中高年になると夜中や早朝に目が覚めてしまい、十分な睡眠が取れない。朝の目覚めがすっきりせず、昼間の活動に影響を与えることが増えてきます。それは加齢で、眠る能力が衰えてくるためです。本記事では、中高年が知っておくべき、加齢によって変わってくる睡眠について紹介します。
高齢者ほど睡眠時間が短くなるはウソ?
年を取るほど睡眠時間が短くなるという俗説があります。しかし厚生労働省の調査によると、実際には長くなるという結果が出ています。
厚生労働省が発表した「平成27年国民健康・栄養調査結果の概要」では、6時間以上の睡眠時間を取っている人の割合を男女・年齢別で調査しています。男性では20代、30代、40代、50代のどの年代でも約50~57%ですが、60代になると70.1%、70歳以上は75.2%と急激に増加します。また女性の20~50代だけでなく60代までが約47~62%ですが、70歳以上は67.8%となっています。この調査結果を見る限りでは、年を重ねるほど睡眠時間が長くなる傾向が見られます。
その一方で、高齢者ほど睡眠の質に満足できていないという調査結果も出ています。「夜間、睡眠途中に目が覚めて困った」という人の割合は、男性では20~50代までは約10~19%ですが、60代は25.8%、70歳以上は29.0%と増えます。女性の20~50代までは約17~23%で、60代が23.0%、70歳以上が30.0%となっています。女性は、前述の6時間睡眠以上の調査と同様に、60代でも割合が高くありませんが、70代以降になると男性の割合とほぼ変わらなくなります。
睡眠への不満を表す、他の調査結果として、「起きようとする時刻よりも早く目が覚め、それ以上眠れなかった」人の割合も同様で、男性は60代から、女性は70代から増えています。
調査結果から、年を取るほど睡眠時間が長くなると同時に、満足な睡眠が取れなくなる=睡眠の質が下がるという傾向が見てとれます。
加齢で睡眠が浅くなり前倒しされる…
厚生労働省が提供している「高齢者の睡眠 | e-ヘルスネット 情報提供」によると、加齢により睡眠には2つの変化が表れるようになります。
1つは体内時計の変化による睡眠リズムの前倒しです。その結果、眠くなる、目が覚めてしまうタイミング共に早まります。これは、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの夜間分泌量が、中高年になると減少するために生じると考えられています。
もう1つは、睡眠が浅くなることです。睡眠中の脳波を調べたところ、年を重ねると深いノンレム睡眠の時間が減少し、浅い睡眠が多くなります。そのため尿意やわずかな音でも目が覚めてしまうのです。
中高年が睡眠の質を高めるには
このように中高年になると睡眠時間が長くなるのは、眠りの浅さも関係していることが分かりました。日本大学医学部精神医学系主任教授の内山真氏監修の「快眠生活をおくるための12のアドバイス」によると、中高年になったら眠りを深くするためは、起床時間や昼間の活動、就寝前などの生活習慣で気を付けるべきポイントがあると説明しています。
内山氏によると、睡眠不足を挽回するために「寝なくてはならない」と力むとかえって眠れなくなる。寝付きが悪いときはいったん床を出て、「眠くなったら寝ればいい」と気負わないことが大切だと助言しています。睡眠時間の長さよりも、深さという質を高めるのを重視し、遅寝早起きをめざすべきだといっています。
就寝も、布団に入って無理に寝ようとせず、リラックスして過ごし、気負わずにいるほうが深く眠れるそうです。昼間は、仕事のない休日でも、軽い運動や家事、趣味などを行い活動的に過ごすほうが、寝付きは良いそうです。
深い眠りには体内時計のリセットを
内山氏によると、中高年になると体内時計が狂いやすくなり、夜中や早朝に目が覚めてしまう。本来起床したい時間に、朝をすっきりスタートさせられないことがあるとしています。朝をすっきりさせるには、体内時計を元に戻すための生活習慣の改善を勧めています。
例えば、決まった時間に起床して必ず朝日を浴びるようにしたり、食事の時間をできるだけ規則正しくしたりする。就寝時刻が近づいたら室内の照明を暗くしたり、間接照明に切り替えたりするなど、決まった時間で習慣を繰り返し、浴びる光の量を調整すると、体内時計と睡眠時間が同期してくるそうです。
不眠対策はライフスタイルの見直しから
「中高年の不眠に関する意識と実態調査」調査結果概要によると、生活習慣病患者の約5割が不眠症もしくは、その疑いがあるという結果が出ています。中高年の不眠は、加齢による眠りの浅さや体内時計の変化などの原因がありますが、他にも不安やストレス、不規則な生活、あるいは生活習慣病などさまざまな原因が考えられます。
満足な睡眠が得られていないと感じられた場合は、まずは起床時間や体内時計を元に戻すといった生活スタイルの見直しから始めてはいかがでしょうか。それでも改善が見られない場合は、我慢せずに医療機関に相談することが大切です。