業務効率化やデジタル化が急務の中小企業にとって、公的な補助金をいかに賢く活用するかが競争力強化、企業成長のカギを握る。その補助金の1つに「IT導入補助金2023」がある。中小企業・小規模事業者などが自社の課題やニーズに合ったITツール導入の経費の一部を国が補助することにより、業務効率化や売り上げ向上などを支援するものだ。
IT導入補助金は事業の目的に応じて大きく3つの「枠」がある。「通常枠(A類型、B類型)」は、自社の強み、弱みを把握し、経営課題や需要に合ったITツールを導入することで、業務効率化や売り上げのアップといった経営力の向上、強化を図ることを目的としている。補助の対象となる経費はソフトウエア購入費、クラウド利用料(最大2年分)、導入関連費などだ。
「セキュリティ対策推進枠」は、サイバーインシデントによって事業継続が困難になる事態を回避するとともに、サイバー攻撃の被害が供給の制約、価格高騰を潜在的に引き起こすリスクや生産性向上を阻害するリスクを低減することを目的としている。補助対象経費はサービス利用料(最大2年分)。
「デジタル化基盤導入枠」のデジタル化基盤導入類型では、例えばソフトウエア購入費(会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフト)やクラウド利用料(最大2年分)、導入関連費の他、ハードウエア購入費(パソコン、タブレット、プリンター、スキャナー、複合機、レジ、券売機など)など、類型によって補助対象や補助率、補助額の下限・上限額などが異なる。
IT導入補助金2023の枠組み
また、IT導入補助金2023の交付申請には、電子申請の「gBizIDプライム」のアカウント取得、情報セキュリティ対策に取り組むことを自己宣言する「SECURITY ACTION」、経営課題をデジタル化で解決することをサポートする「みらデジ」の「経営チェック」を実施する必要がある。その上で、IT導入支援事業者と導入したいITツールを相談、選定し、交付申請を行う。内容の詳細はIT導入補助金のホームページを確認してほしい。
これまでもIT導入補助金を利用して生産性向上などを図る例は少なくない。中小企業をサポートする中小機構ではIT導入補助金の活用事例を紹介しているので活用の参考にしたい。例えば、ITを活用して中小企業の課題である働き方改革に取り組む例もある。建設会社A社では、工事現場で勤務する従業員はタイムカードの打刻だけのために本社へ出社し、作業終了後は帰社することが常態化していた。現場と本社の往復移動時間は残業扱いとなっていたが、移動に伴う従業員の負担は大きかったという。
こうした働き方を改革するため、ITを活用した勤怠・労務管理に着手。従業員は現場でスマートフォンやタブレット端末を使って打刻し、直行・直帰が可能になった。その結果、移動時間の無駄がなくなった他、本社の内勤者が手作業で行っていたタイムカードの入力作業を効率化。さらに有給の申請もデジタル化したことで有給消化率が上がるなど、IT活用が働き方改革につながっている。
ITでバックオフィス業務の改善に取り組む企業もある。サービス業のB社は1台のパソコンに会計ソフトを入れて経理業務を行っていた。そのため、複数人の同時作業ができず、仕分けを手入力で行うなど非効率だった。こうした業務の改善とともに、各種帳票の管理をオンラインで行う経営方針もあり、クラウドの会計ソフトを導入。導入後、オンラインバンキングと連携して入出金履歴の取り込みが自動化されるなど経理処理時間の短縮を実現した。削減した時間を活用して税務・会計の課題を検討するなど、経理の精度の向上や、売り上げ分析など戦略的な業務に注力できるようになったという。
パートナーとなる支援事業者の知見を活用
間近に迫った改正電子帳簿保存法やインボイス制度への対応、企業成長を促進するDXなど、中小企業の経営課題に対して、一部とはいえ費用面で支援を受けられるIT導入補助金の活用をぜひ検討したい。ただ、補助金は費用が全額支給されるわけではないため、事前に補助対象となる経費・補助の割合、上限額などを確かめる必要がある。
IT導入補助金の活用を検討する企業のパートナーとなるのがIT導入支援事業者(ITベンダー、サービス事業者)だ。ITツール導入の相談をはじめ、ITツールの情報提供、導入の実施、申請・導入後のサポート、アフターフォーローなどを担う。
補助金の交付申請を行う事前準備として、自社の業種や事業規模、経営課題に応じてIT導入支援事業者と導入したいITツールを制定する。その後、交付申請の事業計画の作成・提出、IT導入補助金の事務局からの交付決定後、ITツールの発注・契約・支払いといった補助事業を実施。完了後は事業実績報告を作成するなど、さまざまな手続きが必要だ。適用条件や必要書類の作成、申請方法などに豊富な知見を持ち、企業の要望に対して的確かつ親身になってサポートしてくれるIT導入支援事業者に相談することが、補助金活用の重要なポイントになる。
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