中小・小規模事業者が経営する店舗で、キャッシュレスで支払うと支払額の5%相当のポイントが還元される。コンビニエンスストアなどのフランチャイズチェーン(FC)に加盟している中小・小規模店などでは2%相当のポイントが還元される。消費者にとっては大きなメリットがある。
経済産業省によると、10月11日時点では、対象となる店舗約200万店のうち、参加しているのは約52万店。3分の1にも満たない。大手チェーンなどのFC店は本部の指導により、かなり積極的に参加しているが、それ以外の中小・小規模店に絞れば、もっと参加比率は低い可能性がある。消費者にとって大きなメリットがある制度を用意して、キャッシュレス決済の導入を進めようとする政府の方針に対して、中小・小規模店の動きは鈍い。原因は何だろうか。
まず1つは、現時点における消費者意識の問題だ。キャッシュレス決済には、クレジットカード、デビッドカード、電子マネー、プリペイドカードなど多様な形態があるが、その中で現在、最も普及に期待がかかっているのがスマホ決済だ。スマホ決済にも、モバイルSuicaや楽天Edy、IDなどの電子マネー型と、PayPayや楽天ペイ、LINE PayなどのQRコード型の2種類があるが、最近注目されているのは後者である。
しかし、QRコードタイプに対する消費者の信用度合いが低い。調査会社のリサーチ・アンド・ディベロップメントが2019年8月29日に発表したキャッシュレス決済に関する調査結果で、「非常に信用できる+まあ信用できる」と答えた人の割合を見ると、クレジットカードやカードタイプの電子マネーが7割を超える。それに対して、スマホタイプのQRコード決済は28%と非常に差がある。
理由として考えられるのが、スマホ決済で生じている不祥事だ。2018年12月にはPayPayの不正利用騒ぎがあった。2019年7月にはセブン&アイグループの7payが、第三者による不正アクセス問題で、すぐにサービス停止が発表された。こうしたことから、ある一定層の消費者の活用意識は減退した。店舗側が導入に二の足を踏むのも想像に難くない。
必須の軽減税率対応も想定を下回る
もう1つ、中小・小規模事業者にQRコードによるスマホ決済の導入が進まない要因として考えられるのは、経営者の意識の問題だ。中小企業庁の中小企業白書によると、2015年時点で、中小企業経営者4分の3以上が50歳以上だ。子どもの頃からスマホを活用してきたわけではない。電話やパソコン代わりにスマホを使っても、決済などの新しい使い方には多少なりとも不安がある。方法もよく分からず、結果的に自分の経営する店舗への導入意欲にも影響していると考えられる。
実は、新しい決済システムの導入に関する経営者の関心の低さは、別の補助金制度でも類推できる。今回の消費税率アップでは、食料品などに関する軽減税率が導入された。その対応が必要となる中小・小規模事業者に対して、新規の決済端末の購入やシステム改修の費用を補助する「軽減税率対策補助金」制度が創設された。2019年9月30日までレジ・システムなどの導入と支払いを完了することが必要で、申請の締め切りは2019年末だ。
政府は約30万件の申請を想定していた。にもかかわらず、2019年7月末時点の申請件数は約11万8000件だ。8月に申請要件を緩和したが、締め切りまで待っても想定を下回る可能性は高い。複雑な軽減税率に対応する決済端末は、関連する事業者にとって、税務上、必須ともいえる。その導入に関するせっかくの補助金活用が進まない。中小・小規模事業者が、QRコードなどのキャッシュレス決済の導入に及び腰なのがよく分かる。
ポイント還元制度に少しでも早く参加すべき
しかし中小・小規模事業者は、そろそろ新しい決済への対応に目覚めなくてはならない風向きだ。経済産業省の発表によると、キャッシュレス還元事業がスタートして、最初の1週間のポイント還元額が1日当たり約8億円に上ったのだ。政府の予算では、1日当たりの還元額は約10億円を想定していた。その8割に当たる還元額は、想定よりも非常に少ない参加店舗数を考えれば、とてつもない数字だ。キャッシュレス決済は10月1日以降、活用されている。こうした消費者の変化に注目すべきだ。
キャッシュレス・消費者還元事業の内容は、ポイント還元による消費者の需要喚起だけではない。事業に参加した中小・小規模事業者には、決済端末の導入費用の補助や、決済手数料の補助がある。政府のキャッシュレス決済施策を見れば、中小・小規模事業者の導入を後押ししようとしているのは一目瞭然だ。現時点で使える補助金を生かして、少しでも早く動くべきだろう。キャッシュレス決済の中でも、スマホによるQRコード決済への対応は重要だ。まずはスマホ決済事業者に連絡して、説明を聞いてみてはどうだろうか。
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