人々が行き交う大都市の鉄道駅にもかかわらず、駅員のいない無人駅が存在することがあります。本連載では、都会の喧騒(けんそう)の中に存在する無人駅と、その周辺を散策してみます。
今回取り上げるのは、大阪市西成区橘にある南海電鉄汐見橋線の西天下茶屋駅。通天閣やあべのハルカスに近い大都会にありながら、乗降客もまばらな無人駅です。レトロな駅舎を出て商店街へ向かうと、そこは昭和の香りが漂う大阪の下町。周辺には路地を囲むように懐かしい文化住宅が建ち並び、ノスタルジックな気分にさせられます。
南海電鉄の汐見橋線は、浪速区の汐見橋駅から西成区の岸里玉出駅間4.6kmの路線です。正式には南海高野線の一部ですが、1985年に現在の岸里玉出駅で線路が分断され、事実上の支線となりました。そのためダイヤは上下線とも各駅停車が1時間に2本だけ。ワンマン運転される2両編成となっており、まるで過疎地のローカル線のようで、車窓から見える大阪の風景に違和感を覚えます。
汐見橋線は大正時代の1915年に大阪高野鉄道として開業し、その後の会社の合併で南海電鉄の路線となりました。昔は木材など貨物輸送が中心でしたが、貨物の廃止とともに都会のローカル線に変わったのです。
西天下茶屋駅はアーチを多用したレトロ調の凝った造りです。看板がさびつき、長い歴史を感じさせます。上下線双方に券売機と自動改札が設けられていますが、両ホームをつなぐ階段などの通路はなく、入場後はホーム間の往来ができません。
南海電鉄によると、1日平均乗降客は2016年度で264人。大都市の駅としては非常に少なく、20年前に比べると3分の1に落ち込んでいます。西天下茶屋駅から南海本線の天下茶屋駅までは約800m、JR新今宮駅までは約2kmしか離れておらず、自転車に乗れば梅田や難波へ1本で行ける路線に乗ることができます。その方が通勤にも便利ですので、乗降客は減っているのかもしれません。
商店街の周囲に文化住宅、今も変わらぬ昭和の雰囲気
駅の南側には銀座商店街(正式には西天下茶屋商店街)があります。1996~97年に放映されたNHK連続テレビ小説「ふたりっ子」の舞台となった場所で、約20店が営業しています。
雰囲気はアーケード街に昔ながらの専門店が並ぶまさに昭和の商店街。秋山博志商店街振興組合理事長は「店の入れ替えはあるが、雰囲気は変わらへん。ただ、駅が寂れてにぎわいは減ったな」といいます。
コーヒー160円の喫茶店、焼きそば250円のお好み焼き店など激安店が多く、下町の人情を感じられるのがこの商店街の特徴。理事長の奥さんの君代さんは「金もうけは二の次。大阪の下町ってこんなところやで」。商店街の周辺は狭い路地に文化住宅が並び、まるで昭和にタイムスリップしたようです。
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時間の流れがゆったりと感じられる西天下茶商店街[/caption] [caption id="attachment_21140" align="aligncenter" width="450"]
周辺には文化住宅と呼ばれる建物が数多く残っている[/caption]
国際化の波ひしひしと、商店街にも外国人旅行者
新今宮駅の南側には、日本最大の簡易宿泊所街・あいりん地区が広がり、最近は宿泊する外国人旅行者が増えてきました。星野リゾートによるホテル建設計画もあり、周辺地域は大きく変わろうとしています。
その変化は西天下茶屋駅の銀座商店街にもあり、時折外国人旅行者を見かけるようになりました。外国人旅行者が大阪を好むのは、安くておいしい食事と下町の人情といわれます。
「言葉は通じないけど、喜んでくれているのは分かるよ」と君代さん。西天下茶屋駅かいわいも昭和のたたずまいを残したまま、国際化時代を迎えようとしているのでしょう。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年3月14日)のものです