいケースもあり得る。そんな場合は、「登録支援機関」に支援を委託する手もある。
誰もが外国人と一緒に働く時代に
厚生労働省は、2018年10月末時点の外国人労働者数を前年同期比14%増の146万463人と発表している。在留資格別に見ると、最も多いのは永住、日本人の配偶者などといった「身分に基づく在留資格」で、約50万人(33.9%)。次に多いのは留学や家族滞在など、本来は就労を目的とした滞在ではない外国人が「資格外活動」として就労しているケースで約34万人(23.5%)だ。3番目が「技能実習」による在留資格で約31万人(21.1%)、4番目が「専門的・技術的分野」の在留資格で約28万人(19%)と続く。
こうして並べると、1番目と2番目は就労をメインの目的としていない在留資格。3番目の「技能実習」も、日本で培われた技能や知識を外国に移転し、その経済発展を担う人づくりに寄与する「国際協力」が目的の在留資格にすぎないのが分かる。
だが、これまで日本が受け入れてきた外国人材は、4番目の「専門的・技術的分野」の約28万人だ。今回で見込むのは、5年間で約34万5000人。日本の雇用市場にかなりのインパクトがあるのは明らかだ。
実は、すでに多くの職場で活用が当たり前の派遣社員にしても、2018年10月時点で雇用者数は約130万人(総務省の労働力調査より)だ。その4分の1を超える外国人が5年間で雇用市場に流入するわけだ。つまり、誰もが外国人と共に働く可能性が出てきたといっても大げさではないだろう。
政府が外国人労働者の拡大にいかに力を入れているかは、同じく4月1日に法務省入国管理局を格上げし、出入国在留管理庁を新設したことにも表れている。出入国在留管理庁の設置は、外国人労働者の雇用や生活を支援し、悪質な仲介ブローカーを排除するのが目的だ。外国人労働者への法的保護を強め、これまでより働きやすい環境を整える。
人材不足を解消する選択肢に、外国人雇用が加わった。経営者は、彼らが働きやすい環境を整える必要があるということを意識したい。日本人になら通じた“あうんの呼吸”や“以心伝心”を期待しても難しい。業務マニュアルを整備し、誰にでも分かりやすく資料を整理し、共有しておいたほうがよいだろう。もちろんそのために必須なのは、一層のICTの利活用だ。それは外国人のみならず、あらゆる人材にとっての業務効率にもつながるはずだ。