今、日本ではスマホを使った「キャッシュレス決済」がムーブメントになっている。決して大げさな表現ではない。量販店やスーパー、コンビニ、ファストフード店、さらには街の小さな商店でも「○○ペイ使えます!」のポスターが掲示される。ポイント還元サービスに引かれて使ってみた人も多いはずだ。
こうしたスマホ決済は、まさに雨後のタケノコのごとき乱立状態が続く。それらはそれぞれ使い方が異なる。このままでは普及が頭打ちになる危機感もある。改善を図る動きが目立ち始めた。
日本ではQRコードが統一されていない
スマホによるキャッシュレス決済は、基本的にQRコードを使う。QRコードは日本のデンソー(現・デンソーウェーブ)が1994年に開発したバーコードの一種で、くし型の一般的なバーコードに比べ、より多くの情報を盛り込める。
スマホ決済におけるQRコードの使い方には次の2つがある。
(1)店舗が提示したQRコードを、顧客がカメラで読み取って使う方法(店舗提示型)
(2)顧客が作成したQRコードを、店舗のレジ・端末で読み取る方法(利用者提示型)
いずれの場合もQRコードの規格自体は共通なので、端末で「データが読み取れない」ことはない。問題は、コードに盛り込まれたデータの並び方や決済までの仕組みが事業者ごとに違うところだ。店舗・利用者は、それぞれ個別に対応しなければならない。ちなみに、流通の現場で広く使われるJANコードや、書籍のカバーに印刷される図書コード(ISBN)は、世界共通のルールに基づいて作成されている。だから、混乱はほとんど発生しない。
共通ルールがない弊害の例を挙げてみよう。店舗提示型の場合、加盟している事業者のQRコードが印刷されたプレートをレジ前に掲示する。メジャーなものだけでも10以上の決済サービス事業が存在する。どのコードを読み込めばいいのかで顧客は迷う。支払いに時間がかかる状況になりかねない。結果、「スマホ決済=面倒」という認識が消費者にも店舗側にも広まり、普及にブレーキがかかってしまう事態が懸念される。
利用者提示型では、提示されたコードを読み込むスキャナーや、スマホ決済対応のPOSレジといった設備を店舗が用意する。コンビニや大手チェーン店以外での導入はまだ「これから」のタイミングだけに、普及への悪影響は避けたいところだ。
総務省主導で、統一コード「JPQR」が生まれる…
こうした状態を解消するストーリーとして、「自然淘汰が進み、生き残った強者が市場を独占する」流れも考えられる。ただ、利用者や店舗が一定期間不自由を強いられる上、普及のスピードが遅くなる。
そこで最近動き出したのが、QRコード統一化だ。5月20日、総務省は統一コード「JPQR」普及事業の参画企業を発表した。JPQRは決済事業者、研究者、有識者らで組織されたキャッシュレス推進協議会が策定した規格だ。現在、各社のルールで作成されるコード内のデータを統一して、利便性を向上させるのが目的だ。
今回の発表では普及に向けた実証実験として、岩手・長野・和歌山・福岡の4県全域でJPQRを導入し、2019年8月1日から4カ月間の効果検証を行う。参加する決済事業者は9社(NTTドコモ、Origami、KDDI、福岡銀行、PayPay、みずほ銀行、メルペイ、ゆうちょ銀行、LINE Pay)で、店舗売上一括管理画面の提供はマネーフォワードが担当する。対象地域では、各事業者が共通のコードを使用し、利用者の利便性向上や店舗の負担軽減が得られるかを検証する。
DGグループは統一サービス「クラウドペイ」を提供
一方、JPQRとは別に、コード統一をめざす取り組みも進められている。インターネット企業のデジタルガレージを中心とするDGグループでは、QRコードを共通化したマルチ決済ソリューション「クラウドペイ」の提供を開始した。
同サービスは店舗提示型の課題だった“各社のQRコードが並んで不便”を解決するため、1つのコードで複数事業者の決済を利用可能にする。NTTドコモが提供する「d払い」のほか、メルペイ、LINE Pay、そして中国の2大決済サービス(Alipay、WeChat Pay)も利用できる。
JPQRとクラウドペイでは求める将来像が異なる。JPQRがスマホ決済事業全体の統一をめざすのに対し、クラウドペイは共通の価値観を持つ事業者が連合してサービスを使う。「国が主導する統一」と「業者連合による統一」といえば分かりやすい。
スマホ決済の今後、さらなるキャンペーンや統合化、今後の展望
キャッシュレス決済事業の成否は、加盟店の数にかかっている。かつてクレジットカード会社が、苛烈な加盟店獲得競争を繰り広げてきたことからも明らかだ。「使える店が少ない」のは致命的な弱みになる。
近ごろ実施されているサービス導入に対する高額キャッシュバックや、決済手数料無料化といった採算度外視のキャンペーンはすべて、使える店舗を増やすのが目的といえる。しかし、今後QRコードの統一が進んで「入り口が1つ」になると、これらの販促活動が他社サービスの加盟店も増やしてしまうことになる。早期統一に慎重な見方をする決済会社があってもおかしくない。
だが利用者が一番戸惑っているのは「種類が多くて使いづらい」に尽きる。今は財布に円、ドル、ユーロなど多くの種類のお金を入れて持ち歩くようなもので、「○○ペイに1万円、××ペイに2万円……」は面倒だ。JPQRやクラウドペイの動きは歓迎されるはずだ。
日本より一足早くQRコード決済が普及した中国では、不正利用増加や操作の手間が敬遠され、顔認証などの「脱QRコード化」にかじを切っているという。「QRコードを統一したときには、すでに役割を終えていた」などということにならないよう、速やかな取り組みが求められる。
※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です