10月1日に消費税率が8%から10%に引き上げられた。前回、2014年の税率アップの際には、“駆け込み需要”があった。その反動で景気に悪影響が出たという指摘もある。今回はどうだったのか。
税率アップ直前の9月30日、日本商工会議所の三村明夫会頭は記者会見で、「驚くほど駆け込み需要が少なかった」との感想を述べた。高額品の扱いが多い百貨店は、駆け込み需要の影響が表れやすい。2014年3月には、前年よりも約25%も売り上げが伸びた。その前の1997年の税率アップ時にも、前年同月よりも約23%売り上げは増えた。それが今回、8月の全国百貨店売上高は前年比2.3ポイント増。9月末の税率アップ直前、多少の駆け込み需要が見られたものの、以前の増税時にはほど遠い。
なぜ今回、駆け込み需要は不発に終わったのだろうか。「税率アップ後、減税拡充があるのでマンションの購入を急がなかった」「自動車税が軽減されるので、慌てて購入する必要を感じなかった」「住宅設備の購入やリフォームのポイント制度が始まるので、それを利用しようと思った」。こうした消費者の声にあるように、大きな影響を与えたのは駆け込み需要後に用意されたさまざまな政策の効果だろう。
税率アップ後の需要減対策の代表としては、住宅ローン減税の拡充や「次世代住宅ポイント」制度がある。住宅関連の消費は金額が大きいだけに、税率アップによる影響も甚大だ。駆け込み需要が生じる可能性も高かったが、これらの政策で、その動きはかなり抑えられた。消費者は施策をしっかり検討した結果、慌てて住宅や住宅関連機器を購入するより、じっくりと検討して10月から動いても問題はないと判断したようだ。
税率アップ後に購入すれば5%もポイント還元…
こうした高額な消費ではなく、日常消費に関して、駆け込み需要がそれほど生じなかった要因として挙げられるのが、キャッシュレス・ポイント還元事業(キャッシュレス消費者還元事業)の存在だ。電子マネー、スマホ決済、クレジットカードなどを使って、中小・小規模事業者にて買い物をすると、原則として5%、フランチャイズチェーン(FC)傘下の中小・小規模店舗は2%のポイントが、消費者に還元される。
10月1日の税率アップは2%だから、FC傘下の店舗で購入しても、その分はカバーできる。100円の商品だとすれば2%で2円分が還元される。消費税10%込みで110円から2円引くと108円。増税前の8%込みで108円と同額だ。5%還元の中小店で、キャッシュレスで買い物をすれば、10月1日以降のほうがかえって得をする。慌てて駆け込みで購入する必要はないと考えて当然だ。
ただ、セブン―イレブンなどのコンビニやマクドナルドなどの飲食店のように、FCで多店舗展開している場合、本部が直営で経営する店舗と加盟者が経営する店舗が混在している。原則として前者では、ポイント還元はなく、後者には2%が還元される。つまり、同じチェーンの店舗でも、ポイント還元があるのかないのか、店の表示やWebサイトで確認しないと判別できないから注意が必要だ。
還元金額で見るとスタートは順調、一刻も早い参加を
経済産業省が10月11日に公表したデータによると、最初の1週間(10月1~7日)のポイント還元金額は、1日当たり平均約8億円、合計約60億円(主要の決済事業者を対象にした試算額)に達した。同事業では2019年度の予算として2798億円を計上し、そのうち消費者向けの還元分として1786億円を見込んでいる。つまり2019年度分で見ると、1日当たり約10億円の還元金額を想定していたことになる。スタートの1週間の還元金額は、まだ、制度の認知の十分でない時点としては、かなりの水準だといえる。
還元金額の実績を見れば、消費者の意欲・意識の高さがうかがえる。キャッシュレス決済への対応を楽々クリアしているように見える。それに対して、受け皿となる中小店の制度活用は少ない。大規模店との競争に苦しめられる中小店には、またとないチャンスだ。この機を生かさない手はない。
しかも、制度の参加のメリットは、ポイント還元にとどまらない。業務効率化などの効果も見逃せない。一刻も早くキャッシュレス決済の導入を進め、ポイント還元制度に参加すべきだろう。
●キャッシュレス・ポイント還元事業に中小店が参加する4つのメリット