愛はブーメラン、まずは自分から!
人との関係の中で、いつも私が心掛けているのは、「まず自分から関わること」です。
私たちはどうしても、人に与えることよりも、人からしてもらうことを求めてしまいがちです。自分から声を掛けるより、声を掛けられたいし、誰かに見留め(認め)られたい。でも、相手の行動はコントロールすることができません。ですからまず、自分が人に対して発信することです。
「愛はブーメラン」、まずは自分から。自分が与えたものは、いつか自分に返ってきます。特に苦手な人とは、なかなか上手にコミュニケーションを取れない人が多いと思います。でもそうすると、ますます関わりが減るという悪循環に陥ります。
苦手な人にこそ、まず自分から声を掛けてみてください。楽しく話す必要はありません。まずは自分から挨拶してみる。これだけでいいので、続けてみてください。
これは、私が息子の小学校でPTA役員をしていたときの話です。イワちゃんという女性の委員長がいました。イワちゃんとの最初の出会いは強烈だったので、今でも覚えています。
ある議題の解決策について、PTA役員の私たちに「それはおかしい!規約違反だ!」とかみついてきたのです。言っていることは確かに間違っていません。でも正直、このときは「面倒そうな人だな……」と思っていました。
翌年、そのイワちゃんの子どもと私の息子が同じクラスになりました。心の中で「うわっ」と思いましたが、関わらないわけにはいきません。自分から話し掛けてコミュニケーションを取ってみると、そんなに悪い人ではありませんでした。役員の仕事も一生懸命やっています。
ただ、暴走すると周りが見えなくなり、空回りしてしまうというのが彼女のパターン。それは、本人も自覚していました。
私が「何年間もボランティア活動、本当にありがとうね。なかなかここまでやってくれる人っていないからね」と彼女の熱心さを見留めたことで、彼女は心を開くようになりました。そして「ただ、一生懸命過ぎて人と戦っちゃうのがもったいないよー」という私の助言も素直に受け止めてくれるようになり、とうとうイワちゃんは「私が暴走したら止めてね」なんてことも言ってくれるようになりました。
そこで、役員会議などでイワちゃんが暴走したときは、「ハイハイハイハイ、イワちゃん、いま暴走してるよ!」と私が止めに入ったりして、とてもいい関係になったんです。
子どもが小学校を卒業したらつながりが切れるママ友がほとんどの中で、イワちゃんは卒業した今でも親交がある数少ないママ友。今では片付けが苦手な私のために、家に来て整理整頓の手助けまでしてくれるんです。
もし私が「面倒くさそうな人だな」と思って、イワちゃんを遠ざけて終わっていたら、今の関係はなかったでしょう。人って、関わってみないと分からないものなんです。
言葉の始まりは必ず「YES」から~「YES &の法則」…
さらに、人間関係を円滑にし、信頼関係を築くための大切な法則があります。それは、会話をするときに、相手の話に応える最初の言葉を必ず「YES」で返すことです。
私たちは、相手と意見が食い違うと、「でも」や「いやいや、そうはいっても」とまず否定して戦ってしまいがち。でも、否定されると、相手は「この人は自分に共感してくれない人だ」「自分のことを分かってくれない人だ」と感じて、あっという間に心の扉を閉じてしまいます。一度閉まった心の扉を開けるのは、難しいものです。
ここでのポイントは、相手に同意することではなく、「YES」で反応し、「相手の感情を丁寧に扱う」ということです。まず、相手の気持ちを受け止めることから始めましょう。
私が英会話学校で働いていたとき、時々クレームを受けることがありました。苦手どころかなるべく接したくないような相手かもしれませんが、私はクレーム対応がとても得意でした。それは、この「YES &の法則」をうまく使っていたからです。
あるとき、通っている生徒のお母さんが「息子を通わせているのに、英語の成績が伸びない。お金を返してくれ!」と学校に乗り込んできました。今ではスクールやエステなどで、途中解約ができる制度もありますが、当時はクーリングオフ制度(購入・契約から一定期間内のみ返金・返品が可能)しかありませんでした。基本は半年か1年のコースで、一括前納制で支払いを済ませているので、返金することは難しい。何とか納得してもらうしかありません。
ここで、もしこのお母さんに対して、「いや、そうはいっても途中で解約はできないんですよ」と言うとしましょう。恐らくお母さんはますます腹を立てます。
そこで私は「YES」で返答することにしました。「そうですよね。すごく期待して子どもさんが英語を話せるようになると思って、数あるスクールの中から当校を選んでくださったんですよね。それなのに、思うように成果が上がらなかったらがっかりしますよね」
と、まずはお母さんの気持ちを受け止めます。ここで大切なのは、相手の感情を丁寧に扱うこと!相手の主張が正しいか否かではありません。
その後さらに、「電話ではなく、わざわざここまで足を運んできてくださって、本当にありがとうございます」(ありがとうファースト!)と付け加えました。
どれだけ激しく怒っている人でも、「ありがとう」と言われると、「まぁまぁ……ちょっと言い過ぎたかな」というような気持ちになるもの。そのお母さんも怒りが少し収まって、心の扉がちょっとだけ開きました。
そのとき初めて、私はこう言いました。「お母さん、実は英語を習得するのって、やはり時間がかかるんですよ」。
正しさを伝えるのは、相手の気持ちを受け止めた後でいいんです。
どれだけ正しいことを言おうとしても、人は心が開く前には相手の言葉を受け止めることができません。
クレーム客が根強いファンに
そのお母さんとは、30分くらい話したでしょうか。最後には納得していただくことができました。なんと「分かりました。せっかく始めたんだから、もう少し続けなきゃいけませんね」と言って、さらに半年更新していかれたのです。そして「せっかく駅前まで来たから、ATMでお金を下ろしてお支払いしますね」と、数十万円のお金を払って帰られたのです。ついには〝お友達紹介キャンペーン〞では、知り合いを紹介してくださいました。
それくらい、相手の感情をしっかり受け止めるということは、人とコミュニケーションを取る上で大切なことなのです。
クレームにはいろいろな種類があると思いますが、どんな内容でもこの「YES &」の法則は使えます。例えば、商品の不良についても、クレームを言っている本人には「商品に期待していた」「使いたかったのに使えなくてがっかり」という気持ちがあります。普通はその気持ちを真っすぐ伝えるのではなく、怒りをぶつけてきます。だから、まずは「期待して買っていただいたのに、がっかりさせてしまい申し訳ありません」と根底にある気持ちをYESでしっかり受け止めてください。クレーム客こそ本当のお客さまともいいます。英会話学校のお母さんの例のように、そこから根強いファンが生まれることもあるんです。
<第7回と第8回のまとめ>
1 臆測と事実を区別して考える
2 愛はブーメランなので、はじめに自分から関わる
3 会話の始まりは「YES」で肯定し、相手の感情を受け止める