IT分野の一大潮流になりつつあるIoT(Internet of Things)。中でも、動画や静止画を撮影するデジタルカメラにインターネット接続機能を組み込んだ「ネットワークカメラ」は、これまで人手に頼ってきた「監視」「見守り」などを代替する装置として注目を集めている。防犯用途はもちろん、さまざまなビジネスシーンにも急速に浸透しつつあるネットワークカメラについて解説する。
駅や繁華街などで見かける防犯カメラをじっくり観察すると、レンズが上下左右に動く機種の存在が確認できる。これは、遠隔操作によって人物の動きを追尾したり、広い範囲をくまなく撮影したりするための機能だ。最近ではこうした操作を、人手を介さずAIの学習機能を用いて行う技術も開発されている。
ただ、こうしたネットワークカメラを導入するには、機器の購入・リース費用のほか、設置工事費、電気料金、ネットワーク利用料金といったコストが発生する。さらに映像保存に必要なレコーダー、ストレージなどを加えるとかなりの高額になる。特に個人事業主などの小規模経営者はメリットを理解しつつも、導入に踏み切れないケースもあるようだ。
このような現状を踏まえ、各メーカーは高性能を追求するモデルとは別に、低コストで手軽にネットワークカメラの利便性が感じられる製品をそろえ始めた。例えばパナソニックの「KX-BSC200」は、中小規模の店舗や事務所、作業場などを対象に開発された屋内用カメラだ。周囲の動作、音、温度を検知するセンサーを装備した本モデルは、無線でデータをやり取りするので大がかりな配線工事は不要(電源コンセントは必要)。映像はパソコンのほか、スマートフォンでも確認できる。
アイ・オー・データ機器の「Qwatch」シリーズも、業務用の高価な防犯カメラと一線を画す。家庭用としても使える低価格帯で、ズームや夜間撮影など性能面も充実している。ネットワークカメラとして人気のある製品だ。小型のボディーはデスク上に置いても目立たず、外出先から簡単な操作で映像を閲覧できる。
さらに安価に利用できる仕組みとしては、Webカメラやデジタルカメラなどを設置して画像を撮影し、アプリケーションをインストールしたスマートフォンにデータを送信するタイプもある。「IP Webcam」「スマートホームセキュリティ」など各種のアプリがリリースされている。その多くは無料で利用が可能だ。
パナソニックやアイ・オー・データ機器のネットワークカメラはおおむね数千~3万円程度で購入できる。高性能な防犯カメラが設置工事費も含めると、1台10万円以上なのを考えると値ごろ感が強い。低価格製品やスマホアプリの登場で、身近な存在になりつつあるネットワークカメラ。離れた場所から店舗、オフィス、工場、倉庫など事業所の状況を確認できるツールとして、企業での導入も拡大中だ。
オフィスでの活用例は?
企業がネットワークカメラを活用するシーンには、どのようなものがあるのだろうか。代表的なのは終業後の監視などの防犯だ。インターネットなどの常時接続環境があれば、カメラを購入してつなげばリーズナブルな遠隔でも監視できるセキュリティーシステムが簡単に構築できる。センサーが異常を感知するとスマートフォンにメールで通知するものもある。
店舗の場合、レジ付近も有効な設置場所となる。小さな犯罪抑止面はもちろんのこと、「商品、釣り銭の渡し間違い」や「苦情の申し入れ」といったトラブルが発生した際、後から録画した映像で経緯や事実確認ができる。原因究明にも一役買うに違いない。
最近は、食品の異物混入など製造物責任を問われるケースが増えている。そうしたトラブル対策として、工場などの製造現場への設置も効果的だ。人の出入りや作業状況を記録しておけば、事故があった際の証拠として活用できる。
ほかにも、倉庫の入荷状況を知りたい場合や、駐車場の空き状況を確認したい場合など、「ここに人の目が欲しい」と感じるポイントがあれば、そこがネットワークカメラ活躍の場となり得るといえるだろう。
選定のポイントは目的の明確化
ここで、実際にネットワークカメラを導入する際の注意点をまとめた。最初に決めるべきは「何をしたいか」だ。ネットワークカメラの機能や価格はモデルにより大きく異なる。まずは導入の目的を明確にして、最低限必要なスペックの見極めが大切になる。
まずは基本となる「撮影」機能。その品質を左右する画素数は機種によって30万~300万画素以上とさまざまだ。オフィス全体を見渡すだけなのか、ズームの必要性の有無、あるいは人の表情が分かるほど詳細な映像が必要なのか。また、撮影範囲の広さや照明の明るさといった設置場所の環境についても、導入前に調査したい。
次に挙げられるのは映像の「保存」だ。前出のKX-BSC200の録画媒体はSDカードなので録画量が少ない場合はこれで十分だ。一方、Qwatchシリーズは記憶容量の大きいハードディスクにも保管できるので長時間録画に適している。
なお、設置場所が屋外の場合は、雨や雪などの気象変化に対応したモデルが必要になる。同時に設置工事も行うことになるので、場合によっては信頼できる事業者に相談するのもよいだろう。
信頼性を高め、ビジネス力をアップ
ビジネスシーンでネットワークカメラを導入する機会は、急速に拡大している。例えば製造業では、工場のライン上に複数のカメラを設置し、リアルタイムで稼働状況をチェックする。また農業では作物の生育状況、物流分野では商品在庫の動き、医療・介護分野では高齢者の見守りにと、あらゆるジャンルに広まりつつあるのが現状だ。
インターネットを用いた仕組みである以上、セキュリティーの問題は避けて通れない。2016年には、世界各国のネットワークカメラ映像が大量に公開される事件が発生した。これはカメラの通信機能が初期設定のまま使われていたのが原因とされる。セキュリティーリスクを減らすために導入した機器であっても、場合によっては深刻な情報漏えいの引き金になると認識する必要がある。導入に当たってはID、パスワードを正しく管理するとともに、オフィスのセキュリティー対策を再確認し、安心して活用できる環境を整備すべきだ。
また、稼働後に何らかの不安や問題点が出てきた場合は、メーカーのサポートセンターに問い合わせられるかどうかも大きい。スマートフォン用の無料カメラアプリは確かに手軽だが、サポートの類いは皆無といっていい状況にある。あくまでビジネス用途であるのを前提にして、セキュリティーやリスクヘッジを重視した運用を心掛けるべきだろう。
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