高齢者の骨粗しょう症による骨折は、要介護や寝たきりの原因になるともいわれています。本記事では、そのような可能性のある、骨粗しょう症のメカニズムと予防方法を紹介します。
なぜ骨の健康が、老後の日常生活を左右するのでしょうか。内閣府が2016年に発表した平成28年版高齢社会白書にある「65歳以上の要介護者等の性別にみた介護が必要となった主な原因」の内訳を見ると、脳血管疾患が17.2%、認知症が16.4%、高齢による衰弱が13.9%、骨折・転倒が12.2%となっています。
また骨折の治療から身体活動が減少すると筋力が低下し、日常生活への復帰が困難になることもあります。2014年に国立長寿医療研究センター、京都大学、名古屋大学などによる「高齢者における骨粗しょう症および歩行能力と認知機能の関係」という研究論文では、骨粗しょう症や歩行機能の低下は、認知症のリスクが高まると発表しています。
骨の強度は、量である「骨密度」と、質の「骨質」という2つの要素で決まります。骨量とは、骨に含まれるカルシウムなどのミネラル(栄養素)の量になります。骨質は素材の質です。骨には代謝があり、1年間で全体の20~30%が新しいものと入れ替わっているそうです。代謝は、古くなった骨の成分を壊す細胞と、新しい骨を作る細胞が働くことによって成り立っています。何らかの原因で骨を作る細胞の働きが低下すると、骨量の減少や骨質の劣化が起こり、骨はもろくなるのです。
細胞の働きが低下する原因はさまざまですが、アステラス製薬によると次の3つが代表的な原因とされています。1つ目はホルモンバランスの変化です。エストロゲンという、女性ホルモンや副甲状腺ホルモンなどが骨の代謝に大きな関わりを持っています。それらの分泌が低下すると、細胞の働きが低下するそうです。女性は閉経によって、男性よりエストロゲンが急激に低下することがあります。そのため、加齢によるホルモンバランスの変化が大きいとされています。
2つ目が栄養素の不足です。カルシウム、タンパク質、ビタミンD、ビタミンKなどの骨に必要な栄養素は腸から吸収されています。摂取量が低下したり体外に排出されやすくなったりすると、栄養素が不足して骨の代謝が滞ります。
3つ目は運動不足、喫煙、過度な飲酒などの生活習慣です。骨は適度な刺激を与えると、代謝が促進する性質を持っています。だから運動不足は代謝低下の一因となります。また喫煙には女性ホルモンの作用を妨げることに加え、カルシウムの吸収も妨げ、体外に排出させる作用があります。過度な飲酒もカルシウムの吸収の妨げと体外への排出を促します。この3つの生活習慣は、骨以外にもさまざまな生活習慣病の原因といわれています。
予防方法が2種類ある骨粗しょう症
東京女子医科大学整形外科の加藤善治医師によると、骨粗しょう症の予防方法は年代によって違ってくるそうです。20~30代は食事による栄養素の摂取と、適度な運動です。これに加え、禁煙と適量の飲酒になります。
40~50代は食事による栄養素の摂取に加えて、病院で骨粗しょう症の検査と、閉経を迎えた女性はホルモンバランスのチェックも行いましょう。運動は、無理のない範囲での継続に切り替えます。
このように骨粗しょう症の予防には、加齢に関係するものと、生活習慣に関係するものに分けられます。次は生活習慣に関する食事、運動に関する予防方法を解説します。
骨量と骨質を低下させない生活習慣
生活習慣に関する予防法として、まず栄養素の食事摂取があります。骨を作るのに必要な栄養素を多く含む食材を取るよう心がけましょう。例えばカルシウムは牛乳、チーズなどの乳製品、小魚類や納豆、豆腐などに含まれます。またビタミンDを一緒に取ると、カルシウムが吸収されやすくなります。ビタミンDが含まれるサケ、サンマ、ヒラメなどの魚類を取りましょう。
また適度な運動も大切です。10代は骨を育成するために、適度な負荷をかける運動が適していますが、年齢を重ねるとともに負荷は減らします。40~50代では、1日に30分程度のウオーキングが目安となります。
長生きに関する平均寿命と健康寿命の違い
冒頭でも述べた通り、骨粗しょう症から寝たきりや認知症のリスクが高まります。平均寿命が伸び続けている現代では、健康に老後生活を送ることは大きな人生課題でもあります。
平均寿命とは、人口における0歳から亡くなるまでの年数の平均値です。平均寿命は、高齢者の日常生活や健康状態を調査するものではありません。そこでWHO(世界保健機関)は2000年に平均寿命とは別で、健康上の問題で日常生活が制限されずに生活できる年齢を「健康寿命」と定義するようになりました。
この定義は各国の高齢者の健康状態を示す指標となり、日本でも厚生労働省が2013年に平均寿命と健康寿命の調査を行いました。それによると男性の平均寿命は80.21歳に対し、健康寿命は71.19歳。女性の平均寿命は86.61歳に対し、健康寿命は74.21歳でした。男性は9.02年、女性は12.40年も日常生活が制限される可能性があると分かりました。このような点からも、ご自身の健康寿命を伸ばすために、日ごろの生活習慣を今のうちに見直しておくのは大切だといえます。