ビジネスコミュニケーション手法の改善(第10回)
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公開日:2019.10.17
どんな違いがあるか、企業の合併についての記事を例に説明しましょう。
スクープは、当事者や関係者が発表する前に書くことが前提になります。記者会見やプレスリリースの後では、他紙と同着になってしまうからです。これは企業合併でも同じです。合併する2社が社内での手続きを終えて記者会見やプレスリリースをしてしまえば、記事は他紙と同着になってしまいます。言い換えると、記事は「ニュースが正式に決まる前」に書く必要があるわけです。
では、どの段階で記事を書けばいいのでしょう。
一般に合併が実現するまでには、構想が浮上してから数カ月、場合によっては1年以上の時間を要します。
例えば最初は、A社とB社の社長が秘密裏に会食します。この非公式なトップ会談で、お互いに合併の可能性を探るという合意がなされます。ただし、この段階では、トップ同士が個人レベルで「合併の可能性を探ることを決めた」だけです。
翌日以降、両トップが企画担当役員など、ごく少数の腹心に手法やメリット・デメリットなどの研究を命じるでしょう。
お互いが「これはいけそうだ」ということになると、両社は守秘義務契約を結び、水面下で正式な交渉に入ります。この段階になると、それぞれが銀行や証券会社と契約を結び、法律や金融に関する助言を得ながら検討を進めます。監督官庁がある業界の場合は、合併後の認可を得られるかどうか、非公式に打診もしなければなりません。いわゆる根回しです。
こうした段階を経て、両社が合併の実現可能性が高いと判断すれば、それぞれが取締役会での決定を経て、合併条件などをめぐる最終的な交渉に入るという「基本合意」をします。合併後の社名など、細かい条件はまだ決まっていないこともありますが、企業が記者会見を開くのはだいたい、この段階です。
その後、細かい条件が決まったら「最終合意」の手続きをします。さらに株主総会での決議などを経て合併が実現するのです。
このケースで、記者にとって最初のチャンスは、A社とB社が水面下で交渉を始めた段階でしょう。
取材の結果、記者が合併構想の証拠をつかんだとしましょう。ただし、この段階では「A社とB社が合併の可能性を探っている」という事実しかありません。
両社が示す条件によっては破談になりますし、合併後の会社が業界の中で独占的シェアを持つ場合、公正取引委員会が認めない可能性もあります。
ただ、2社が合併する意思を持って話し合っているのは事実です。
このようなケースで、記者は「A社とB社は合併する方向で検討に入った」という表現を使って記事を書き出します。
これでお分かりのように、「~の方向で検討に入った」という表現が使われるのは、かなり流動的な要素が残っている段階です。実際、同じ記事の中で「A社とB社の間では合併条件をめぐってなお隔たりがあり、交渉が難航する可能性もある」などと、先行きが不透明であることを明記する場合もあります。
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執筆=松林 薫
1973年、広島市生まれ。ジャーナリスト。京都大学経済学部、同大学院経済学研究科修了。1999年、日本経済新聞社入社。東京と大阪の経済部で、金融・証券、年金、少子化問題、エネルギー、財界などを担当。経済解説部で「経済教室」や「やさしい経済学」の編集も手がける。2014年に退社。11月に株式会社報道イノベーション研究所を設立。著書に『新聞の正しい読み方』(NTT出版)『迷わず書ける記者式文章術』(慶応義塾大学出版会)。
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情報のプロはこう読む!新聞の正しい読み方